この節分、「トランプは外」で―アメリカ新大統領就任に思う―
同志社大学大学院教授 浜 矩子(のりこ)さん
トランプ米国大統領が誕生してしまった。筆者は今、トランプさんをトラパンさんと呼ぶことにしようと決意を固めつつある。なぜなら、彼のことが、どうしてもトラの皮のパンツを履いた鬼さんにみえてしまうからである。ばっちりスタイリングされたヘアの間から、角がにょきっと生えている感じもある。
アメリカの魂の荒廃
トラパン男をホワイトハウスに送りこんだものは何か。それは、アメリカの魂の荒廃だ。かつて、「アメリカンドリーム」といえば、それは外に向かって開かれていて、大らかで伸びやかなアメリカ精神を象徴する言葉だった。誰でも、どこからでも、いつでも、アメリカにおいでよ。みんなの夢が叶う場所。それがアメリカだ。アメリカ人たちが胸を張ってそう謳い上げ、そう謳い上げられる自分たちを誇りに思っていた。この精神をしっかり持ち続けていかなければいけない。そのような気概にも満ちている。それが、アメリカ的心意気だったはずである
格差・貧困の根底は何か
この清新さをアメリカから奪ったものは何なのか。ここで注意しておかなければいけないことが一つある。それは、この「何なのか」という問いかけへの答えが、決して「それはグローバル化だ」という風になってはいけないということだ。グローバル化は単なる現象だ。それが、格差や貧困を呼び込む諸悪の根源だと思い込んではいけない。問題なのは、グローバル化という現象に対する国々の対処の下手さだ。グローバル化に便乗して我欲を丸出しにする人々の不見識だ。
ここを峻別しないで、「反グローバル」のノロシを上げると、トラパン男とその仲間たちの術中にはまる。そして「アメリカ・ファースト」だの「強い日本を取り戻す」といった類の国粋主義の雄叫びに惑わされてしまう。
ドナルド・トランプ氏の大統領就任に抗議する「女性のマーチ」で声をあげる人びと(米・マイアミ)
グローバル時代を共生・包摂の時代に
グローバル時代を、善良で賢い市民たちの国境を越えた共生の時代にしなければいけない。そして、人種・国籍を超えた包摂の時代にしなければならない。多様なる者たちが幅広く抱きとめ合う。そのようなグローバル時代を、我々はトラパン的なるものから守り抜かなければいけない。
日本の我らが最も警戒すべきことは何か。それは、「強い日本を取り戻す」男が一段と勢いづくことだ。アメリカが面倒を見てくれないなら、日本が自衛力を強化するしかありませんよね。この論理で戦争が出来る国への道をひた走る。この姿勢がさらに前のめりになって行くことを許してはいけない。
希望の核心―声をあげる市民たち
アメリカをこれ以上の魂の荒廃から救うには、どうしたらいいのか。希望の核心はどこにあるのか。それは、アメリカ内外で反トランプの声を上げる市民たちの存在だ。息長く、粘り強く、我ら市民たちが声を上げ続ける必要がある。それこそ、グローバルな連帯を持って分断と排外の政治に「否」をつきつける。この声が絶えない限り、希望はある。この声こそ、希望の音色だ。
(はまのりこ)
「全国革新懇ニュース」2017年2月10日付掲載
トランプを大統領に押し上げたのは、皮肉にも米国民に広がった格差と貧困だった。
「グローバル化」を、善良で賢い市民たちの国境を越えた共生の時代に。人種・国籍を超えた包摂の時代に。
同志社大学大学院教授 浜 矩子(のりこ)さん
トランプ米国大統領が誕生してしまった。筆者は今、トランプさんをトラパンさんと呼ぶことにしようと決意を固めつつある。なぜなら、彼のことが、どうしてもトラの皮のパンツを履いた鬼さんにみえてしまうからである。ばっちりスタイリングされたヘアの間から、角がにょきっと生えている感じもある。
アメリカの魂の荒廃
トラパン男をホワイトハウスに送りこんだものは何か。それは、アメリカの魂の荒廃だ。かつて、「アメリカンドリーム」といえば、それは外に向かって開かれていて、大らかで伸びやかなアメリカ精神を象徴する言葉だった。誰でも、どこからでも、いつでも、アメリカにおいでよ。みんなの夢が叶う場所。それがアメリカだ。アメリカ人たちが胸を張ってそう謳い上げ、そう謳い上げられる自分たちを誇りに思っていた。この精神をしっかり持ち続けていかなければいけない。そのような気概にも満ちている。それが、アメリカ的心意気だったはずである
格差・貧困の根底は何か
この清新さをアメリカから奪ったものは何なのか。ここで注意しておかなければいけないことが一つある。それは、この「何なのか」という問いかけへの答えが、決して「それはグローバル化だ」という風になってはいけないということだ。グローバル化は単なる現象だ。それが、格差や貧困を呼び込む諸悪の根源だと思い込んではいけない。問題なのは、グローバル化という現象に対する国々の対処の下手さだ。グローバル化に便乗して我欲を丸出しにする人々の不見識だ。
ここを峻別しないで、「反グローバル」のノロシを上げると、トラパン男とその仲間たちの術中にはまる。そして「アメリカ・ファースト」だの「強い日本を取り戻す」といった類の国粋主義の雄叫びに惑わされてしまう。
ドナルド・トランプ氏の大統領就任に抗議する「女性のマーチ」で声をあげる人びと(米・マイアミ)
グローバル時代を共生・包摂の時代に
グローバル時代を、善良で賢い市民たちの国境を越えた共生の時代にしなければいけない。そして、人種・国籍を超えた包摂の時代にしなければならない。多様なる者たちが幅広く抱きとめ合う。そのようなグローバル時代を、我々はトラパン的なるものから守り抜かなければいけない。
日本の我らが最も警戒すべきことは何か。それは、「強い日本を取り戻す」男が一段と勢いづくことだ。アメリカが面倒を見てくれないなら、日本が自衛力を強化するしかありませんよね。この論理で戦争が出来る国への道をひた走る。この姿勢がさらに前のめりになって行くことを許してはいけない。
希望の核心―声をあげる市民たち
アメリカをこれ以上の魂の荒廃から救うには、どうしたらいいのか。希望の核心はどこにあるのか。それは、アメリカ内外で反トランプの声を上げる市民たちの存在だ。息長く、粘り強く、我ら市民たちが声を上げ続ける必要がある。それこそ、グローバルな連帯を持って分断と排外の政治に「否」をつきつける。この声が絶えない限り、希望はある。この声こそ、希望の音色だ。
(はまのりこ)
「全国革新懇ニュース」2017年2月10日付掲載
トランプを大統領に押し上げたのは、皮肉にも米国民に広がった格差と貧困だった。
「グローバル化」を、善良で賢い市民たちの国境を越えた共生の時代に。人種・国籍を超えた包摂の時代に。