最近ずっと小川洋子さんの本を読み続けている。時々他の本も読むけど、2カ月以上にわたって25冊ぐらい読んでいる。文庫本だけでもまだまだあって、読み終わらない。そのうち書こうと思っていたが、読み終わるのを待っているといつになるか判らない。政治や社会、教育の問題もまだまだ書くべきことが多いんだけど、書いてて楽しくなれない。僕が書いたら全部その通りになるんだったら、いくらでも書き続けるけど、そうじゃないわけだから、だんだん嫌になってくる。
ということで、他の問題を置いて、先に小川洋子の本の話を書いておこうなかな。何回か続く予定。場合によっては断続するかもしれない。小川洋子(1962.3.30~)という作家は、1991年1月に「妊娠カレンダー」で芥川賞を受けた。僕は芥川賞や直木賞、あるいは他の有名な新人賞の受賞作は、ぜひ読みたいと思っている人間である。単行本で読んだ作家より、文庫になるのを待って読んだ作家の方が多い。(買ったまま、まだ文庫本を読んでない作家もいるが。)「妊娠カレンダー」は当時女性作家の作品として、非常に評判になったので、すぐに読んだ。そして「なかなか面白い」と思った。
それから10年ちょっと、小川洋子は「博士の愛した数式」(2003)で、第1回本屋大賞を受賞する。歴史ある読売文学賞も受賞したけど、それ以上に全国の書店員が自分たちで多くの人に読んで欲しい本を選ぶという「本屋大賞」の、それも第一回目を受賞したということで大きな評判になった。事故で記憶が短時間しか持てなくなった数学者と、家政婦と子どもの物語。博士は阪神ファンで、阪神時代の江夏の背番号「28」が「完全数」だという話は一度読んだら忘れられない。(ちなみに小川洋子は有名な阪神ファン。)映画化もされ、2006年のベストテン7位に選出されている。
この「博士の愛した数式」は大ベストセラーとなり、面白そうだと思って読んだ。そして、確かに面白かった。でも、その後全然読んでなかった。どうも作品世界に「内向性」というか「閉鎖性」のような感じがした。文学に「内向」や「閉鎖」は必要だとは思っているけど、今ひとつ僕の志向と会わないような気がしたのである。小川洋子は第104回の芥川賞作家だが、その頃の芥川賞作家では池澤夏樹(98回)、辻原登(103回)、奥泉光(110回)、川上弘美(115回)などの人はその後も読んでいたが、小川洋子は読まないできたのである。
だけど、それは大間違い。確かに「内向」「閉鎖」はほかの作品にもあるが、ロマネスクな作品世界に完全に捕らえられてしまった。「孤独」で「静寂」で「透明」な世界だが、もっと言うと、「秘密」や「背徳」の香りさえ漂っている。優等生の読みものではない。安全な生き方を志向する人には、危険で近づかない方がいい。そんな作品をたくさん書き続けていたのである。そして短編集や連作長編も多く、エッセイや対談も面白い。読みやすい本が多いのである。忙しいときや疲れてる時でも読みやすい。
今回読み始めたのは、先に書いた「日本文学100年の名作」に収録されていた(そして、最終巻の第10巻の題名に採用されていた)「バタフライ和文タイプ事務所」に魅惑されたからである。その特別な「官能性」、それも「活字」を通して「文字の官能世界」に読者を引きずりこむ。大した能力だし、すごく面白い。ワクワクする。それはどの本に入っているかというと、「海」という新潮文庫に入っていた。(元の本は2006年に刊行。)表題作の「海」もそうだし、「風薫るウィーンの旅六日間」なども、独自の不思議な世界で魅せられた。続いて、同じ新潮文庫の「まぶた」(2001)。これも素晴らしい。表題作は長編「ホテル・アイリス」とほぼ同様の設定の作品だが、「背徳性」のロマンが際立っている。「バックストローク」という作品も、「偶然の祝祭」(角川文庫)の中に似たような設定が出てくる。このような「自己反復」というか「セルフ・リメイク」も特徴である。
