以前に、画家のジョージア・オキーフのことを書いた『私、ジョージア』という絵本を紹介しましたが、その本がとってもよかったので、同じ作者の、別の作品を探してみました。
それで見つかったのが、この絵本。図書館にリクエストを出して3ヶ月、ようやく手にすることができました。縦17cm、横15㎝という、小振りの、詩集のような絵本です。
『9月のバラ』
ジャネット・ウィンター 作
福本友美子 訳
右下に、2つの背の高いビルと、それにむかっていく2機の飛行機が見えますか?自由の女神も描かれていますね。‥‥そう、この本は、2001年9月11日のニューヨークを記した絵本なんです。
前書きで、作者のジャネット・ウィンターさんは、この絵本が出来上がるきっかけをこう記しています。
数日後、わたしは、くずれ落ちたビルのすぐそばのユニオン広場へ行ってみました‥‥町じゅうの苦しみがあふれる場所へ。そこに、たくさんのバラの花がありました。いったいどこからきたのでしょう。そこで聞いた話をもとにして、わたしは翌年の春、この『9月のバラ』をつくりました。
本文は、どのページも簡潔な文章で、テンポよく進んでいきます。
わたしがバラをじっと見ていると、
わかい男の人がそばにきて、
バラがどこからきたのかおしえてくれました。
はるか海のかなたの国
南アフリカの、
山また山をこえ、
砂漠をこえたところに、
姉さんと妹が住んでいて、
バラをつくっていました。
‥こんな具合に。
「何も起こらなければ」決して出会うことがなかった人たちが、偶然の糸で結びついて生まれたこの話は、とてもスケールが大きいようで、一方では、すごく身近な誰かのエピソードを、聞いているような気持ちになったりもします。
とても不思議な縁と、とびきり素敵なクライマックスは、ぜひ、本を手にとって読んでみてください。
そして、本を閉じたあとに、ユニオン広場に居た作者ジャネット・ウィンターさんを思い浮かべ、ジャネットの隣に立っていた誰かと、そのまた隣の誰かが手に持っていた写真を思い浮かべ、写真の中では、きっと笑っているにちがいない、まったく知らない誰かを思い浮かべましょう。
世界の各地で起こっている悲惨な出来事を、画面や画像を通して目にするとき、それはひとつの「情報」として伝わってきて、受け取ったのは確かに自分自身なのに、ただ「通過」していったり、ただ「知識」として頭の中に残ったり。けれど、世界各地のその「地」では、確実に誰かが愛する人、大切な人を失って泣いているのです。
非力な自分にせめてできるはじめの一歩は、思い浮かべる事、想像してみること。痛みや傷みを、自分にもしもおこったらと考えてみること、だと思うのです。
タイトルは『9月のバラ』ですが、8月の、今の時期に想像してみることが、とても大切なことに思えます。