「東京難民」という映画を見た。若者よ是非見るべしという映画。

父親が学費と生活費を仕送りしていた学生がいる。(東京の「三流大学」という設定。)母親が大学入学直前に死去し、建築事務所をやってる父はフィリピンパブに入り浸るようになる。学生はもう帰省せず、父ともしばらく会っていない。ある日大学へ行くと、学生カードが無効になっていて、学生課に行くと「学費未納」で除籍になったと告げられる。そんなバカな。あわてて帰ってみると、家は差し押さえられ誰もいない。東京に戻ると、住んでいたマンションも家賃未納で追い出される。(敷金、礼金不要の代わり、家具付きで鍵の使用料だけ払うという契約だったのだそうだ。部屋を借りてるというか、ホテルの長期滞在みたいなシステムだ。)
かくして、突然あっという間に「転落」してしまったのである。それまでは結構「イマドキの軽い学生」だった。それなりにモテてたみたいだし。ところが、まず家を失い、「居場所」がなくなる。とりあえずカネを何とかせねばならず、「ネットカフェ難民」となり、ネットで見つけた「ティッシュ配り」。さらに「治験ボランティア」。
せっかく大金をつかんだら、警察の不審尋問で「腕に注射痕が多く、大金を持っている」と疑われ、本署まで来いと「警察権力の横暴」。
出てきたら「飲みに行こう」と誘う子に付いて行って、「ホストクラブ」に連れて行かれる。誘った子のおごりかと思って高い酒を飲んでたら、翌朝20数万の請求書を突き付けられる。
しょうがないからホストになって返そうと直訴して認められ、ホストクラブに勤めることになるが、さらに難題が次々と生じて、カネに追われ、暴力団に追われ、ホストで知り合った女性との関係もどうなっていくか…とたった半年で人間生活の底の底まで見てしまうはめとなり、今は多摩川河川敷でホームレス生活。
これは物語の作りとしては「新宿地獄めぐり」という話である。いろいろと新宿周辺の、フツーに生活してると見ないで生きていける「日本の裏」を見せてくれる。そういう意味で、非常に実践的教訓の得られる映画で、若い人は是非「世の中の仕組み」を知る意味で見ておいた方がいい。親がかりで生活してる学生の「親が急に支えてくれなくなったら」という設定の「社会実験」と言ってもいい。だから、映画芸術としての完成度とか、人間描写の深さなどを求めて見る映画ではない。出てくる人間は、皆生き生きと演じているが、あまり有名でない俳優が演じていることが多く、ある種の「類型的人間タイプ」を演じている。建設現場のアパートやホームレスの段ボールハウスには、主人公に社会を見る目を養ってくれる知恵ある年長者がいる。主人公は初めて本当の社会、人生を知ることになる。ゴーリキーの著書にあるように、それこそが「私の大学」だったのである。
一応教訓的なことを書いておくと、まず「いきなり除籍」「いきなり家追い出し」はないでしょう。実際、冒頭で不動産会社から「内容証明書付郵便」なるものが届くが、主人公は読まずに投げ出す。人生で「内容証明書付郵便」なんてものにお目にかかることはまずないだろう。(僕は一度もない。)何よりもまず、その郵便はじっくり読むべきだった。大学だって同じで、突然除籍になることはないだろう。何回か警告があったはずで、この大学もある程度待って除籍にしたらしい。全く意識せずに「ノーテンキ」に生きていたのである。
次に「酒」と「タバコ」と「ギャンブル」。主人公も大事な時にパチンコでカネを使ってる。最初のうちはタバコを吸ってるので、ずいぶんタバコ代もかかったはず。それより、なにより「酒」で、酒で酔っ払って意識がないうちに重大な出来事が起こっていることが多い。若い時は失敗しがちで、世の中は怖い人ばかりだと思い過ぎると何もできない。酒の失敗も程度問題で、普段の飲み会で飲み過ぎるくらいは問題ないけど、大金のかかった段階ではシラフでいないと危ない。これは決定的な問題である。10万、20万なら親に泣きつけば何とかなることが多い(だまされたことを打ち明けるのは恥ずかしいけど)。しかし、100万を超えるとちょっと厄介なことになる。急には余裕がない場合、カードローンやサラ金で借りることなり、利子がかさんで抜け出せなくなる。他にもいっぱいあるけど、それは映画を見てもらうとして、そういう人生の実践的教訓の詰まった映画だと思う。
原作があるということで、福澤徹三の原作は光文社文庫に収録されている。筋は映画とは多少違っているようで、ウィキペディアのサイトで詳細を知ることができる。映画は親を描かないが、原作は父にめぐり合うとある。またホスト時代に主人公に付いたナースの茜という女性が、映画ではヒロイン格に描かれている。監督は佐々部清で、「半落ち」「ツレがうつになりまして」などを作った人で、「チルソクの夏」「夕凪の街 桜の国」がキネ旬ベストテンに入っている。どれも素直な作りで、丁寧にストーリイを肉付けしていく。その分圧倒的な情感に乏しいかもしれないけど、安心して見ていられる社会派エンターテインメントが多い。今回の映画も、絶対に飽きることなく最後まで目が離せないけど、まあ一種の情報映画と言えるかもしれない。


