尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ジョエル・コーエン監督「マクベス」を見る

2022年01月05日 20時42分07秒 |  〃  (新作外国映画)
 今回も映画の紹介。12月31日から一部映画館でジョエル・コーエン監督「マクベス」が上映されている。これもまた配信映画だが、Netflixではなく「Apple TV+」の映画。宣伝がないから知らない人が多いと思って紹介する次第。監督のジョエル・コーエンは、今までコーエン兄弟として「ファーゴ」「ノー・カントリー」「トゥルー・グリット」など多くの傑作映画を作ってきた。今回が初の単独クレジットだが、弟のイーサン・コーエンはもう映画製作はいいやということらしい。

 ジョエル・コーエンの妻がフランシス・マクドーマンドで、今まで「ファーゴ」「スリー・ビルボード」「ノマドランド」でアカデミー賞主演女優賞を3回受賞した。彼女がマクベス夫人で、マクベスはデンゼル・ワシントンが演じている。なんと中世スコットランドの王にアフリカ系をキャスティングしたのである。もしカラー映画だったら違和感もあったかもしれない。だが、この映画は画面が真っ暗の白黒映画になっている。デンゼル・ワシントンはすでに発表されたゴールデングローブ賞の主演男優賞にノミネートされた。そのぐらい素晴らしい名演で、「暴君道」まっしぐらの圧倒的な演技を披露している。
(マクベスとマクベス夫人)
 画面がいかに暗いかは上の画像で判るだろう。またセットが凄い。どこかヨーロッパの古城かと思ったが、コロナ禍でそんなことが可能だろうかと疑問。それに幾何学的に計算された光と影の美学で貫かれていて、これはセットだろうなと思った。実際にカリフォルニアに作られたセットで撮影されたということだが、まるで実際の古城でロケされたかのような効果を発揮している。マクベスの物語は有名だからここでは書かない。普通は「マクベス夫人」と言えば「夫をそそのかして悪事に向かわせる悪妻」の代名詞になっている。今回はデンゼル・ワシントンの演技もあって、本人もかなり積極的にやってるような演出だと思った。
(マクベス)
 シェークスピアの戯曲はいずれも何度も映画化されてきた。舞台もそうだけど、近年では今までにない視点からの映画化が多い。例えばマイケル・ラドフォード監督の「ヴェニスの商人」は、ユダヤ人側から描いている。「マクベス」も今までに何度も映画化されてきた。有名なのは、1948年のオーソン・ウェルズ監督「マクベス」、1957年の黒澤明監督「蜘蛛巣城」だろう。僕のベストは1971年のロマン・ポランスキー監督「マクベス」である。日本公開以来見てないが、暴力や不安感の描写が印象的だった。何しろシャロン・テート事件以後に初めて作った作品なのである。
(マクベス夫人)
 今回調べたら、2015年にマリオン・コティヤールがマクベス夫人を演じた「マクベス」(ジャスティン・カーセル監督)もあった。日本でも公開されているが、そんな映画記憶にないなあ。オーソン・ウェルズ版は見てるかどうか覚えてないけど、(「オセロ」や「フォルスタッフ」はよく覚えているが)、今回の映画は余計なものをそぎ落とした骨太の映画だと思う。「3人の魔女」も幻想的な演出だし、負けていくラストも簡潔である。結局はデンゼル・ワシントンとフランシス・マクドーマンドの、運命に操られて滅びてゆく人間像の演技合戦である。筋は知ってるわけだし、何だか配信で見ればいいような気もしたけれど、大スクリーンで見られる機会は少ないから紹介。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする