「高校授業料無償化」に関する与党と日本維新の会の協議がまとまって、「維新」は内閣提出の予算案に賛成した。与党だけでは衆議院の過半数に達しないわけで、どこかの野党を取り込む必要がある。前に書いたが「維新」が与党に協力するのは予想していた。国民民主党や立憲民主党よりも、「維新」との方が妥協しやすかったと思う。大阪万博を控えて4月半ばまで予算をめぐって国会が荒れ続けるのは「維新」も困る。だから、きっと維新との協議がまとまるだろうと踏んでいたが、予算が衆議院を通過後になって、「デメリットが大きい」「かえって格差を広げる」などの反対論も出て来たようだ。この問題を何回か考えてみたい。
この問題については今まで何回も書いてきた。ブログ開始直後の2011年には4回も書いたけれど、もう昔過ぎて誰も覚えていないだろう。だから、1回目はまず基本的な解説を「一から」書いておきたい。時々「高校の授業料が無料になるのは良いことだ」みたいな感想を述べる人がいる。しかし、「高校授業料は前から無料」じゃないか。それに「正確な意味では今後も完全な無償ではない」のである。高校授業料無償化は2010年度から実施された。民主党政権の数少ない成果である。民主党政権に問題が多かったのは事実だし、この時の制度設計、実施も完全ではないと思っている。だけど、「民主党政権で始まった」のである。
高校教育、つまり専門的に言うと「後期中等教育」が無償であるということは、本質的には人権問題である。国際人権規約(社会権規約)の中に明記されている。日本はもちろん人権規約を批准しているが、2009年までその条項を「留保」していた。(いくつかの問題に関して、受け入れを留保することが出来る。)民主党は2009年の総選挙に際して、高校授業料無償化を公約に掲げて勝利し、その通り実施した。そして鳩山由紀夫政権時に、その留保を解除すると国連に通告したのである。
その時点では「所得制限はなし」で「公立高校を無償化する」「私立高校に関しては公立と同額の支援金を出す」というものだった。なお、「高校授業料」ではなく、正式には「就学支援金」である。高等学校は義務教育ではないので、専修学校に通う場合も支援金を出す。外国人学校や特別支援学校高等部も同様。5年制の高等専門学校(高専)の場合は、3年まで無償で4年から授業料が発生する。(卒業すれば、高卒ではなく短大卒と同じ資格になる。)この制度に野党だった公明党は賛成したが、自民党は「所得制限なしの無償化はバラマキ」と批判して反対した。そして与党に復帰して第2次安倍政権で所得制限が設けられた。
それから12年、今度は自民党政権がやむなく所得制限を撤廃することになった。僕は所得制限撤廃時に『高校授業料無償化の末路』(2013.12.11)を書いて批判した。所得制限を設けるという考えもあるだろうが、かえって面倒くさい書類がいっぱい必要になる。小中学校は親の所得に関係なく、公立ならば無料じゃないか。面倒だというのは、「高校授業料は生徒ごとに違う」からである。まあ多くの学年制の全日制高校(定時制も)ならば、基本的には1、2年生はクラスごとに同じ授業を受けるだろう。だが3年になれば選択授業が増え、授業数が生徒で違うこともある。単位制高校や(最近増えている)通信制高校では、生徒ごとにその年に受講する単位が異なるのは当たり前。授業料は「授業の対価」だから、受講する授業数が違えば授業料も違う。
ここで授業料問題を離れて、そもそも公立学校と私立学校の数を調べておきたい。もちろん小学校、中学校にも私立学校はいくらもある。しかし、何故か「私立小学校」「私立中学校」の授業料を無償化せよとは言われない。私立高校だけ無償化の対象になるのは何故だろうか。それは小中の場合、私立学校の数が少なく、児童生徒の年齢もあって小中学校は地元の公立学校に通うことが圧倒的に多いからだろう。それを文部科学省の「学校基本調査」で確かめる。(2024年度調査が公表されている。)
まず小学校。全国で18,822校あって、国立67、公立18,506、私立249である。児童総数は5,941,733人、 そのうち公立小学校に5,826,352人が在籍している。私立は 79,990人である。国立はその半分ぐらい。児童総数は過去最低だというが、それでも全国で600万人近い小学生がいる。次に中学校。 全国で9,882校あって、国立68、公立9033、私立781である。私立中学は私立小の3倍もあるが、それは「中高一貫」が多いからだろう。生徒総数は 3,141,132人、そのうち公立中が2,866,304人、私立中が 247,982人である。なお、小中一貫の「義務教育学校」が別に238校あり、ほぼ公立。やはり圧倒的に義務教育は公立学校である。
それが高校になると、ガラッと変わる。総数は4,774校で、国立15、公立3,438、私立1321である。在籍生徒数は、総数が 2,906,921人で、公立が1,891,020人、私立が 1,007,865人である。また中等教育学校(中高一貫校)が59校あり、 34,514人が在籍している。公私比をみると、学校数が3:1ぐらいなのに、生徒数だと2:1以下である。これは公立高校は生徒数が少なくても離島、山間部にも設置されているのに対し、私立高校は都市部の大規模校が多いからである。
これを見ても、私立小、私立中は数も少なく、子どもの発達段階を考えてもごく少数しか通わない。公立小中学校は地域の生徒を全員受け入れる義務があり、私立で問題があれば地域の公立校にすぐ転校出来る。しかし、高校の場合は全員が公立高に進学することは不可能である。子どもが減っているのだから、その気になれば可能かもしれないが、それでは私立高校がつぶれてしまう。私立学校は歴史が長く、スポーツ等の活躍で知られていたり、地域の有力政治家が理事だったりする。つぶすわけにもいかず、あらかじめ公私間で協議して、翌年の受け入れ生徒数を決めている。初めから3分の1以上は私立高校に行くしかないのである。
一方で、東京の場合など満員電車に乗って私立小学校に通学するなど無理。都心部に住んでいて、さらに自動車で送り迎えが可能なような高所得世帯じゃないと、子どもを私立小に通わせるのは難しいだろう。ちょっと調べてみたが、慶應義塾幼稚舎(幼稚舎だが小学校である)は年間98万円、青山学院初等部は年間81万円の授業料が必要らしい。もちろん他に入学金があり、寄付等も求められるんだろう。なかなか「普通の人」が行かせられない額だ。その代わりに「内部進学」で有利に大学まで通じているし、親も各界の「有力者」が多いだろうから、親子とも将来に向けて人脈が作れるわけである。ここで一端区切る。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます