尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

オリンピックはどうあるべきか

2016年06月19日 23時06分23秒 | 社会(世の中の出来事)
 東京都政東京五輪のことをしばらく書いていたので、そもそも都政や五輪をどう考えるべきか、自分の考えをマジメに書いておきたい。まずは「オリンピックのあり方」の問題。オリンピックは、世界最高のスポーツ選手が競い合うわけで、そのレベルの高い争いは見ていて非常に面白い。もうテレビではスポーツ中継ぐらいしか楽しめないので、今度のリオ五輪も楽しみではある。(「は」と限定を付けたのは、昼夜がちょうど逆の時差だから、さすがに生で見られるのは少ないだろうと思うから。)

 だけど、今のオリンピックは巨大化しすぎてしまった。そのため開催可能な都市が減ってしまった。2022年冬季五輪は北京とアルマトイ(カザフスタンの首都)の二つしかなかった。(2024年夏季五輪は、ローマ、パリ、ブダペスト、ロサンゼルスの4都市が立候補している。2020年には最終選考に残ったイスタンブール、マドリードの他、ローマ、バクー、ドーハが立候補していた。) 

 そのような「巨大化」は、プロ選手の参加を可能にし、競技数を多くしたことによる。64年の東京五輪にはなかったテニスやゴルフも、今は五輪種目である。どっちもプロ選手が出られないというんだったら、ほとんど競技としての魅力がなくなるに違いない。プロとかアマとか言っても、選手のほとんどは毎日トレーニングを仕事にしている人ばかりである。昔の「ソ連圏」では「ステートアマ」と呼ばれる、「国家お抱えの選手育成」を行っていた。日本でも企業に支えられた、「仕事はスポーツ」という選手が多い。軍や警察、あるいは体育大学などで、仕事と競技が一体化している人も多い。

 そういう意味で、五輪選手のほとんどは、昔も今も「実質的にはプロ」である。競技の質という意味でも、人々の期待という意味でも、いまさらプロを排除ということはできない。そうして各競技にプロも参加するとなると、テレビ放送のコンテンツとしての価値が高まる。だから放映権が高く売れる。オリンピック種目ではない競技でも、世界で注目を浴びスポーツ界で生き残っていくためには、ぜひオリンピック種目に選ばれテレビで世界に放映されたいと願う。そうして種目がどんどん増えていく。昔は女性がやるとは考えられていなかったマラソンやサッカー、レスリング、柔道、重量挙げなども、今は男女ともにやっている。それが当たり前になったし、近年の日本のメダルはこれら種目の女子が獲得したものが多い。しかし、女子競技の実施は、競技数が増えたというのと同じことである。

 それだけ競技が増えても、要するにテレビ放映権が高く売れればいいわけである。だけど、世界的な経済不況やインターネットの普及などで、オリンピック放送権が一時より高く売れなくなっているのではないだろうか。そうなると、巨大化、種目数増加は負担増になるだけだ。ちょっと調べてみると、64年東京五輪では、「20競技」だった。面倒だと思うが一応全部挙げておく。陸上、水泳、水球、体操、柔道、レスリング、自転車、バレーボール、バスケットボール、サッカー、ボクシング、ボート、セーリング、カヌー、フェンシング、重量挙げ、ホッケー、近代五種、馬術、射撃。以上のうち、女子種目が実施されたのは、陸上、水泳、体操、バレーボール、フェンシングのたった5種目。意外なほど少ない。

 2020年東京五輪では「28競技」が予定されている。そのうえ、さらに5種目も増やそうとしている。増えているのは以下の競技。アーチェリー、バドミントン、ゴルフ、ハンドボール、7人制ラグビー、卓球、テコンドー、テニス、トライアスロン。(なお、水球は昔は水泳と別の競技に分類していたが、今は水泳の中に入れる。)だけど、細かく言うと実はもっと多い。ビーチバレーはバレーボールの種目に含まれる。体操の中に、トランポリン新体操があり、水泳の中に飛込みと競泳とシンクロナイズドスイミングと水球がある。もちろん全部女子もある。(新体操とシンクロナイズドスイミングは、女子のみで男子がないが、独立競技ではないからいいのだろうか。)

 ちょっとここまでで長くなってしまったが、要するにこれだけの競技数をこなすだけの会場が必要だということである。オリンピックは時期を決めて各競技を「同時多発」で行うから、たくさんの会場が必要になる。さきごろバレーボールの世界最終予選が行われたが、その場所は東京体育館だった。ところが、本番では卓球がそこを使う。バレーボールは前は駒沢体育館で行ったが、今回は「東京ベイエリア」に「有明アリーナ」というのを新設することになっている。それは当初の計画で、「半径8キロ以内」に全施設がある「コンパクト五輪」を打ち出していたためである。だから、他にも水泳、体操、ホッケー、アーチェリーなどの会場は、これからベイエリアに作っていくのである。

