法学部1年生の文献講読で、川名壮志『密着・最高裁のしごと』(岩波書店)を学生たちと一緒に読んでいる。
同書のテーマの1つが死刑なので--正確には、検察官の無期懲役の求刑に対して死刑を宣告した1審の裁判員裁判を高裁および最高裁が覆した事件--、新聞に広告が載っていた近藤昭二 『誰も知らない死刑の舞台裏』(二見レインボー文庫)を読んでみた。
著者もレインボー文庫というのも知らなかったので、まったく期待しないで読んだのだが、失礼ながら意外にも大変に面白かった。
死刑関連の本はけっこう読んでいるので、知っている話も少なくなかったが、日本の死刑の歴史、世界の死刑の動向、著名事件や死刑囚のエピソードの紹介などが、きわめて手際よくまとめられている。
具体的な死刑執行の方法や--とくに電気椅子や毒ガスによる死刑執行など--、特定の死刑囚の死刑執行時のエピソード--雅樹ちゃん誘拐殺人事件の本山死刑囚ーーなどは、具体的すぎて、読んでいて気分が悪くなるかもしれない。
反対に、大阪拘置所長が録音していたある死刑囚の執行前夜から当日までの言動--姉との会話、刑務官への挨拶、辞世の句などは読んでいて目頭が熱くなった。
昭和の事件の背景には、今日では想像しがたい貧困が横たわっている。
著者は死刑制度に反対の立場のように思われるが、声高に死刑廃止を訴えるのではなく、のちに冤罪であることが判明した死刑囚や、かなり疑わしい死刑判決に対して再審請求中に死刑が執行されてしまった死刑囚の例などを冷静な筆致で紹介しており、かえって怖さが滲み出ていた。
学生たちにも死刑制度を考える入門書として読ませたい1冊である。
* 近藤昭二 『誰も知らない死刑の舞台裏』(二見レインボー文庫、1998年、2008年に出た本の新装改訂版だそうだ)。
2018/10/12 記