先日、かまくら銀幕上映会の”ゆずり葉のころ”をみてきた。この映画は、八千草薫さんが85歳で、仲代達也さんは83歳、そして、中みね子監督は76歳というシニア世代の方々でつくられました、という説明が上映前にあった。そして、中みね子監督は、故・岡本喜八監督の奥さんで、プロデューサーとして夫の作品のお手伝いをしてきましたが、この映画で監督デビューしました、ということも付け加えられた。音楽はジャズピアニスト山下洋輔さんが担当し、映画の中に出てくる絵画は、宮さこ正明画伯が実際描かれたものということも。
三年ほど前、本会による八千草薫さんのトークショーと主演をされた日伊合作のオペラ映画”蝶々夫人”(1955年)を鑑賞したことがある。それについてはブログ記事にしている。とても80代にはみえない若さで、びっくりした。
この映画でも相変わらずの若さで、八千草さんは、たぶん70代半ばの一人住まいの、着物の仕立てで生計をたてている女性を演じておられた。子供の頃に淡い恋心を抱いていた人が国際的に有名な画家(仲代達也)になっていて、彼の個展が軽井沢で開かれている。八千草はある思いを抱きそこを訪ねる。とくに観たい絵があった。それは”原風景”という画題の絵。
その絵は展覧会には出展されていなかったが、ひょんなところで出会うことになる。それは、すでに目がみえなくなっている画家の家に飾られていた。ある人の紹介で家を訪ねた八千草は正体を明かさず、画家とひと時を過ごす。画家はゆったりした気持ちとなり、好きなオルゴールをかけ、ダンスをしようという、心であなたを描きたいから、顔を触らせてくれという。帰り際、八千草はフランス人の奥さんにそっと、お礼にと端切れでつくった巾着を渡す。その中身を知った画家は、はっと気付く。
米国で活発に仕事をしている息子(風間トオル)が一週間ほどの休暇をとり、母を訪ねるが、自宅は留守だった。軽井沢にいることを知り、追いかけて行く。転職して、日本に帰り、老いた母と一緒に住むことも相談したかった。
バスを待つ母と息子。息子がその話をすると、「ゆずり葉」という木を知っているでしょ、その木は若葉が出ると、まだ青いのに、古い葉が落ち、自然と土に帰っていく。わたしはそういう生き方をしたいの。そんなことのために仕事をやめないで!あなたが思いきり生きてくれるのがわたしの望みなの。
しっとりと、こころに沁みる、いい映画であった。
中みね子監督の次の言葉にも同世代として同感。「私たちは一番いい時期を生きた世代じゃないかと思う。それより前の世代は戦争に命を張って、自分の食べ物も減らして育ててくれた。だからこれだけ豊かになったわけで、そんな時代を生きた私たちは次の世代に何を譲るのか。長生きするだけじゃなく、何を残すことができるのか。それが問われる世代じゃないかと思うんです」