話題のアニメ映画”この世界の片隅に”が、8月8日に鎌倉駅近くのホールで上映された。見逃していた映画だったので、是非、この機会にと思っていた。一日4回も上映されるというので、夕方の八幡さまのぼんぼり祭りに合わせて、午後4時からのを観た。今、思うと、当日券が買えたのが不思議なくらいで、はじまるときには広いホールが満席となった。
映画がはじまると、コトリンゴが歌う”悲しくてやりきれない”が流れはじめる。ぼくらの世代のザ・フォーク・クルセダーズのカバーだ。これがこの映画の主題曲で、はじめ多少、違和感があったが、映画を見終えてみると、まさにぴったりの歌。胸にしみる 空のかがやき今日も遠くながめ 涙をながす悲しくて 悲しくてとても やりきれないこのやるせない モヤモヤをだれかに 告げようか。
広島市の江波(えば)という町で生まれ育ったすずが主人公。 昭和19年2月、18歳のすずが、突然の縁談で、軍港の街、呉にお嫁入りする。初めて会う夫、同居の両親、出戻りの子連れの義姉との新生活がはじまる。苦労もするが、もちまえのユーモア感覚と好きな絵を描いたりしながら、日々暮らしていく。時は太平洋戦争の真っただ中。そして、昭和20年3月に呉に米軍による大空襲が。そして、その後も、たびたび空襲を受け、すず自身と家族にも悲しい出来事が。さらに、すずが、広島の実家に向かう予定だったが、変更した、8月6日。閃光のあとに湧きあがった巨大なきのこ雲を呉から見ることになる。そして終戦。荒廃した広島市内で出会った孤児を連れて、すずの家族は新た歩みを進めるのであった。
こうの史代原作で、監督は片渕須直。街並み、軍艦、建造物、草花などの風景描写が緻密で、うつくしく、また、登場人物の顔の表情も自然でよかった。たんたんと日誌のように家族の日常生活を描きながら、戦争のおそろしさ、かなしさを伝えてゆく。
声優も適材適所。すずにはのん。監督がすずには、この人しかいないと見込んだだけあって、とてもよかった。
映画を見始めて、すぐ、すずが、ちょうど、ぼくの母と同い年で、同じころ嫁いだことを知り、すずを母と重ねて見るようにになった。呉の大空襲の日は、なんとぼくの誕生日であった。両親は都内の蒲田に住んでいたが、3月10日に東京大空襲があり、もし疎開していなければ、今のぼくはなかった。
8月6日が広島原爆の日、8月9日が長崎原爆の日、そして8月15日が終戦記念日。映画館で公開中には見逃してしまった映画であったが、こうして、偶然、この映画をこの時期に観せてもらってよかったと思う。しみじみとした思いが、そのあと、八幡さまのぼんぼり祭りを見学している間中、心に漂っていた。