小津安二郎監督『父ありき』(キープ社版、小津安二郎大全集)を見た。
小津の『東京物語』を見たついでに、『父ありき』も見たくなった。初見の時にぼくは『東京物語』よりも『父ありき』のほうが気に入った。笠智衆も『父ありき』が好きだと語っている(笠『小津安二郎先生の思い出』朝日文庫)。
テーマが親子関係(父子物語)だったためかもしれないし、父子がともに学校教師だったためかもしれない。舞台が信州、上田だったからかもしれない。
前にも書いたが、上田城の石垣の上に親子が座って語り合うシーンは、上田城ではなく小諸城の石垣の上で撮影されたものだと思う。小諸城に行った時に右端の石垣の石の形で確認した。木が繁った以外は変わっていなかった。
上田城にも行ったことがあるが、あのような石垣はなかった(と思う)。
もう1つ、父子が料理屋の二階の座敷で食事をするシーン(上の写真)もぼくの好きな場面である。
このシーンは別所温泉で撮影されたのではないかと思ったが、こちらはセットで撮影されたということだった。しかも残念なことに、息子が旧制中学生だった頃のシーン(津田晴彦)と、秋田の鉱山学校教師になった時のシーン(佐野周二)が実は同時に撮影されたなどという裏話が貴田庄さんの本に書いてあった(と思う)。
キープ版の『父ありき』は音声が悪いのに驚いた。声がこもっていて聞き取れない台詞が多数あった。前に見たときもこんなだったのか、それともぼくの耳が当時よりさらに悪くなったのか。
ストーリーを知っているので、弁士なしで無声映画を見るように見た。
2021年8月30日 記