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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「ネブラスカ」

2014年03月19日 22時55分14秒 |  〃  (新作外国映画)
 本当は震災3年で原発問題を書くつもりが風邪を引いてしばらくお休みしてしまった。疲れてるだけだと思って、土曜夜にチケットを買ってた落語会「三遊ゆきどけの会」(国立演芸場)に頑張って行った。日曜は新文芸坐で有馬稲子トークショーに行くつもりが、もう無理だなと思い休んでたけど、一日休んだから大丈夫とブログも書いた。でもその後月火と休んでしまったわけ。で、今日は外出してきて、見た映画「ネブラスカ」を先に紹介しておきたい。

 新宿武蔵野館で見たのだが、先に「早熟のアイオワ」という映画を見た。これはジェニファー・ローレンスの初主演映画で、困難な環境で生きる少女たちを描く作品。「キック・アス」シリーズで有名になったクロエ・グレース・モレッツも出ていて、2008年の作品が今公開されたわけである。それはともかく、題名にあるアイオワとかネブラスカ、アメリカの州名だということは大体知ってるのではないかと思うが、では、どこだと言われたら首をかしげる人がほとんどだろう。どちらもアメリカ本土の中西部と言われる地方だが、ちょうどアメリカの中心部と言えるあたりである。五大湖の南、大都市シカゴがあるのがイリノイ州、その西がアイオワ州で、さらに西がネブラスカ州である。そのネブラスカの州都がリンカーンで、そこが映画「ネブラスカ」で主人公が目指す町となっている。

 最近、どちらもアカデミー作品賞ノミネートの「アメリカン・ハッスル」「ダラス・バイヤーズクラブ」を紹介したが、この「ネブラスカ」もアカデミー賞ノミネート作品。僕はこの映画が一番好きだし、傑作だと思う。ロード・ムービーで、旅をしながら父と息子、さらに母や兄、親せきとの関係があぶりだされていき、アメリカの地方の状況も描かれていく。アメリカの風景を描く撮影も素晴らしく、見ていて心に沁みる。ただし、設定自体はかなり苦い。冒頭、老人が高速道路を歩いていて、パトカーに止められる。こういうことはアメリカでもあるんだ。その老人ウディはモンタナ州(カナダと接する州)に住んでいて、なんかの懸賞で100万ドルに当選したという郵便をもらって、賞金を取りにネブラスカまで歩いて行こうとしているのである。息子で電気店を経営しているデイビッドが呼ばれて引き取るが、最近は毎日こうして出ているらしい。その当選クジはどう見てもインチキで、周りはみな止めてるのだが、本人は当たってると信じ込んでる。ほとんどボケかかってるのではないか。

 という冒頭部分が、まず白黒で示される。えっ、モノクロ映画だったのかという感じだが、アメリカの自然を映し出すカメラが美しく、白黒映画を今作るのもいいものだと思う。結局、本人が思い込んでるので仕方ないし、たまに親子で一緒に出掛けるのもいいかという感じで、デイビッドなら仕事を休もうと思えば休めないことはないので、車で連れて行くことになる。でも父は昔から飲酒癖があり、(運転免許も取り上げられている)、旅のあちこちで飲み明かすことになる。「父さん、酒を飲んでるのか?」「ビールは酒ではない」ってな感じである。だんだん息子の方も、たまには親子で飲もうかという感じになる。そして、昔住んでいたホーソーンという町に着く。これは架空の町ということだが、ここに親せきが住んでいて、昔はウディも住んでいた。母と知り合ったのもこの町。自動車工場を経営していたという。例によって飲みに出かけ、昔の知人にも会う。息子は賞金の話はするなと釘を刺しておいたのだが、酔っぱらうとやはりしゃべってしまい、大金持ちになって帰ってきたとあっという間に広まってしまう。そこに母と兄もやってきて、家族と親せきの様々な姿が見えてくる…。さて、この賞金話の真相は…というところは映画で確認を。

 この父と母のイザコザとダメ具合が実に身に沁みる。父ももうボケかかっているとしか思えないが、それでも賞金をもらいたい心情には「思い」があるのである。父も昔から酒で失敗してきたらしいが、母もいつも一言多くけっこうウットウシイ。そういう実によく判る夫婦の関係がリアリティを持って描かれている。この老父と演じているのが、ブルース・ダーンという役者で、西部劇を始め様々な娯楽映画で脇役を演じてきたが、初めてのアカデミー賞主演男優賞ノミネート。その前に昨年のカンヌ映画祭男優賞。この老人役が素晴らしい。前にデビッド・リンチの「ストレイト・ストーリー」という芝刈り機を運転して兄に会いに行く老人の映画があったが、これは歩いてモンタナからネブラスカに行こうというんだから、無茶振りはさらに増している。

 監督はアレクサンダー・ペインで、「アバウト・シュミット」「サイドウェイ」「ファミリー・ツリー」を監督した人である。このうち、「サイドウェイ」「ファミリー・ツリー」ではアカデミー賞脚色賞を受賞している。今回はオリジナル脚本をボブ・ネルソンという人が書いてアカデミー賞にノミネート、他に母親役のジューン・スキップの助演女優賞、監督賞、撮影賞と6部門でノミネートされたが、結局受賞はしなかった。でもアカデミー賞を取れなかったのが、むしろこの映画の勲章で、地方の生活と人生をしみじみ見つめた地味系の白黒映画だから、映画祭向けの作品だろう。ペイン監督の作品は上記3本とも見ているが、好きなタイプの映画が多い。特にカリフォルニアのワイナリーを独身最後の日々にめぐり歩こうという「サイドウェイ」が面白かった。ロード・ムービーが多い。この映画も滋味あふれる映画で、是非おススメ。こういう個人情報集め目当てと思う「私設宝くじ」みたいなのはアメリカにも多いのだろう。老親の問題も身につまされる。
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