何でも「財務省解体」を唱える人たちがいて、財務省前でデモが行われているという。3月14日にはその場にいた立花孝志氏が襲撃される事件も起こった。(千葉県知事選に立候補していた立花氏がなんで財務省前にいるんだ? まあそういう話は聞いてたけど。)この問題については、いろんな人がいろいろと言ってるが、僕は「天下の暴論」だと思っている。典型的な「陰謀論」であり、陰謀論の常として、「真の敵を隠す」役割を果たしている。それが目的なのかは判断出来ないが。
まず思ったのは「財務省解体」とはどういう事だろうという疑問だ。国家そのものを認めない無政府主義社会がすぐ実現出来るはずもないから、「国税」というものは必須だろう。財務省を解体したら、「税金を集めて予算を編成する」仕事は誰がするのか。外国には税と社会保険料をまとめて集める「歳入庁」がある国もあるらしい。そういうのを求めているのか? しかし、僕は「社会保険」は「保険」である以上、別の組織で行う方が正しいと思う。一緒にしても、それは形の上で同じ組織になるだけで、別の部署が担当するという実態が変わるはずがない。(「税」と「保険」を一緒くたに「五公五民」などというのも理解不能。)
しかし、もう少し調べてみると、要するに「財政政策変更」を求めるというデモに近いのが実態ではないか。ただその時に、「国民が困窮しているのに財政政策が変わらないのは、財務省が黒幕にいるからだ」と考えるらしい。確かに安倍元首相と対立していた石破茂氏が首相に就任しても、内外の政策に大きな変わりがない。だけど、それは当たり前だろう。内部でいろいろ対立していても、同じ自由民主党なんだから、国家の基本政策が大きく変わったらそっちの方がおかしい。
「財務省が黒幕」だという認識が仮に正しいとしても、財務省にデモを掛けても何の意味もない。財政政策は、内閣と国会が決めることである。国会は長いこと「与党が絶対多数を占める無風状態」が続いていた。それが2024年衆院選で与党が過半数を割り込み、いま少し変わりつつある。それでも行政権を握る内閣(内閣を組織する与党)の力は大きい。結局、内閣(最高責任者の内閣総理大臣)が予算を決定し、それが国会で可決されて正式な予算となる。そんなことは誰でも知ってるだろう? 予算は年度内成立ギリギリの状況なのに、何で国会や首相官邸前でデモをしないんだろう? ホントの責任者はそっちだろ?
そういう風に思うんだけど、それはそれとして別に書きたいことがある。それは「大蔵省を解体せよ」ということである。もちろん、大蔵省はすでに解体されている。2001年から大蔵省は存在しない。それは名前が変わっただけではない。「通商産業省」が「経済産業省」にというように名前が変わっただけの省もある。財務省もその時点では名が変わっただけだった。しかし、事実上は1998年6月から、金融機関監督業務が「金融監督庁」→「金融再生委員会」と別組織になり、2000年7月には金融政策立案も行う「金融庁」が設立された。きっかけは大蔵省接待汚職事件だったが、「財政・金融分離」が実現したわけである。
ところが、2012年12月の第2次安倍政権成立(自公政権の復活)以来、財政担当大臣と金融担当大臣が同じ人なのである。それ以前は違っていた。初代金融担当相は柳沢伯夫氏、第2代は竹中平蔵氏だった。小泉内閣で「内閣府特命担当大臣(金融担当)」と扱いが少し変わったが、相変わらず竹中氏が務めた。竹中氏は民間人閣僚として入閣したが、その後財政経済政策担当、さらに参議院議員となって総務相となり、後任として与謝野馨、渡辺喜美、茂木敏充氏らが金融担当相となった。
2008年の麻生太郎内閣成立後に、中川昭一氏(辞任後は与謝野馨氏)が財務、金融双方の大臣を兼務するようになった。2009年の民主党政権成立後は財務相が藤井裕久、菅直人、野田佳彦、安住淳と変わる中で、金融担当相には貫して連立を組む国民新党所属議員が就任していた。具体的には亀井静香、自見庄三郎、松下忠洋各氏である。一時的に臨時代理を務めた人もいたし、松下氏は野田内閣末期に自殺して中塚一宏氏に代わった。それでも民主党政権では財政と金融は別の大臣が担当していたことは共通している。ところが、2012年12月から2021年11月まで、9年もの長い期間麻生太郎氏が「副総理兼財務相兼金融担当相」だった。
さらに言えば、第2次安倍政権当初に日銀総裁に黒田東彦氏が就任し、「異次元の金融緩和」政策を実施した。事実上、財務、金融、日銀が同じ一つの役所のようになって「アベノミクス」実現に突き進んだわけである。そして、当初の想定は実現出来なかった。はっきり言えば「失敗」に終わり、そのままコロナ禍に突入して日本国の財政はかつてない債務超過に陥っている。そのため財政政策のダイナミックな展開が難しい状態になってしまった。まずは財務相と金融担当相を再び分離することが、経済、財政政策の緊張感を取り戻す第一歩なんじゃなかろうか。「安倍・麻生政権」こそが「異常な時期」だったのだと思う。
過度の円安が物価高を呼んでいるが、金融政策の抜本的変更が難しい。「今こそ減税」という声も高いし、僕も共感するところはあるが、「ない袖は振れない」というのが実情じゃないか。課税最低限の引き上げ、高校授業料の所得制限撤廃・私立高授業料補助引き上げを行う以上、他に向ける財源があるとは思えない。(それらの政策が今真っ先に必要なことか僕には疑問。)ここしばらくの日本は別に緊縮財政ではない。どう見ても、これ以上ないと言うぐらい「積極財政」を続けてきた。そして失敗したのである。これ以上赤字を積み増すことは、大々的なインフレーションを呼ぶ恐れが否定できない。(僕はそういう恐怖がある。)
ところで「黒幕は財務省」ということになれば、石破内閣でも出来なかったことは野党が政権を担ったとしても無理ということになる。つまり、「参院選で野党に投票するのは無意味」ということになってしまう。仮に参議院も与党が過半数を割り込んで、国会運営が行き詰まって再び総選挙になったとする。そして現在の野党が政権を握っても「財務省が解体してない以上」何も出来ないというリクツになるはずだ。こうして、「野党に投票しても意味がないというムードを高める」。僕はそれが「財務省解体論」の真の目標か、そうじゃなくても結果的にそう機能するんじゃないかと思っている。「陰謀論の役割」である。
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