東京も昨日は真夏日になろうかという予想だった。家で過ごしてると熱中症になるんじゃないかと、ちょっと出かける気になった。映画館や美術館は再開していないが、大型書店は昼間は開き始めている。ネットで買えるけれど、読むべき本は山のように持ってるから、流通網に負担を掛ける「不要不急」の注文はしないようにしている。それにとにかく、見渡すばかり本という大きな「リアル書点」が大好きなのだ。もう半世紀も通ってる神保町である。やっぱり本屋の匂いが好き。
大きな書店にはいろんな本が並んでいる。その結果「買おうかと思っていた本」以外に、「買う気が無かった」というか、「存在を知らなかった本」も買ってしまうことがある。だけど、それが大切なんだと思う。昨日は講談社文芸文庫で平澤計七の本が出ていて、高いから迷ったけど買ってしまった。関東大震災の「亀戸事件」で虐殺された労働運動家で小説や劇も書いた。それはしばらく読まないが、すぐに読んだのが、「池上彰が聞いてわかった生命のしくみ」(朝日文庫)である。
池上彰さんは今も毎日のようにテレビに出ている。ドラマやバラエティ番組も再放送ばかりになってきた中で、ナマ出演で新型コロナウイルス問題などの解説を続けている。どうも今ひとつという時も多いけれど、貴重な存在ではある。この本は2016年に出た本で、少し最新情報を加えて4月末に文庫化された。「東工大で生命科学を学ぶ」と副題が付いている。全くその通りの本で、東工大教授の岩崎博史、田口英樹両氏に池上彰氏が聞き手となって作られた。対談になってる上に一節が短い。こんなわかりやすい「ライフサイエンス」(生命科学)の本はないと思う。
DNA、ゲノム編集、iPS細胞…、毎日毎日そういう言葉を聞かない日はないような時代になった。じゃあ、それを理解しているかと言われると、多くの人は心許ないだろう。だけど、これからは「この本を読めば」と薦めることが出来る。いや、ちゃんと説明してくれと言われるかも知れないが、それは専門外の人にはやっぱり難しい。でもこの本なら、多分高校生以上なら理解出来ると思う。詳しい説明が少しぐらい判らなくたって構わないだろう。「文系」の池上サンが時々例え話を入れながら、簡単なことから聞いてくれる。これならわかります。とにかく抜群に面白いのである。知的好奇心がくすぐられる。
僕の高校時代は、ワトソン、クリックが1953年にDNA(デオキシリボ核酸)の「二重らせん」構造を発見してから20年経っていなかった。日本の教育事情では、まだ教科書には載っていない。生物の授業ではガスクロマトグラフィの実験をしたり、ずいぶん進んでいた。話にはDNA、RNAという言葉は出たかも知れない。ずいぶん昔から知ってたから。ちょうど分子生物学という分野が脚光を浴びていた時代である。でもこの本で一番強調される「セントラルドグマ」(中心原理)というものは知らなかった。それは「DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達される生物の基本原理である。動物だけでなく、植物や単細胞生物にも共通するのである。
これを読んで、生命の持っている複雑で精密なしくみに感嘆させられた。「生物多様性」の重要さ、「循環」の重要性も改めて納得させられる。食物を食べて、それを分解して、細胞内であらたなタンパク質が作られる。その過程と同じぐらい、今度は不要になったタンパク質がどのように分解されてゆくか。世界全体では、植物が光合成で太陽エネルギーを化学エネルギーに変換する。それを動物が利用し、最後に微生物が分解する。このサイクルによって世界が存在している。
2016年の原著段階では、「ノーベル賞有力」だった大隅良典さんも対談に登場している。文中では山中伸弥氏や本庶佑氏の業績も簡単に説明されている。そういう点も興味深かった。元々は東工大の学生向きらしいが、こんな面白い本は「全国民必読」だ。生物学が専門だという人は少ないが、ゲノム編集などの現状を読むと、現代を生きている人は本当にその問題を真剣に考えていかないといけない。自分の専門じゃないジャンルの本も、できるだけ目配りしていった方がいいわけだが、特にこの本は面白さ抜群で、絶対のお薦めである。
