8月16日(火)は、女房と二人で別所温泉に出かけた。
当初は浅間サンラインを通ってクルマで行く予定だったが、町役場発行の“軽井沢だより”に「軽井沢・別所温泉フリーきっぷ」の広告が載っているのを見つけ、地方鉄道の旅をすることにした。
軽井沢から小諸、上田経由で別所温泉まで、しなの鉄道と上田電鉄に1日乗り降り自由で1800円。その気になった時に乗っておかないと、草軽電鉄のように、乗りたいと思った時はすでに廃線という憂き目を見かねない。
8時34分発の中軽井沢発上田行きに乗車するつもりで、8時20分頃に中軽井沢駅について、驚いた。
あの懐かしい駅舎が壊されて、プレハブの仮駅舎になっている。浅間山を描いたタイルの壁ももちろんなくなっている。
壊されることは分かっていたので、すでに去年写真は撮ってあったのだが・・・。
さらに驚いたのは、中軽井沢駅は午前10時までは改札業務は行わない旨の掲示があって、切符売り場のカーテンは閉じられている。「軽井沢・別所温泉フリーきっぷ」は軽井沢駅でなければ買うことができないのだ。“軽井沢町たより”では、無人の信濃追分駅と平原駅(?)以外のしなの鉄道全駅で購入できると書いてあったのだが。
しかたなく、慌ててクルマで軽井沢駅に行き、くだんの切符を買って中軽井沢駅にとんぼ返りする。もちろん8時34分発には間に合わず、次の9時32分発まで待たなければならなくなる。
ところが腹立たしいことに、9時を過ぎた頃に切符売り場のカーテンがあいて、駅員が改札業務を始めたのである。そうと分かっていれば、わざわざ軽井沢駅まで切符を買いに走る必要はなかったのだが。
しかし、とにかく9時32分発の小諸行きに乗り込んだ。下の写真は中軽井沢駅のホームに入ってくるしなの鉄道の電車(ただし、われわれが乗った下りではなく軽井沢行きの列車)。ちなみに最初の写真は、中軽井沢駅の下りホームから眺めた浅間山。
信濃追分駅を過ぎたあたりの浅間山絶景ポイントは、前に書き込んだとおり。小諸で長野行きに乗り換えて、上田駅に到着。中軽井沢から1時間足らず。車内は6、7分方の座席が埋まる程度で、ずっと並んでゆったりと座ることができた。
上田駅で上田鉄道、別所温泉行きに乗り換える。下の写真は上田電鉄、上田駅に停車中の別所温泉行き電車。
20分ほどの待ち時間があって、出発。しなの鉄道に比べると、駅と駅の間が短く、路線バスの感覚で停車する。スピードもゆっくりしている。
のどかな田園風景の中を走って、30~40分で別所温泉駅に到着。
実はしなの鉄道も上田電鉄も、実際はどれくらいの所要時間だったのか、ほとんど記憶がない。それほど、時間を忘れさせてくれる乗り物だったのである。
到着した別所温泉駅がまた鄙びている。
駅名表示板がレトロである。
駅舎も、上から見下ろすと、まるで鉄道模型の駅舎のようである。
そして、駅舎の正面玄関も、洒落ている。
歩き回った別所温泉の名所は、いつか改めて書き込むことにして、きょうは老舗の温泉旅館、臨泉楼・柏屋別荘だけをアップしておく。
別所温泉案内の本で、この旅館の写真を見て、ぼくは小津安二郎の“父ありき”を思い出した。あの笠智衆と寄宿舎で暮らす息子が久しぶりに一緒に食事をする料理屋は、この旅館で撮影したのではないかと勝手に想像したのである。
あのシーンは小津の映画の中でも特にぼくが好きな場面である。
“父ありき”で、息子の幼少時代の舞台は信州、上田である。上田城の石垣の上で父子が会話するシーンもあるから、別所温泉でのロケがあってもおかしくはない。
もちろん上田にも温泉はあるし、当時の温泉旅館の造りはどこも似たような物だったのかもしれないが。
ぼくは、きょう帰京してから、“父ありき”のDVDを見た。
あのシーンはセットのようにも見える。
しかし、8月16日の昼下がり、ぼくは“父ありき”を思い浮かべながら、別所温泉の柏屋別館の前を歩いたのだった。
2011/8/20