MAKIKYUが2月に韓国を訪問した際に乗車した「パダ(海)列車」は、都市近郊輸送用のディーゼル動車(CDC)を改造した専用車両を充当てしており、この車両への乗車も一つの楽しみですが、「パダ列車」と言うだけあって車窓から眺めるオーシャンビューもウリとなっており、今日は「パダ列車」乗車中の車窓に関して取り上げたいと思います。
「パダ列車」の運行区間に当たる江陵(Gangnueng)~東海(Donghae)~三陟(Samcheok)間では、路線は比較的海に近い所を走るとはいえ、オーシャンビューを楽しめる海沿い区間と、海が見えないやや内陸の区間が何度も入れ替わる格好となっています。
車窓が楽しめるのは当然前者で、江陵を出発してから10分も経たない内に、最初の海沿い区間に差し掛かりますが、MAKIKYUが乗車した際には海水温と外気温に差がある事も影響してか、海が見えない区間では車窓が楽しめるものの、海沿いでは真っ白な霧が立ちこめ、辛うじて海沿いを走行している事が伺える程度と言う状況でした。
江陵市内に位置している最初の停車駅で、市内から市内バスでのアクセスも可能な、「世界一海が近い駅」と名乗っている正東津(Jeongdongjin)駅(どの様な定義で世界一を名乗っているのかは定かではなく、世界一と言うのは違和感がありますが、少なくとも韓国では最も海に近い駅と言って良いと思います)に到着した際にも、辺り一帯は霧で真っ白となっており、一般には「パダ列車」最大のウリとなっているオーシャンビューは、残念ながら楽しめずに終わってしまうのか…とも思ったものでした。
しかしながら東海市に入った辺りで、海沿いでも霧が消え、車窓からは見事な東海(日本海)の絶景が広がり、車内からも歓声が次々と聞こえる状況でしたが、この区間で減速運転を行う辺りは、如何にも観光列車ならではといった所です。
自然景観的には、JRの日本海側海沿いを走る区間と錯覚してしまう様な雰囲気もあるかと思いますが、「北韓(北朝鮮)」に近い土地柄もあってか、線路脇には鉄製の柵などが設けられており、この光景は日本とは随分異なるものです。
そして東海駅を過ぎると三陟線に入り、非電化路線という事もあって、ディーゼル動車の本領発揮といった所ですが、三陟線は定期旅客列車の設定がない貨物専用線となっています。
そのため乗客として乗るには、臨時列車扱いの観光列車「パダ列車」への乗車しか選択肢がなく、個人的にはこの三陟線に乗車できる事こそ、「パダ列車」乗車における一番の楽しみと感じています。
MAKIKYUが「パダ列車」に乗車した際には、東海駅手前から客室最前部に張り付いて前面展望を楽しんでいた所、東海駅停車中に乗務員室の扉が開き、乗務員士の好意で乗務員室の助士席に招き入れられるという、予想外の嬉しい出来事もあり、三陟駅到着までの三陟線内走行時には、最高のポジションで前面展望を楽しめたものでした。
(この様な事は今日の日本ではまず考えられず、国柄の違いも大きいかと思いますが、「パダ列車」に乗車しても乗務員室に乗車できる可能性は低いと思いますので、予めお断りしておきます)
三陟線内は非電化の単線で、通常は貨物専用線と言う事もあって、東海~三陟間では途中に交換設備もない程ですので、設備的には余り立派なモノは期待できませんが、それでも枕木がPC枕木化されている区間も多く、日本の地方私鉄はおろか、JRの地方交通線や第3セクター鉄道の平均レベルよりは、軌道レベルは遥かに良好と感じたものでした。
貨物列車では、大柄なアメリカ型の電気式ディーゼル機関車が牽引するだけあって、それに見合う設備を備えるとなれば、軌道はある程度のレベルが求められるのも当然かもしれませんが、三陟線内に2駅ある停車場(湫岩・三陟海岸)も、不定期で2往復が走る「パダ列車」しか停車しない割には、ホームなどもきちんと整備されています。
一昔前の統一(Tong-il)号客車列車が、ホームもなく駅名票だけしか見当たらない線路上で停車し、乗降扱いを行っていたのに比べると、臨時列車専用駅にしてはかなり上等な設備といえ、日本のJR北海道辺りで定期列車が数本停車する小駅よりも上等と感じたものでした。
そして三陟線の終点・三陟駅に到着すると、丁度入れ替わりに貨物列車が東海方面に発車していき、駅構内には貨車の姿も見られるなど、貨物線らしい光景が拡がっていますが、三陟駅も臨時列車専用駅ながら、駅舎がきちんと設けられており、「パダ列車」専用の乗車券発売窓口には係員も配置されているなど、臨時列車専用駅にしては上等過ぎる設備を誇っていると感じたものでした。
ただ三陟駅は市内中心部からは少々離れた街外れに位置しており、駅周辺を通る市内バスも非常に限られていますので、旅客駅としての立地は決して良いとは言えず、団体ツアーや江陵からの往復乗車は別として、「パダ列車」を純粋に三陟への交通手段として捉えるのであれば、非常に使い難いのが現状です。
MAKIKYUは三陟駅まで「パダ列車」に乗車した後、徒歩で市内中心部にあるバスターミナルへ向かい、ここから市内バスで東海駅へ向かったのですが、市内バスは地方都市間とはいえ1日90本以上と非常に充実しており、運賃も非常に安価ですので、三陟線を少々テコ入れした所で、旅客輸送面ではバス相手に太刀打ちできないのが現状です。
(おまけに三陟~東海市内間では市内バスだけでなく、市外バス(都市間バス)も頻発しており、こちらは市内バスよりやや割高なものの、それでも観光タイプ車両による運行で1600W程度です)
そのため三陟線は、観光列車運行や貨物線としての用途以外に、一般の旅客輸送を期待するのはかなり厳しいのが現状で、まして今日のKORAILにおける運賃制度を考えると尚更ですが、三陟駅と市内中心部の結節性の悪さだけは改善に期待したいと感じたものでした。
韓国でも江原道の東海岸は交通手段などが限られ、外国人の訪問も決して多いとは言い難い地域ですので、Seoulなどに比べると不便な面もありますが、興味のある方は是非江陵や三陟へも足を伸ばし、「パダ列車」に乗車してみては如何でしょうか?