父親が学費と生活費を仕送りしていた学生がいる。(東京の「三流大学」という設定。)母親が大学入学直前に死去し、建築事務所をやってる父はフィリピンパブに入り浸るようになる。学生はもう帰省せず、父ともしばらく会っていない。ある日大学へ行くと、学生カードが無効になっていて、学生課に行くと「学費未納」で除籍になったと告げられる。そんなバカな。あわてて帰ってみると、家は差し押さえられ誰もいない。東京に戻ると、住んでいたマンションも家賃未納で追い出される。(敷金、礼金不要の代わり、家具付きで鍵の使用料だけ払うという契約だったのだそうだ。部屋を借りてるというか、ホテルの長期滞在みたいなシステムだ。)
かくして、突然あっという間に「転落」してしまったのである。それまでは結構「イマドキの軽い学生」だった。それなりにモテてたみたいだし。ところが、まず家を失い、「居場所」がなくなる。とりあえずカネを何とかせねばならず、「ネットカフェ難民」となり、ネットで見つけた「ティッシュ配り」。さらに「治験ボランティア」。
せっかく大金をつかんだら、警察の不審尋問で「腕に注射痕が多く、大金を持っている」と疑われ、本署まで来いと「警察権力の横暴」。
出てきたら「飲みに行こう」と誘う子に付いて行って、「ホストクラブ」に連れて行かれる。誘った子のおごりかと思って高い酒を飲んでたら、翌朝20数万の請求書を突き付けられる。
しょうがないからホストになって返そうと直訴して認められ、ホストクラブに勤めることになるが、さらに難題が次々と生じて、カネに追われ、暴力団に追われ、ホストで知り合った女性との関係もどうなっていくか…とたった半年で人間生活の底の底まで見てしまうはめとなり、今は多摩川河川敷でホームレス生活。
これは物語の作りとしては「新宿地獄めぐり」という話である。いろいろと新宿周辺の、フツーに生活してると見ないで生きていける「日本の裏」を見せてくれる。そういう意味で、非常に実践的教訓の得られる映画で、若い人は是非「世の中の仕組み」を知る意味で見ておいた方がいい。親がかりで生活してる学生の「親が急に支えてくれなくなったら」という設定の「社会実験」と言ってもいい。だから、映画芸術としての完成度とか、人間描写の深さなどを求めて見る映画ではない。出てくる人間は、皆生き生きと演じているが、あまり有名でない俳優が演じていることが多く、ある種の「類型的人間タイプ」を演じている。建設現場のアパートやホームレスの段ボールハウスには、主人公に社会を見る目を養ってくれる知恵ある年長者がいる。主人公は初めて本当の社会、人生を知ることになる。ゴーリキーの著書にあるように、それこそが「私の大学」だったのである。
一応教訓的なことを書いておくと、まず「いきなり除籍」「いきなり家追い出し」はないでしょう。実際、冒頭で不動産会社から「内容証明書付郵便」なるものが届くが、主人公は読まずに投げ出す。人生で「内容証明書付郵便」なんてものにお目にかかることはまずないだろう。(僕は一度もない。)何よりもまず、その郵便はじっくり読むべきだった。大学だって同じで、突然除籍になることはないだろう。何回か警告があったはずで、この大学もある程度待って除籍にしたらしい。全く意識せずに「ノーテンキ」に生きていたのである。
次に「酒」と「タバコ」と「ギャンブル」。主人公も大事な時にパチンコでカネを使ってる。最初のうちはタバコを吸ってるので、ずいぶんタバコ代もかかったはず。それより、なにより「酒」で、酒で酔っ払って意識がないうちに重大な出来事が起こっていることが多い。若い時は失敗しがちで、世の中は怖い人ばかりだと思い過ぎると何もできない。酒の失敗も程度問題で、普段の飲み会で飲み過ぎるくらいは問題ないけど、大金のかかった段階ではシラフでいないと危ない。これは決定的な問題である。10万、20万なら親に泣きつけば何とかなることが多い(だまされたことを打ち明けるのは恥ずかしいけど)。しかし、100万を超えるとちょっと厄介なことになる。急には余裕がない場合、カードローンやサラ金で借りることなり、利子がかさんで抜け出せなくなる。他にもいっぱいあるけど、それは映画を見てもらうとして、そういう人生の実践的教訓の詰まった映画だと思う。
原作があるということで、福澤徹三の原作は光文社文庫に収録されている。筋は映画とは多少違っているようで、ウィキペディアのサイトで詳細を知ることができる。映画は親を描かないが、原作は父にめぐり合うとある。またホスト時代に主人公に付いたナースの茜という女性が、映画ではヒロイン格に描かれている。監督は佐々部清で、「半落ち」「ツレがうつになりまして」などを作った人で、「チルソクの夏」「夕凪の街 桜の国」がキネ旬ベストテンに入っている。どれも素直な作りで、丁寧にストーリイを肉付けしていく。その分圧倒的な情感に乏しいかもしれないけど、安心して見ていられる社会派エンターテインメントが多い。今回の映画も、絶対に飽きることなく最後まで目が離せないけど、まあ一種の情報映画と言えるかもしれない。