 ところが、その「コンパクト五輪」はもう崩れている。ゴルフやセーリング、自転車のマウンテンバイクなどは当然だが、それ以外でもバスケはさいたまスーパーアリーナで行うし、フェンシング、テコンドー、レスリングは幕張メッセで行う。(あるいはパラリンピックのゴールボール、テコンドー、シッティングバレーボール、車いすフェンシングも同様に幕張メッセ。)予選リーグと決勝、あるいは個人と団体などを行うから、バレー、バスケ、バド、卓球、ボクシング、体操、フェンシング、レスリングなど屋内競技を行える会場が全部別々にいるわけである。屋外競技も同様。しかし、今後世界大会や国内大会などがあっても、ここまで「同時多発」ではない。だから、仮設で対応する競技もある。これだけ多数の会場を持つ、あるいは整備できる経済力を持つ都市は数少ないだろう。

 僕は前回に「いっそ返上しては」と書いた。それはもともとの開催計画をもとにして会場整備を行うなら、今後2兆円とか3兆円かかるというからである。それは負担できないと思う。だけど、もう4年前になるし、他の都市も手を上げにくいだろう。「やることの意義」もないわけではないだろう。だから、返上はせずにもっと穏当なやり方はないかと思うと、要するに「ベイエリア計画」を放棄すればいいのだと思う。もっとも、そこで考えられるのは、「東京五輪の真の目的」は何なのだろうということである。埋め立てたまま開発が進まない「ベイエリア地区の開発」を、オリンピックを名目にして国費を投入して整備しようという「都庁官僚」と「建設業界」の思惑が、2020年東京五輪なのかもしれない。そうだとすると、ベイエリア地区にいろいろと作ることは目的そのものだから、今さら放棄はできない。

 だけど、もうそんなことを言っている余裕はないだろう。「東京五輪」「都知事が中心」などと頑張りすぎず、「首都圏五輪」と考えれば、何も施設を新設することもない。大体、バレーボールは駒沢体育館が使えるのではないか。他の競技も神奈川、埼玉、千葉などの各県に立派な施設があるはずである。最初に世界に約束したものとずいぶん違うかもしれないが、新設する余裕がないんだからやむを得ないと交渉するしかない。組織委に対しても、IOCに対しても、タフ・ネゴシエイターとして臨める新知事を選んで、それを認めないなら返上しかなくなると言うべきだと思う。(ついでに言えば、国立競技場の工事も止めてしまい、横浜国際総合競技場(日産スタジアム)で開会式も行えばいい。五輪終了後の景気対策として、2021年から国立競技場を作り始めた方がいいのかもしれない。)

 今はプロ選手が多いということもあり、開会式にも出ず閉会式にも出ない選手が多くいる。また、開会式も巨大イベントになりすぎて、出席選手の負担になる規模になってしまった。そもそも、15日間程度の日程で開会式から閉会式まで、全競技を行うというのに無理がある。(というか、サッカーなどは開会式前に予選が開始される。一体、開会式とは何なのか。)全選手が一堂に集って、世界平和と友好の祭典を繰り広げるなどという理想は、もう存在する余地がない。どうせ無理なら、もう無理はしないで、30日ぐらいの「オリンピック月間」、あるいはもっと長くてもいいけど、そうした方がいいのではないか。それなら、バスケが終わったらバレーをやり、その後卓球を同じ会場でやるとかが可能になる。柔道、テコンドー、レスリング、フェンシングなども同じ場所でできる。

 そして、「都市連合」や「国家連合」が開催できるように変更する。それならば、世界でもっと開催できる場所が出てくるだろう。日本でも、福岡を中心に北九州地区で開催するとか、広島と岡山で共催するとかも可能性が出てくる。すでにサッカーのワールドカップは日韓で共催したし、ヨーロッパ選手権では前回はポーランドとウクライナで共催した、その前にもオランダとベルギー、スイスとオーストリアで共催した年がある。オリンピックも小国連合で開けるように変えていくべきだろう。そうやって「柔軟化」しないと、巨大となりすぎたオリンピックを開ける都市がなくなり、滅んでしまうのではないか。僕としては、むしろ「世界選手権の集中開催年」、2020年には各種競技が日本のどこかで世界選手権を開くことにするといったやり方に代わっていくのが、より望ましいのではないかと思う。が、まあ僕が言ってもどうしようもないだろう。でも、少なくとも2020年に関しては、「湾岸に新設する予定施設を近県に探す」というのは、常識にかなうと思うのだが。
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