1995年1月17日、阪神大震災から19年が過ぎた。この年は3月20日に地下鉄サリン事件が起き、首都圏ではそっちの印象の方が強くなってしまった感もあるが、双方あいまって「恐ろしいことが起きた年」であり「忘れがたい悼みの年」だった。東日本大震災に際して僕も参加したFIWC(フレンズ国際ワークキャンプ)は、神戸でもボランティアを行ったので、僕も一日行ってみた思い出がある。(もっとも仕事の都合で、行って帰っただけなんだけど。)
ところで、阪神大震災を契機に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)とか「トリアージ」という言葉が一般に知られるようになった。「トリアージ」には「識別救急」という訳語もあるようだけど、定着しているとは言えない。要するに、戦時あるいは大災害時など傷病者が大量に出る非常事態に、「助かりやすさ」を医療機関が判断して治療や搬送の優先順位を決めることである。この考え方を一般化すれば、「繁忙期に仕事に優先順位をつける」ということで、この能力がないと仕事がうまくいかない。いつも忙しがっては仕事を忘れ混乱しているような人は結構いるもんだ。
この「トリアージ能力」の育成が、今後の公立中高一貫教育には求められていると「公立中高一貫校」(ちくま新書)に出ている。他にも挙げているので、参考に紹介しておくと、①判断推理力+空間的把握力②集合能力+観察力③図解能力+分析力④異文化を理解する力⑤弱者に暖かい視点を持つ力⑥複数の対立する価値を比較し利益を衡量する力⑦自分の力を他者に伝える作文力
その⑥が「トリアージ」ということになる。1回目に書いたように、公立中高一貫校では学力検査による入学者選抜が認められていない。そこで「適性検査」を行うわけだが、その検査問題の分析を通じて、著者小林公夫氏が理解したところでは、以上のような能力が求められているというのである。もっとも①②③などは、私立中入試でも必要な学力を問う問題と共通の能力である。しかし、作文などが入ってくる公立では④⑤⑥などを理解し、それを⑦の作文力にまとめていくことが要求される。このあたりを読んで、僕は「異文化を理解する」「弱者に暖かい視点を持つ」というのは、要求されるべき「力」なのだろうかと思ってしまった。⑦の問題は、具体的には群馬県太田市立太田中の出題を紹介しているので、前記新書を参照。
しかし、公立中高一貫校では「価値を比較し利益を衡量する力」は必要なんだろうか。学習進度が早いうえに、行事や部活動も中学生と高校生がいるとなれば、確かに「何を優先すべきか」が判っていない生徒は中高一貫校では伸びないのかもしれない。しかし、どうにも不思議な感じがしてしまうのである。「弱者に暖かい視点を持つ」「対立する価値を比較し利益を衡量する」、そういう力がある児童ならば、地元の公立中に進学してそこで活躍するべきものではないのか。公立中高一貫校の検査問題に、以下のような問題を出してみてはいかがだろうか。
「公立中高一貫校に進めば学力を伸ばせられる面はあるが、一方公立中で学力面でリーダーになる生徒が少なくなるとも言える。公立中高一貫校をつくれば、そこを目指す生徒に向け小学校の教育も大きく影響を受けることになる。そのような対立する価値を比較し、公立中高一貫校を作ることをどう思いますか」「弱者に暖かい視点を持つ」観点を踏まえて、作文にまとめなさい。
実際に東京ではどのような状況になっているかを数字で確かめてみたい。
昨年度の東京都公立中学校卒業生は、約9万5千名となっている。5年前は9万名なので、東京では小学生が増えている。(「東京一極集中」の中、都心に近い地域で再開発が進んでいることもあるし、ローンを組んで近県に家を買うことができる層が減少しているのかもしれない。)
そのうち、都内私立中学に1万5千名ほどが進む。都外に行くのはその1割の1500名。国立に377名。都立中高一貫校に1352名が進んでいる。他に都立の特別支援学校に行く生徒もいるわけだが、結局公立中学に7万7千名強が進む。都内の公立中高一貫校には千代田区立九段中等学校もあるが、区立中なので以上の統計では公立中に入っている。
都内の公立中高一貫校の募集人員は、九段を入れて、合計1600名となっている。(4クラス、160名募集校が多いが、両国、富士、大泉、武蔵では120名募集となっている。九段が160名募集なので、合計11校で1600名となる。
一方、応募者数は一般枠の都立計で、10583名となっている。九段は千代田区枠と他区枠が半々だが、他区の80名募集は685名と非常に倍率が高い。実際の受検では、私立に受かっている生徒の欠席が各校で数十名あるので、1万名強に減る。私立進学者1万5千名に加え、都立受検者が1万名ほどいる。つまり、東京では小学校卒業児童の4分の1が、「中学受験」をするのである。これはいくら何でも多すぎないか。私立希望者だけなら公立小が配慮する必要は少ないだろうが、都立の中高一貫校に行きたいという希望がこれほど多ければ、小学校教育そのものが全く変わうのではないか。また、公立中高一貫校に進む生徒は、数では2%にも達しないのだが、他に不合格者が9千名近くいるわけで、地元の中学ですぐに頑張れるのだろうか。これらの数字を見て思うのは、東京の教育事情は全く変えられてしまったのではないかということだ。岩波新書の「中学受験」の最後にその問題が少し書かれているが、まだまだ小中学校の事情は論じられていない。公立中高一貫校の問題は、中高一貫校だけを見ていてはダメで、公立小中への影響を見極め、「比較衡量」するべき問題だと思う。(ところで、数字を見れば、公立中高一貫校には私立小および他県小出身者が結構いるのではないかと思う。)
