尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「初恋・地獄篇」とその後-羽仁進の映画④

2017年07月23日 21時29分17秒 |  〃  (日本の映画監督)
 羽仁進の映画のまとめを終わらせてしまいたい。アフリカやアンデスで撮った後、次に作ったのは「初恋・地獄篇」である。1968年、ベストテン6位。羽仁プロとATGの提携作品。当時、ATG(日本アートシアターギルド)は作家が自由に作れる「1千万円映画」という企画を始めていた。68年は2位「肉弾」(岡本喜八)、3位の「絞死刑」(大島渚)と、ベストテンにATG映画が3本も入った。ATG映画特集なんかは今も時々あるから、この映画は他に比べると上映機会が多い。僕も4回目だと思う。
(「初恋・地獄篇」)
 「初恋・地獄篇」は羽仁進の最高傑作だろう。ATG映画でも最大のヒット作となった。脚本に寺山修司が名を連ねていて、寺山特集なんかでも上映される。だけど、今回の「文学界」やトークなどでの発言によると、ATGに企画を通すために寺山の名を出したものの、羽仁が書いた脚本の概要を見せたら、寺山はこれでいいんじゃないのと言ったという。寺山は共同脚本に名を出す代わりに、製作現場を見たいと言った由。この証言そのものの検証も必要だが、今まで「初恋・地獄篇」の詩的、幻想的なシーン、風俗的・見世物的感覚などを何となく寺山由来と思っていたのも再検討が必要だ。

 この映画は、養護施設育ちの少年シュンと、集団就職で上京したが今はヌードモデルをしているナナミという二人の幼くも切実な触れ合いをリリカルに描いている。シュンは彫金師夫婦にもらわれ彫金をしているが、養父に虐待され、近所では幼女と仲よく遊んでいる。危ういシュンのセクシャリティに比べて、ナナミは大胆にヌードを披露してる。工場で働くより、自分のカラダを金にする方が有利だとすでに知っている。この10代の二人も新人で、特にナナミの石井くに子は見事な存在感。

 ナナミの関わる性産業の描写、若い二人の性愛の様子なども率直に描かれているが、興味本位という感じがなく、全体に詩的なイメージがずっと続く感じがする。モノクロの画面は美しく(撮影は奥村祐治に変わった。一部でカラー場面があるが、ベースはモノクロ)、完成度が高い。ナナミの同級生「代数君」の高校文化祭に行って、稚拙な8ミリ映画を見るところは、若い時代の切なさと恥ずかしさが伝わってくる名シーン。ナナミをよく撮影に来た「あんこくじさん」(安国寺さん?)の造形も面白い。そして突然の悲劇がやってきて映画は終わるが、余韻は長く残り続ける。

 「初恋・地獄篇」をもっと詳しく書いてもいいが、長くなるから省略。次の69年の「愛奴」は大失敗作。ベストテン27位。墓地で出会った美しい夫人に連れられ謎めいた洋館を訪れると、召使の少女「愛奴」を自由にしていいと言われ、極限の快楽を経験する…って、何だそれって感じの話。原作があって、フランス文学者栗田勇の戯曲なのである。もちろん、そんなウソみたいな話が現実にあるわけがなく、夫人は実は東京大空襲で死んだ霊魂だった…と言われましても。「雨月物語」を見てれば予測通り。もともとは荒木一郎と司葉子で企画したが、荒木一郎が事件を起こして流れたという話。
(「愛奴」)
 続く70年の「恋の大冒険」は誰もベストテンに投票してない。今まで失敗作と言われてきたが、最近ではカルト的なミュージカル映画として再評価されつつある。人気絶頂の「ピンキーとキラーズ」のピンキー(今陽子)を主人公に、山田宏一渡辺武信が脚本、和田誠が美術、いずみたくが音楽を担当したミュージカルである。この顔触れで判るように、70年前後の新しい感性を今に伝える作品で、画面に出てくる70年風俗も興味深い。遊び感覚で時代を超える映画だろう。
(「恋の大冒険」)
 今陽子が集団就職で「迷いたけラーメン」に勤める。そこの社長、前田武彦は怪しげな電波で社員を洗脳しているが、カバが大嫌い。一方、怪電波で上野動物園の動物たちもおかしくなり、公害として騒がれる。前武はやはり電波洗脳で由紀さおりが自分を好きになるように仕向け、ついには結婚式を挙げる日となる。そこに動物園を抜け出したカバが現れ…。当時、テレビ司会者として大人気の前田武彦が怪演を繰り広げ、その他多数のゲスト出演者とドタバタを繰り広げる。完全に成功しているとは思えないが、いずみたくと和田誠を楽しめる。70年にはこんなおふざけは受けなかっただろうが、今になると貴重な映像になっている。羽仁進にはこういう資質もあるということだ。

 その後、71年にイタリアのサルデーニャ島を舞台に「妖精の詩」を作った。実の娘の羽仁未央がなぜか一人孤児院にいて…。「禁じられた遊び」の名子役ブリジット・フォッセーも出ている。フィルムの褪色が著しいけど、そういう問題ではなく…という映画。子どもが可愛いのは真理だろうけど、反面の真理として、我が子が可愛いのは親だけだというのもある。羽仁未央は1964年生まれだから7歳だった。「元祖不登校」みたいな人で、2014年に亡くなった。

 1972年の「午前中の時間割り」は、再びATGで作りベストテン16位に入っている。前に書いたことがあるが、これは公開時に見ている。主演者が高校生で、確か都内の高校の生徒会あてに割引券が送られてきた。その当時から何度か見ているけど、まあ失敗作だろう。ついこの間の荒木一郎特集で見たからパスするつもりだったが、あまりに暑い日で他へ行く元気がなく、避暑のつもりでまた見たら案外面白かった。仲良し女子高生2人が夏休みに旅行する。映画好きの男子から8ミリカメラを借りて持っていく。そして、女子高生の片方が死んでしまう。旅行中に出会った謎の男は何?

 素人が映画を撮ることが大変だった時代だから、当時の旅フィルムが面白い。残されたフィルムは何を語る? 謎の男「沖」は、当時天才ジャズトランぺッターと言われていた沖至が演じているのも貴重。旅先は伊豆だと思うが、夏休み感覚にあふれている。全体に「ガーリー」(girly)なムードが漂っていて、その危うい「女子高生映画」感覚が面白い。稚拙であることも、かえって当時のムードを感じさせる。成功作とは思えないけど、案外捨てがたい。自分の高校生時代を思い出しちゃうし。
(「午前中の時間割」)
 劇映画最後は、1980年の「アフリカ物語」。最初クレジットにジェームズ・スチュアートって出てくるから、同じ名前かよと思ったらご本人だった。つまり「スミス都へ行く」や「裏窓」の俳優が老人で出ていた。事情あってアフリカ奥地で動物たちと暮らす老人と孫娘。そこに飛行機が墜落して記憶喪失になった男が現れる。自然保護、動物との共生を訴え、アフリカの動物たちの素晴らしい描写も多い。それなりにドラマもあるけど、これはサンリオが作った子供向け映画。なぜかベストテン12位になってるけど、成功とか失敗とか評する映画でもなかろう。まあ、それでいいんだという映画。
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