大きな書店にはいろんな本が並んでいる。その結果「買おうかと思っていた本」以外に、「買う気が無かった」というか、「存在を知らなかった本」も買ってしまうことがある。だけど、それが大切なんだと思う。昨日は講談社文芸文庫で平澤計七の本が出ていて、高いから迷ったけど買ってしまった。関東大震災の「亀戸事件」で虐殺された労働運動家で小説や劇も書いた。それはしばらく読まないが、すぐに読んだのが、「池上彰が聞いてわかった生命のしくみ」(朝日文庫)である。
池上彰さんは今も毎日のようにテレビに出ている。ドラマやバラエティ番組も再放送ばかりになってきた中で、ナマ出演で新型コロナウイルス問題などの解説を続けている。どうも今ひとつという時も多いけれど、貴重な存在ではある。この本は2016年に出た本で、少し最新情報を加えて4月末に文庫化された。「東工大で生命科学を学ぶ」と副題が付いている。全くその通りの本で、東工大教授の岩崎博史、田口英樹両氏に池上彰氏が聞き手となって作られた。対談になってる上に一節が短い。こんなわかりやすい「ライフサイエンス」(生命科学)の本はないと思う。
DNA、ゲノム編集、iPS細胞…、毎日毎日そういう言葉を聞かない日はないような時代になった。じゃあ、それを理解しているかと言われると、多くの人は心許ないだろう。だけど、これからは「この本を読めば」と薦めることが出来る。いや、ちゃんと説明してくれと言われるかも知れないが、それは専門外の人にはやっぱり難しい。でもこの本なら、多分高校生以上なら理解出来ると思う。詳しい説明が少しぐらい判らなくたって構わないだろう。「文系」の池上サンが時々例え話を入れながら、簡単なことから聞いてくれる。これならわかります。とにかく抜群に面白いのである。知的好奇心がくすぐられる。
僕の高校時代は、ワトソン、クリックが1953年にDNA(デオキシリボ核酸)の「二重らせん」構造を発見してから20年経っていなかった。日本の教育事情では、まだ教科書には載っていない。生物の授業ではガスクロマトグラフィの実験をしたり、ずいぶん進んでいた。話にはDNA、RNAという言葉は出たかも知れない。ずいぶん昔から知ってたから。ちょうど分子生物学という分野が脚光を浴びていた時代である。でもこの本で一番強調される「セントラルドグマ」(中心原理)というものは知らなかった。それは「DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達される生物の基本原理である。動物だけでなく、植物や単細胞生物にも共通するのである。
これを読んで、生命の持っている複雑で精密なしくみに感嘆させられた。「生物多様性」の重要さ、「循環」の重要性も改めて納得させられる。食物を食べて、それを分解して、細胞内であらたなタンパク質が作られる。その過程と同じぐらい、今度は不要になったタンパク質がどのように分解されてゆくか。世界全体では、植物が光合成で太陽エネルギーを化学エネルギーに変換する。それを動物が利用し、最後に微生物が分解する。このサイクルによって世界が存在している。
2016年の原著段階では、「ノーベル賞有力」だった大隅良典さんも対談に登場している。文中では山中伸弥氏や本庶佑氏の業績も簡単に説明されている。そういう点も興味深かった。元々は東工大の学生向きらしいが、こんな面白い本は「全国民必読」だ。生物学が専門だという人は少ないが、ゲノム編集などの現状を読むと、現代を生きている人は本当にその問題を真剣に考えていかないといけない。自分の専門じゃないジャンルの本も、できるだけ目配りしていった方がいいわけだが、特にこの本は面白さ抜群で、絶対のお薦めである。