3本セットで999円を3セット買ってきた小津安二郎の映画のDVDも残り1本になった。
最後に残ったのは“お茶漬の味”。
1952年、ぼくが2歳の年に作られた作品である。
何で最後まで残ったかと言うと、木暮実千代が主役だったからである。木暮実千代ご本人にはとくに好悪の感情を持っていないのだが、木暮実千代と小津映画というのが、ぼくにはしっくりこないのである。
しかし、もう9月。そろそろ後期の講義の準備や学会報告の予稿の執筆などをしなくてはならないので、8月中に形をつけてしまおうということで、ゆうべ見ることにした。
恐れていた通り、佐分利信の女房を演ずる木暮の役回りは見ていて愉快ではなかった。大磯に住む金持ちの外務官僚の娘である木暮が、信州の田舎出身の技術屋、佐分利と見合い結婚するのだが、育ちの違いから二人の関係はうまくいかない。
夫が急きょウルグアイに出張になるのだが、電報が行き違って、須磨に遊びに行った妻は見送りにも来ない。ところが、佐分利の乗った飛行機はエンジン不良で羽田に引き返し、夫はその夜遅く家に戻ってくる。
そして有名な(?)夜中に夫婦がお茶漬けを食べるシーンになる・・・。
しかし、こんなエピソードで仲直りできる程度の不仲ではなかったように描かれていた。木暮の高慢ぶりも不快だが、佐分利の態度もあいまいで、今なら離婚話になってもおかしくない。お茶漬け一杯で済む話ではなかったのではないか。
小津は結婚しなかったから・・・と言いたくなる。
戦後の風俗らしく、パチンコ屋、競輪、プロ野球が出てくるが、ぼくはパチンコや競輪が大嫌いである。何で小津はこんなものを描いたのだろう。これが朝鮮戦争特需で浮かれる当時の日本の姿だったのだろうか。
そこにはもう“長屋紳士録”や“風の中の牝雞”の戦後はなくなっている。ぼくにはこっちの2本のほうがはるかに良かった。
パチンコ屋は今とは違って台が10台くらいしかない個人営業である。そのパチンコ屋の主人が笠智衆で、女房役の望月優子がちょこっと出ていた。望月優子はぼくが通った西荻窪の神明中学校の近くの中央線の線路沿いに住んでいた。家と線路の間に菜園があって、そこで野菜を作る望月優子を見かけたこともあった。(駒沢球場の近くには笠置シズ子の家があり、彼女も家庭菜園で野菜を作っているのを見かけたことがある。)
その他、佐分利が甥の鶴田浩二と待ち合わせるバーの女給役で北原三枝が出ていたし、雑誌『少年』の表紙でおなじみだった設楽幸嗣なども子役で出ていた。
お茶漬けを食べるシーン以降は蛇足だと思ったが(115分と小津にしては結構長い)、最後に鶴田浩二と津島恵子が迎賓館の前の舗道をデートで歩くシーンが出てきたので許してやることにする。
あのあたりは四谷の予備校時代に授業をさぼって歩き回った(当時の言葉でいえば「彷徨した」)懐かしい場所なので。
何か他の物を見ないと、秋を迎えられそうもない。
* 小津安二郎“お茶漬の味”(1952年。日本名作映画集23[Cosmo Contents])のケース。
2010/9/1