「左翼論」の最後に「21世紀における左翼とは何だろうか」を考えてみたいと思う。「左翼」概念は時代によって移り変わってきた。「左翼」という政治用語はマルクス以前からあるのだから、左翼=マルクス主義じゃないことは自明である。もともとフランス革命の時に、国民議会で王政批判派が(議長席から向かって)左に、王政擁護派が右に座ったということから、政治における「左右」概念が生まれたわけである。そこでは「アンシャン・レジーム」(旧体制)を変革しようという側が左翼、旧体制を維持しようという側が右翼という区分けである。この区分けが基本的にはその後も共通していると考えられる。
19世紀前半から20世紀初頭まで、基本的には「絶対主義的王政」を打倒することが「左翼」だった。しかし、第一次世界大戦を機に、ロシア、ドイツ、オーストリアなどの大帝国が崩壊し、ヨーロッパの国はほぼ議会制民主主義的な政治体制に移行した。そのため、王政をどうするかは「左右」を分ける指標にはならなくなったわけである。(王政を維持している国では、王政を廃止して共和政に移行するべきだという考えが「左翼」の中に存在している。しかし、それは少数派に止まることが多い。)
その後19世紀半ばに「マルクス主義」が登場した。マルクス主義の考えでは、政治体制は上部構造であり、下部構造である経済体制(生産様式)こそ変革しなくてはならない。その考えに基づいて、社会主義な経済体制を樹立すべく革命を目指す党が建設された。それが「共産党」で、この勢力がある程度の大きさになってからは(国によって時差があるが、おおよそ20世紀の大部分)、共産党からの距離が左右を図る基準となった。この場合も「旧体制」である資本主義経済を維持する側が右、変革して社会主義経済を目指す側が左ということになる。
ところが「社会主義の祖国」であったはずのソ連が崩壊し、同じ頃に中国も「社会主義市場経済」に移行した。中国は今も「共産党一党独裁」であり、社会主義的な経済体制を取っていることになっている。しかし、国内には株式市場が常設され、一般国民も株を売買出来るのだから、これは定義からして資本主義経済と呼ぶしかない。一方の資本主義国であっても、すべてを「神の見えざる手」に委ねるなどという国はない。いずれも中央政府(中央銀行)が金利や国債引き受けなどを通して、経済をコントロールしようとしている。各国の経済体制は似たようなものになっていて、もはや経済政策で左右を決めることは難しい。
ということで、ソ連崩壊後(冷戦終結後)にはもはや従来のイデオロギー対立の時代ではないという声が高くなった。それは一定の正しさを持っていたと思うが、それでも各国で「左右対立」は残り続けた。それは何故だろうか。それぞれの国で、それぞれ別個の「アンシャン・レジーム」があり、それぞれの国で「わが国の伝統を守れ」という主張と「新しい政策に移行するべきだ」という主張が対立したのである。その場合、先の基準に従って、アメリカでは「銃規制賛成派」が左に、「銃規制反対派」が右になる。
(ヨーロッパの「極右」勢力と主張)
ヨーロッパ政治の概念として「極右勢力」がある。ヨーロッパでは、ナチスへの反省から「極右」勢力は基本的に連立の対象にしないことになっている。(イタリアで2022年に「極右」とされる「イタリアの同胞」党首メローニが選挙で第一党になり首相に選出されたが。)それらの政党の主張を見てみれば、現代ヨーロッパ政治における「右翼」の概念が判るだろう。フランスの「国民連合」の政策を見ると、「反移民」的な主張、「自国第一主義」の色彩が強い。
国民連合のマリーヌ・ルペンは2回に渡って大統領選挙の決選投票に残った。その時に左派票が反ルペンとして、マクロンに投票されたため当選出来なかった。イタリアは議院内閣制なので、極右政党が第一党になることが可能だった。大統領直選制の場合はフランスと同様に権力を握るのは難しかっただろう。しかし、メローニは首相に選出されたら、それまでの反EU、親ロシア的な主張をセーブしているようだ。マリーヌ・ルペンは父親ジャンマリー・ルペンが創設した「国民戦線」を2011年に受け継ぎ、2015年には反ユダヤ的言動をする父親を除名した。政策の穏健化を進めて、2018年には「国民連合」と改称した。
