尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「フリースクール法案」と「10年研修」のゆくえ

2016年12月15日 20時38分40秒 |  〃 (教育行政)
 今秋の臨時国会で、「カジノ法案」なんかが成立した(強引に成立させた)わけだけど、その陰で二つの教育に関する法律が成立していた。僕はかつて「フリースクール法制化への疑問」(2015.6.8)を書いた。その法案は、議員立法で「教育機会確保法」として成立した。一方、「『10年研修』廃止へ」(2013.12.16)と書いた問題は、「教育公務員特例法等の一部を改正する法律」として、新しい研修制度へ変更されることになった。あまり知られていないと思うから、ここで簡単に紹介しておきたい。

 まず、「10年研修」問題から。ほとんど報道されていないし、現場教員以外にはあまり意味がない。僕も詳しく知らないのだが、文科省の「教育公務員特例法等の一部を改正する法律について」を見ることにする。「教員職員免許法」も改正されているが、教員免許更新制などの本質的なものではない。

 今回の改正で、確かに「10年研修」というものはなくなっている。代わりに「中堅教諭等資質向上研修」というものになった。これは受けなくてもいいんだろうか。任命権者(校長)は、「実施しなくてはならない」と書いてある。対象は「学校運営の円滑かつ効果的な実施において中核的な役割を果たすことが期待される中堅教諭」である。期待されてなければ、受けなくてもいいリクツだけど、その場合は「主任教諭」とか「指導教諭」への昇任は望めないのだろう。必ずしも10年でなくてもいいということであり、事実上どこかで「中堅教諭研修」を受けないとやってけないんだろうと思う。

 さて、次に「教育機会確保法」について。正式な名前は、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」である。もともとは、不登校生徒が通う「フリースクール」を制度化し、フリースクールに通うこと(学校以外での学習)も義務教育として認めることを目指していた。それはいいことばかりではなく、弊害もあるのではないかと僕は思うので、前期ブログに書いておいた。ところで、今回の法律からはそういった発想は消えてしまっている。

 それは弊害に配慮したわけではなく、自民党の中に「義務教育は学校が担う」「不登校を助長する」などといった守旧的発想の反対論が多くなったからである。この法のポイントは、国や自治体は「不登校児童生徒に対する適切な支援が組織的かつ継続的に行われることとなるよう、不登校児童生徒の状況及び不登校児童生徒に対する支援の状況に係る情報を学校の教職員、心理、福祉等に関する専門的知識を有する者その他の関係者間で共有することを促進するために必要な措置その他の措置を講ずるものとする」ということである。

 つまり、「情報」を「共有」することを「促進」するという程度の話になってしまっている。まあ、「法的裏付け」ができたという意味はあるのかもしれないが。では、この法律がまったく意味がないかというと、そうでもないと思う。僕の見るところ、二つの重要な点がある。一つは、不登校生徒の「休養」の必要性が認められたことである。

 「不登校児童生徒が学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性に鑑み、個々の不登校児童生徒の休養の必要性を踏まえ、当該不登校児童生徒の状況に応じた学習活動が行われることとなるよう、当該不登校児童生徒及びその保護者(学校教育法第十六条に規定する保護者をいう。)に対する必要な情報の提供、助言その他の支援を行うために必要な措置を講ずるものとする」というのである。「不登校」の場合、「休養」が必要だと認められたことで、登校へ向けた過度な圧力に対抗できる法的根拠ができたことになる。

 もう一つは「夜間中学」設置の法的根拠ができたことである。ちょっと面倒くさいけど、法を読むと、明らかに夜間中学(中学校の夜間課程)を置き、学齢期を超えた人にも教育機会を与えるという規定になっている。「地方公共団体は、学齢期を経過した者(その者の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから満十五歳に達した日の属する学年の終わりまでの期間を経過した者をいう。次条第二項第三号において同じ。)であって学校における就学の機会が提供されなかったもののうちにその機会の提供を希望する者が多く存在することを踏まえ、夜間その他特別な時間において授業を行う学校における就学の機会の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。」

 文科省によれば、現在の夜間中学は8都道府県、31校にとどまっている。(文科省サイト「中学校夜間学級の推進について」。)文科省も各都道府県に一つは設置されるよう求めている。今のところ、大都市部中心に設置されていて、北海道・東北・中部・四国・九州には一つもない。それらの地方でも、「自主夜間中学」の活動が行われている地区もある。地方財政厳しき折ではあるだろうが、こうして法的根拠ができたわけで、夜間中学設置の動きが広まることが期待される。マスコミなどもぜひ支援していって欲しいと思う。
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