ところで、阪神大震災を契機に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)とか「トリアージ」という言葉が一般に知られるようになった。「トリアージ」には「識別救急」という訳語もあるようだけど、定着しているとは言えない。要するに、戦時あるいは大災害時など傷病者が大量に出る非常事態に、「助かりやすさ」を医療機関が判断して治療や搬送の優先順位を決めることである。この考え方を一般化すれば、「繁忙期に仕事に優先順位をつける」ということで、この能力がないと仕事がうまくいかない。いつも忙しがっては仕事を忘れ混乱しているような人は結構いるもんだ。
この「トリアージ能力」の育成が、今後の公立中高一貫教育には求められていると「公立中高一貫校」(ちくま新書)に出ている。他にも挙げているので、参考に紹介しておくと、①判断推理力+空間的把握力②集合能力+観察力③図解能力+分析力④異文化を理解する力⑤弱者に暖かい視点を持つ力⑥複数の対立する価値を比較し利益を衡量する力⑦自分の力を他者に伝える作文力
その⑥が「トリアージ」ということになる。1回目に書いたように、公立中高一貫校では学力検査による入学者選抜が認められていない。そこで「適性検査」を行うわけだが、その検査問題の分析を通じて、著者小林公夫氏が理解したところでは、以上のような能力が求められているというのである。もっとも①②③などは、私立中入試でも必要な学力を問う問題と共通の能力である。しかし、作文などが入ってくる公立では④⑤⑥などを理解し、それを⑦の作文力にまとめていくことが要求される。このあたりを読んで、僕は「異文化を理解する」「弱者に暖かい視点を持つ」というのは、要求されるべき「力」なのだろうかと思ってしまった。⑦の問題は、具体的には群馬県太田市立太田中の出題を紹介しているので、前記新書を参照。
しかし、公立中高一貫校では「価値を比較し利益を衡量する力」は必要なんだろうか。学習進度が早いうえに、行事や部活動も中学生と高校生がいるとなれば、確かに「何を優先すべきか」が判っていない生徒は中高一貫校では伸びないのかもしれない。しかし、どうにも不思議な感じがしてしまうのである。「弱者に暖かい視点を持つ」「対立する価値を比較し利益を衡量する」、そういう力がある児童ならば、地元の公立中に進学してそこで活躍するべきものではないのか。公立中高一貫校の検査問題に、以下のような問題を出してみてはいかがだろうか。
「公立中高一貫校に進めば学力を伸ばせられる面はあるが、一方公立中で学力面でリーダーになる生徒が少なくなるとも言える。公立中高一貫校をつくれば、そこを目指す生徒に向け小学校の教育も大きく影響を受けることになる。そのような対立する価値を比較し、公立中高一貫校を作ることをどう思いますか」「弱者に暖かい視点を持つ」観点を踏まえて、作文にまとめなさい。
実際に東京ではどのような状況になっているかを数字で確かめてみたい。
昨年度の東京都公立中学校卒業生は、約9万5千名となっている。5年前は9万名なので、東京では小学生が増えている。(「東京一極集中」の中、都心に近い地域で再開発が進んでいることもあるし、ローンを組んで近県に家を買うことができる層が減少しているのかもしれない。)
そのうち、都内私立中学に1万5千名ほどが進む。都外に行くのはその1割の1500名。国立に377名。都立中高一貫校に1352名が進んでいる。他に都立の特別支援学校に行く生徒もいるわけだが、結局公立中学に7万7千名強が進む。都内の公立中高一貫校には千代田区立九段中等学校もあるが、区立中なので以上の統計では公立中に入っている。
都内の公立中高一貫校の募集人員は、九段を入れて、合計1600名となっている。(4クラス、160名募集校が多いが、両国、富士、大泉、武蔵では120名募集となっている。九段が160名募集なので、合計11校で1600名となる。
一方、応募者数は一般枠の都立計で、10583名となっている。九段は千代田区枠と他区枠が半々だが、他区の80名募集は685名と非常に倍率が高い。実際の受検では、私立に受かっている生徒の欠席が各校で数十名あるので、1万名強に減る。私立進学者1万5千名に加え、都立受検者が1万名ほどいる。つまり、東京では小学校卒業児童の4分の1が、「中学受験」をするのである。これはいくら何でも多すぎないか。私立希望者だけなら公立小が配慮する必要は少ないだろうが、都立の中高一貫校に行きたいという希望がこれほど多ければ、小学校教育そのものが全く変わうのではないか。また、公立中高一貫校に進む生徒は、数では2%にも達しないのだが、他に不合格者が9千名近くいるわけで、地元の中学ですぐに頑張れるのだろうか。これらの数字を見て思うのは、東京の教育事情は全く変えられてしまったのではないかということだ。岩波新書の「中学受験」の最後にその問題が少し書かれているが、まだまだ小中学校の事情は論じられていない。公立中高一貫校の問題は、中高一貫校だけを見ていてはダメで、公立小中への影響を見極め、「比較衡量」するべき問題だと思う。(ところで、数字を見れば、公立中高一貫校には私立小および他県小出身者が結構いるのではないかと思う。)
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