このように「極右勢力」も権力に近づくにつれ「穏健化」していくのだが、今はヨーロッパ政治の問題ではない。「現代の右翼思想とは何か」を問題にしているので、むしろ「国民戦線」時代の政策こそ関心の的になる。それをWikipediaで見てみると、「移民の制限」「(一部の犯罪に対し)死刑復活」「犯罪者・移民へのトレランス・ゼロ政策」「道徳復権」「公務員削減」「(同性愛カップルを認める)民事連帯契約法廃止」「減税」「国籍の血統主義」などが挙げられている。
これらを見ると、外国人や犯罪への厳しい対応を主張し、公務員を敵視し、減税を主張する。これは日本の右派勢力との共通性を認めることが出来る。そして道徳を重視して、伝統的な生活習慣を重視する。これを見る限り、死刑制度を維持し、難民は認めず、そもそも国籍は血統主義である日本は、極右政治を実行していると言うべきだろう。そのような傾向から、性的マイノリティの権利は極力認めないようにする。これはアメリカのトランプ政権でも見られたことだった。
(性的指向に関する世界地図)
これをまとめると、「移民」や「性的マイノリティ」を認めないという方向が見えて来る。「伝統」の名の下に、社会の中で「多様性」を認めることを拒否する。これが21世紀の右翼の特徴と言っても良い。ヨーロッパ、アメリカ、日本などの政治動向からすると、そういう結論が見えてくる。そこで思うのだが、昔は革命で成立した「中華人民共和国」が左で、内戦に敗れて台湾に逃亡した蒋介石の「中華民国」が右だったのである。ところが21世紀基準で考えると、同性婚を法制化した台湾が左になって、違法ではないものの同性愛に関する表現が事実上認められない(性的マイノリティを描く外国映画は上映不可になる)中国の方が右になる。
この基準は一見不思議とも言えるけれど、従来の見方を捨てて虚心坦懐に世界を見れば、「伝統」の名の下に同性愛者を弾圧するイスラム諸国やロシアなどが右翼になるのは納得感がある。中国も同様で、事実上右派が権力を握っていると考えた方が良い。「左翼」というのは従来の伝統(アンシャン・レジーム)を変えようという方だから、現代の「左翼」は同性婚を容認し、移民受け入れに積極的な立場だと言えるだろう。
19世紀前半から20世紀初頭まで、基本的には「絶対主義的王政」を打倒することが「左翼」だった。しかし、第一次世界大戦を機に、ロシア、ドイツ、オーストリアなどの大帝国が崩壊し、ヨーロッパの国はほぼ議会制民主主義的な政治体制に移行した。そのため、王政をどうするかは「左右」を分ける指標にはならなくなったわけである。(王政を維持している国では、王政を廃止して共和政に移行するべきだという考えが「左翼」の中に存在している。しかし、それは少数派に止まることが多い。)
その後19世紀半ばに「マルクス主義」が登場した。マルクス主義の考えでは、政治体制は上部構造であり、下部構造である経済体制(生産様式)こそ変革しなくてはならない。その考えに基づいて、社会主義な経済体制を樹立すべく革命を目指す党が建設された。それが「共産党」で、この勢力がある程度の大きさになってからは(国によって時差があるが、おおよそ20世紀の大部分)、共産党からの距離が左右を図る基準となった。この場合も「旧体制」である資本主義経済を維持する側が右、変革して社会主義経済を目指す側が左ということになる。
ところが「社会主義の祖国」であったはずのソ連が崩壊し、同じ頃に中国も「社会主義市場経済」に移行した。中国は今も「共産党一党独裁」であり、社会主義的な経済体制を取っていることになっている。しかし、国内には株式市場が常設され、一般国民も株を売買出来るのだから、これは定義からして資本主義経済と呼ぶしかない。一方の資本主義国であっても、すべてを「神の見えざる手」に委ねるなどという国はない。いずれも中央政府(中央銀行)が金利や国債引き受けなどを通して、経済をコントロールしようとしている。各国の経済体制は似たようなものになっていて、もはや経済政策で左右を決めることは難しい。
