有川浩の『植物図鑑』を読みはじめてから、やたら俯いてキョロキョロと地面を見ながら歩くようになってしまった。そのベタ甘なストーリー展開は別として、野草に関わる話は豊かで楽しい。美味しそうと思った素人が、そこら辺の雑草をめったやたらに抜いて食べないようにさりげなく注意を促してくれているのもうれしい。
この本、以前から読書メーターの”読みたい本”に登録していて、読もう読もうと思っていたのだけど、なかなか買えないでいた。私のブログ『こんな気持ちでいられたら(こんきも)』の1,000日連続投稿を達成した時に、「これからは勉強します!」などと大見得をきった手前もあって、その他の”読みたい本”同様封印して、その日から早速勉強開始とばかりに国際学会の下準備のための論文を読みはじめていた。私は、ブログの読者に対してたいへん律儀な、都内の病院に勤務する中年の病理医だ。
そんな矢先に妻が、「ねえ、これとっても面白いのよ」と持ってきたのが『植物図鑑』だった。これが私の運の尽き、あの日の記事には「あと、読書にも」と付け加えていたのでよしとしようと、結局ページをめくってしまった。
さすがは有川作品、あっという間にはまってしまった。テーマは、野草、というか雑草。『阪急電車』や『三匹のおっさん ふたたび』でも、ちょこっとずつ触れていたので、すっと入ることができた。それに、料理。大した造詣の深さだ。
こういう、どっぷりはまってしまうことのできる本に巡り合えると通勤がずいぶん楽になる。
私が、通勤電車内ですることといえば、大体次のようなことだ。
(1)論文、教科書といったグレードの高い文献を読む。そのほか、学会発表の準備、論文の添削。
(2)英語教材などの軽い勉強をする
(3)普通の読書
(4)スマホをいじる(ブログ、ネットニュース、メール)
(5)ぼんやりする、寝る
さすがに、この冬で50歳、ゲームはやらない。
ほかにもいろいろできることあるが、なにせ、1時間も乗っているので実のあることがしたい。少なくとも朝は、前の晩に飲み過ぎて二日酔いでない限りは寝ないで何かしている。だから、できることのうち、座ることができたらまずは(1)の勉強で、集中して作業する。そうでないときは(2)(3)(4)のいずれかとなる。
(3)の“普通の読書”でも、こんな風に楽しい本に出会えさえすれば、立ったままでもあまり気にならず、小説の世界に浸ってしまうことができる。そんなことで、『植物図鑑』は座れなくても、つらい通勤に立ち向かう元気を与えてくれる類の本となった。
だからその日も、鎌倉で座れなくても、大船では何人かの人が東海道への乗り換えで降りるので大丈夫だろうから、それまでの6分くらいはこの本を読みながら立っていこう、と思ったのが失敗の始まりだった。