8月21日(水)
北條文緒「ニューゲイト・ノヴェル――ある犯罪小説群」(研究社、1981年)
1830年から40年代にかけて、産業革命後のイギリスの庶民階級で読まれた犯罪小説の一群があったらしい。
ウィリアム・ゴドウィン「ケイリブ・ウィリアムズ」、エドワード・ブルワー=リトン「ポール・クリフォード」「ユージン・アラム」など、ぼくの知らない作家、作品ばかりだが、ディケンズの「オリバー・ツイスト」「マーティン・チャズルウッド」なども登場し、アンチとしてサッカレーの「虚栄の市」も出てくる。
ディケンズは「クリスマス・キャロル」を除いて、学生向きのRewrite版というのかabridged版で済ませてしまったのだが(「オリバー・ツイスト」だの「荒涼館」だのといった文庫本3冊、4冊もある長いものを読む気にはなれなかった)、殺人などの犯罪は出てくるが、「犯罪小説」という印象はなかった。確かに犯罪の場面は出てきたが。
サッカレー「虚栄の市」も同じく1冊のabridged版で済ませたので、アンチ・ニューゲイトだったかどうかは分からなかった。というより、ディケンズなどと同じように、当時の社会を背景にした通俗小説の印象だった。
1830年代の刑法改正(死刑の削減)、監獄改良、公開処刑の廃止などと同時代に流行し、やがて廃れていったジャンルのようである。
初期の犯罪者は都市下層階級で、動機は貧しさであるが、のちには犯罪者はミドル・クラスに移り、動機はさらなる富への欲望であったという。
裏表紙に、益子政史「スコットランド・ヤード――ロンドン 悪の系譜」という本の新聞広告の切り抜きが挟んであった。出版社名は不明。
高校生か大学生のころ、牧逸馬の犯罪ものを読んでいたところ、内容を見た祖母から、「あんた、こんな本に興味があるの?」と尋ねられたことがあった。
ニューゲイト・ノベルの読者同様、犯罪予備軍に見られたのだろう。
ニューゲイト・ノヴェルについて読んだついでに、この夜は「明日に向かって撃て!」(1969年、ジョージ・ロイ・ヒル監督)を見た。
前回来た時にボリビアに逃げるあたりまで見たので、その残り。ニューヨーク時代は早送り。
メイキング・ビデオで知ったのだが、当初ポール・ニューマンの相手役はスティーブ・マックィーンだったそうだ。彼に断られ、ジョン・ボイドにも断られ(なぜだろう? ロケなどで拘束日数が長かったのか)、ようやくロバート・レッドフォードに回って来たらしい。
レッドフォードはデビュー作にしては堂々としている。
犯罪者を英雄視しているというか、愛着を感じさせる演出で、ニューゲイト・ノヴェルと同じような社会的批判があってもよさそうだ。
原題からして“Butch Cassidy and the Sundance Kid”と実在の犯罪者の名前である(こんな題名では日本ではヒットしなかっただろう)。ボリビア人には愉快ではないと思うが。
20世紀のアメリカや世界ではそんなことは起きなかった。
2019/8/21 記