ということで、ソ連崩壊後(冷戦終結後)にはもはや従来のイデオロギー対立の時代ではないという声が高くなった。それは一定の正しさを持っていたと思うが、それでも各国で「左右対立」は残り続けた。それは何故だろうか。それぞれの国で、それぞれ別個の「アンシャン・レジーム」があり、それぞれの国で「わが国の伝統を守れ」という主張と「新しい政策に移行するべきだ」という主張が対立したのである。その場合、先の基準に従って、アメリカでは「銃規制賛成派」が左に、「銃規制反対派」が右になる。


ヨーロッパ政治の概念として「極右勢力」がある。ヨーロッパでは、ナチスへの反省から「極右」勢力は基本的に連立の対象にしないことになっている。(イタリアで2022年に「極右」とされる「イタリアの同胞」党首メローニが選挙で第一党になり首相に選出されたが。)それらの政党の主張を見てみれば、現代ヨーロッパ政治における「右翼」の概念が判るだろう。フランスの「国民連合」の政策を見ると、「反移民」的な主張、「自国第一主義」の色彩が強い。
国民連合のマリーヌ・ルペンは2回に渡って大統領選挙の決選投票に残った。その時に左派票が反ルペンとして、マクロンに投票されたため当選出来なかった。イタリアは議院内閣制なので、極右政党が第一党になることが可能だった。大統領直選制の場合はフランスと同様に権力を握るのは難しかっただろう。しかし、メローニは首相に選出されたら、それまでの反EU、親ロシア的な主張をセーブしているようだ。マリーヌ・ルペンは父親ジャンマリー・ルペンが創設した「国民戦線」を2011年に受け継ぎ、2015年には反ユダヤ的言動をする父親を除名した。政策の穏健化を進めて、2018年には「国民連合」と改称した。
このように「極右勢力」も権力に近づくにつれ「穏健化」していくのだが、今はヨーロッパ政治の問題ではない。「現代の右翼思想とは何か」を問題にしているので、むしろ「国民戦線」時代の政策こそ関心の的になる。それをWikipediaで見てみると、「移民の制限」「(一部の犯罪に対し)死刑復活」「犯罪者・移民へのトレランス・ゼロ政策」「道徳復権」「公務員削減」「(同性愛カップルを認める)民事連帯契約法廃止」「減税」「国籍の血統主義」などが挙げられている。
これらを見ると、外国人や犯罪への厳しい対応を主張し、公務員を敵視し、減税を主張する。これは日本の右派勢力との共通性を認めることが出来る。そして道徳を重視して、伝統的な生活習慣を重視する。これを見る限り、死刑制度を維持し、難民は認めず、そもそも国籍は血統主義である日本は、極右政治を実行していると言うべきだろう。そのような傾向から、性的マイノリティの権利は極力認めないようにする。これはアメリカのトランプ政権でも見られたことだった。

これをまとめると、「移民」や「性的マイノリティ」を認めないという方向が見えて来る。「伝統」の名の下に、社会の中で「多様性」を認めることを拒否する。これが21世紀の右翼の特徴と言っても良い。ヨーロッパ、アメリカ、日本などの政治動向からすると、そういう結論が見えてくる。そこで思うのだが、昔は革命で成立した「中華人民共和国」が左で、内戦に敗れて台湾に逃亡した蒋介石の「中華民国」が右だったのである。ところが21世紀基準で考えると、同性婚を法制化した台湾が左になって、違法ではないものの同性愛に関する表現が事実上認められない(性的マイノリティを描く外国映画は上映不可になる)中国の方が右になる。
この基準は一見不思議とも言えるけれど、従来の見方を捨てて虚心坦懐に世界を見れば、「伝統」の名の下に同性愛者を弾圧するイスラム諸国やロシアなどが右翼になるのは納得感がある。中国も同様で、事実上右派が権力を握っていると考えた方が良い。「左翼」というのは従来の伝統(アンシャン・レジーム)を変えようという方だから、現代の「左翼」は同性婚を容認し、移民受け入れに積極的な立場だと言えるだろう。