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【cinema / DVD】『アヒルと鴨のコインロッカー』

2008-09-07 23:52:29 | cinema / DVD
これは前から気になっていた作品。WOWOWで放送されたとき見逃してしまったのでDVDにて鑑賞。瑛太くんは好き(笑)

「大学に進学する為、仙台で1人暮らしを始めた椎名。隣室の河崎に声をかけられ親しくなる。河崎は何故かペットショップのオーナーは信用するなと言う。ある日、河崎は同じアパートに住む留学生ドルジが失恋で悩んでいるのを慰めるため本屋を襲撃しようと椎名を誘うが・・・」という話。あらすじだけ読むと荒唐無稽な映画のように見えるけれど、これはなかなか良かった。

主人公の椎名は普通の少年。特別裕福ではないけれど貧しくもない家庭に育った。両親とも健在でおそらく多少の反発はあったにしても、愛されて育ってきた。その彼が出会った河崎という謎の男。主人公のような純朴な青年が惹かれるタイプかもしれない。自分にはないものを持っている。初めはその2人のデコボココンビ的な友情物語なのかと思っていた。でも、違った。実はかなり重く切ない話だった。

河崎に強引に誘われるままに書店強盗に付き合わされる椎名。その後、河崎は不思議な距離感で椎名に関わってくる。時に突き放すようでもあり、椎名を必要としているかのようでもある。なので椎名だけではなく見ている側も河崎が気になって仕方ない。ひょんなことからペットショップのオーナーと知り合うことになる椎名。初めに「ペットショップのオーナーは信用するな」と言われている上でのこの出会いはなかなか面白い。ほとんどが若い登場人物達の中で、このオーナーのみが大人の女性。その感じもいい。

そして、河崎とオーナーから少しずつ語られていく河崎とドルジ、そしてドルジの彼女でペットショップ店員だった琴美の物語。女好きでいいかげんな感じの河崎、真面目で純情なドルジ、そして気の強い琴美のやや複雑ではあるけど、普通の恋愛話に見える。でも、2人はあまり深く話をしたがらない。特別踏み込むつもりもないけれど、何となく河崎が気になる椎名。その椎名の感じもいい。そして、とうとうある日椎名は決意する。オーナーと2人で河崎を尾行する。そして河崎の秘密を発見する。このシーンは衝撃的。そして語られる真実。これは悲しく切ない。

正直、どんでん返し自体は目新しくないし、河崎に関してはある程度予測はついた。でも、最初に見せられていた場面と、本当のその場面と対比すると、すべて真実味があって切なく感じる。そして椎名が今まで見てきたこと、体験したことの本当の意味が明らかになると、河崎の悲しさが伝わる。伏線が明らかになる感じは、だからなのかといちいち納得。この見せ方はいいと思う。どうしてそんな事にと思うけれど、実際こんな事件は起きている。椎名とオーナーが辿り着いた河崎の秘密は、許されないことだとは思うけれど、正直当然の報いなんじゃないかと思ってしまう。やったことの責任は取れよ!と思うから。もちろん頭では正しくないことは分かっているけれど、気持ちの上では同じ思い。そしてきっと誰もがその間で葛藤して苦しむんだと思う。それが辛い。

椎名役の濱田岳は普通の青年役を好演していたと思う。ちょっと気が弱くて少し要領の悪い感じは、その小柄な外見とも合っている。河崎を素直に受入れる感じもいい。警戒はしているけれど、拒否はしない。それは憧れもあると思うし、好奇心もあるかと思うけれど、心配している感じも伝わる。その感じが嫌味なく、少し気の弱い感じをイラッとさせることもなくて良かったと思う。琴美役の関めぐみはイマドキの勝気な女性を演じる際の、若手女優さんにありがちな大袈裟演技が気になるけれど、車の前に立ちはだかるシーンは良かったし、それに続くシーンで結果を見届けたあと微笑みながら目を閉じる演技は良かったと思う。オーナー役の大塚寧々はいつも滑舌の悪さが気になって集中できなくなってしまうのだけど、この役は良かったと思う。彼女も悲しい思いをしているし、悔しい思いもしている。でも、だからこそ助けたいと思っている感じも伝わる。

謎の男役の松田龍平が良かった。ちょっと個性的過ぎるタイプだけれど、その個性が役に合っている。途中から本来の姿として登場する彼は、それまで見る側が信じていた役以上にその役として存在しないといけない。それはきちんと出来ていたと思う。同時に、きっとその感じに憧れていた部分もあるんだろうと思わせる。間違いなく、コチラが本物だと思わせるくらいしっくりとくる。その感じは良かった。そして河崎役の瑛太が良かった。河崎役には少し違和感があったけれど、後にその違和感の意味も分かる。瑛太くんには切なさとか哀しさが似合う気がする。それが彼の演技によるものなのか個性なのか良く分からないけれど・・・。それがこの役にはとっても合っていると思う。若いのにそういう雰囲気を出せるのはなかなか貴重だと思うので、是非このまま頑張って欲しいと思う。ってエラそうだけど(笑)

世の中理不尽なことはいくらもある。事の大小はあっても理不尽な目に一度もあったことのない人はいないと思う。自分自身が理不尽なのでさえなければ。だから、こういう理不尽な事に怒りを感じるのだと思う。怒りを感じている自分は正常なのだろうとも思う。変な言い方だけど・・・。だけど、その理不尽な事が人の命を奪い、1人の人間の考え方や生き方、そして人生までも変えてしまうのは悲しい。

ずっと誰かを待ってた河崎と椎名を結びつけるのがボブ・ディラン。この使い方はいい。ディランを神様に見立てるラジカセのシーンもいい。タイトルのアヒルと鴨は会話に出てきたけれど、コインロッカーはと思っていたら、そんな使い方・・・。それも良かった。原作は未読なのでどこまで忠実なのか分からないけれど、タイトルにあるからにはこれはそのままなのかな? でも、映像で見ると切なくていい。

映画の後半、真実が分かると同時に今まで見ていたものがひっくり返る。そこが重要で、そのこと自体が映画の言いたいこと。だからネタバレは極力避けたつもりだけど、勘のいい人は分かっちゃうかも。青春映画というのでもないし、悲しい物語ではある。ラストも多分悲劇。でも、悲しいだけではなかったと思う。そういう感じは良かったと思う。正義って何?と思ったりもした。感動! という感じではないけれど、なかなかいい映画だったと思う。


『アヒルと鴨のコインロッカー』Official site

コメント (2)
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