角川文庫にある「アンジェリーナ」(1993)は佐野元春の曲に想を得て書いたという短編集。あるいは世界の片隅で生きている不思議な人間を描く「夜明けの縁をさ迷う人々」(2007)など角川文庫に入っている短編集は読みやすくて入門編には最適かと思う。新潮文庫の「まぶた」「海」は「文学」になじんできた人でないと付いていけないかもしれないぐらい、独自で孤独な世界である。
ということで、他の問題を置いて、先に小川洋子の本の話を書いておこうなかな。何回か続く予定。場合によっては断続するかもしれない。小川洋子(1962.3.30~)という作家は、1991年1月に「妊娠カレンダー」で芥川賞を受けた。僕は芥川賞や直木賞、あるいは他の有名な新人賞の受賞作は、ぜひ読みたいと思っている人間である。単行本で読んだ作家より、文庫になるのを待って読んだ作家の方が多い。(買ったまま、まだ文庫本を読んでない作家もいるが。)「妊娠カレンダー」は当時女性作家の作品として、非常に評判になったので、すぐに読んだ。そして「なかなか面白い」と思った。
それから10年ちょっと、小川洋子は「博士の愛した数式」(2003)で、第1回本屋大賞を受賞する。歴史ある読売文学賞も受賞したけど、それ以上に全国の書店員が自分たちで多くの人に読んで欲しい本を選ぶという「本屋大賞」の、それも第一回目を受賞したということで大きな評判になった。事故で記憶が短時間しか持てなくなった数学者と、家政婦と子どもの物語。博士は阪神ファンで、阪神時代の江夏の背番号「28」が「完全数」だという話は一度読んだら忘れられない。(ちなみに小川洋子は有名な阪神ファン。)映画化もされ、2006年のベストテン7位に選出されている。
この「博士の愛した数式」は大ベストセラーとなり、面白そうだと思って読んだ。そして、確かに面白かった。でも、その後全然読んでなかった。どうも作品世界に「内向性」というか「閉鎖性」のような感じがした。文学に「内向」や「閉鎖」は必要だとは思っているけど、今ひとつ僕の志向と会わないような気がしたのである。小川洋子は第104回の芥川賞作家だが、その頃の芥川賞作家では池澤夏樹(98回)、辻原登(103回)、奥泉光(110回)、川上弘美(115回)などの人はその後も読んでいたが、小川洋子は読まないできたのである。
だけど、それは大間違い。確かに「内向」「閉鎖」はほかの作品にもあるが、ロマネスクな作品世界に完全に捕らえられてしまった。「孤独」で「静寂」で「透明」な世界だが、もっと言うと、「秘密」や「背徳」の香りさえ漂っている。優等生の読みものではない。安全な生き方を志向する人には、危険で近づかない方がいい。そんな作品をたくさん書き続けていたのである。そして短編集や連作長編も多く、エッセイや対談も面白い。読みやすい本が多いのである。忙しいときや疲れてる時でも読みやすい。
今回読み始めたのは、先に書いた「日本文学100年の名作」に収録されていた(そして、最終巻の第10巻の題名に採用されていた)「バタフライ和文タイプ事務所」に魅惑されたからである。その特別な「官能性」、それも「活字」を通して「文字の官能世界」に読者を引きずりこむ。大した能力だし、すごく面白い。ワクワクする。それはどの本に入っているかというと、「海」という新潮文庫に入っていた。(元の本は2006年に刊行。)表題作の「海」もそうだし、「風薫るウィーンの旅六日間」なども、独自の不思議な世界で魅せられた。続いて、同じ新潮文庫の「まぶた」(2001)。これも素晴らしい。表題作は長編「ホテル・アイリス」とほぼ同様の設定の作品だが、「背徳性」のロマンが際立っている。「バックストローク」という作品も、「偶然の祝祭」(角川文庫)の中に似たような設定が出てくる。このような「自己反復」というか「セルフ・リメイク」も特徴である。
角川文庫にある「アンジェリーナ」(1993)は佐野元春の曲に想を得て書いたという短編集。あるいは世界の片隅で生きている不思議な人間を描く「夜明けの縁をさ迷う人々」(2007)など角川文庫に入っている短編集は読みやすくて入門編には最適かと思う。新潮文庫の「まぶた」「海」は「文学」になじんできた人でないと付いていけないかもしれないぐらい、独自で孤独な世界である。