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【cinema】『ダークナイト』

2008-09-21 22:42:08 | cinema
'08.09.14 『ダークナイト』@サロンパスルーブル丸の内

これは気になった。ヒース・レジャーがジョーカーを演じて、その演技が絶賛されていること、そして本作が彼の遺作になってしまったことが理由。特別ファンではなかったけれど、演技派俳優の最期の演技を劇場で見ておきたかった。

「バットマンの活躍により犯罪率は減少したが、より凶悪な犯罪が増加してしまったゴッサムシティー。マフィアが街を支配し、警官の汚職も横行していた。新任検事ハービー・デントは不正を一掃しようと立ち上がるが、新たな犯罪者ジョーカーが現れる。」という話。これは面白かった! 前作『バットマン ビギンズ』は未見だったのでレンタル。TUTAYAのお兄さんが「このシリーズ面白いっすよ!」と言っていたとおり面白かった(笑) クリストファー・ノーラン作品は前作と『プレステージ』、そして『インソムニア』しか見ていないけど、バットマンってこんなだったっけというくらい全体的にダーク。映画全体、画面全体からただよう倦怠感のような暗さはクリストファー・ノーラン独特の世界観なのかな? それがとってもいい。

現代なのか近未来なのか不思議な雰囲気。場面によっては'50~60年代のように見えたりもする。この感じはいい。マネーロンダリングとか、企業の合併とかこれは大人向け。アメコミ原作のヒーロー物とはいえ、子供が見てもあまり面白くないかも。そもそもヒーローがあんまりヒーローっぽくない(笑) 真っ黒な衣装で口数も少なく低い声で難しい事を言う。ヒーローらしい分かりやすい明るさはない。表の顔ブルース・ウェインである時も、正体を隠すため性格の悪い金持ちを演じているし、バットマンもあえて汚名を着る。実はバットマンは絶対に殺さないし、汚名を着るのは自己犠牲。でも、それが理解できないと面白くない。バットマンという名前はもちろん、アメコミ原作のヒーローでアニメや映画になった事も知ってる。"Batman"が入ったTHE JAMのアルバム「IN THE CITY」 も持ってる(笑) でも、内容についてはあまり知らない。こんなに孤高のヒーローなのだろうか。たしかロビン少年とかバットガールという仲間がいたような? 世界観を変えたのだとしたら成功だと思う。

ゴッサムシティーのデザインがいい。ウェイン・タワーのある中心地は、前作より近未来的になった。郊外の少しレトロな街並みの中、前作で父が寄贈したモノレールの高架下をバットマンカー(?)で走る感じがいい。バットマンのデザインもいい。面白かったのは前作で着用したバットマンスーツ(?)が改良されるのだけれど、重いとかバックする時に首が回るようにしたいとか、けっこう庶民的でグチっぽい。まぁ、たしかに切実(笑) そういうやり取りを真面目にクリスチャン・ベイルがマイケル・ケインやモーガン・フリーマン相手にするのはおかしい。バットマンカーも装甲車だし(笑) もうカッコイイとかいうんじゃなくてバカ! しかも今回バイク状になる。これはもう素晴らしいバカデザイン! これは感動。もちろんホメてます! でも、この映画がアメコミっぽいのは、バットマンの超人的パワーとコスチューム、あとは武器やバットマンカーくらい。そしてトゥーフェイスが文字通りトゥーフェイスになってしまう辺りくらい。だからバットマンがありえない衣装を着て、超人的パワーで敵と闘っているにも関わらずとってもリアル。

ジョーカーを怪人とはせず異常犯罪者として描いたのがいい。現代には幽霊や怪人などより、よっぽど理解不能な怪物がいる。普通の人間の仮面を被って。だからジョーカーの行動や犯行は常軌を逸してはいるけれど、超人パワーを使ったものではない。これはバットマン vs ジョーカーの対決ではなくて異常犯罪者との闘いの物語としても十分おもしろい。多分その辺りを描きたいんだと思う。あとは善 vs 悪。悪であるジョーカーに対し、ハービー・デントやゴードン警部など正義が立ち向かうけれど、正義は実はもろい。トゥー・フェイスのように。善には自己犠牲がともなう。その象徴はバットマンだけど、船の乗客と囚人達の行動も同じ。罪なき人と罪人が同じ選択をしたことがそれを表している。このシーンは感動。

豪華キャスト達の演技が素晴らしい。この映画のもう1人のヒーロー、ハービー・デントはアーロン・エッカート。この人物が一番アニメ・キャラっぽい。後半は完全にアニメなので、ちょっと大味に見えてしまうけど、前半の熱血検事ぶりはいい。絵に描いたようなヒーローを演じても嫌味がないのは演技の上手さと、本人の個性によるものかも。いい意味で隙があって、キャラによってはそれが大人の余裕に見える。後半の姿はジョーカーの望んだ人間の脆さを表しているれど、そうなってしまう危険性は後から考えると前半の姿にも潜んでいる。彼もまた自らを犠牲にして人々を救おうとするけれど、それはブルース・ウェインのそれとは違う。あまり書いてしまうと面白くないけど、彼のは実はヒロイズム。自分では気づいてないと思うけれど自己陶酔。もちろんそれだけではないけれど。その自己陶酔と高潔な男のバランスが絶妙。だから後半やはりと思える。

バットマンが思いを寄せるレイチェルはマギー・ギレンホール。正直、アメコミのヒロインとしては手放しで美女とは言いがたいけれど、演技が上手いのでよし。レイチェルは強い信念を持って行動する女性。時にはその正義感から危険な目にあったりもする。でも、ひるまない強い女性。マギー・ギレンホールの少々オバさんっぽい容姿(失礼(笑))と抑えた演技のおかげで、ムチャをして主人公に迷惑をかけるウザイ女にはなっていない。今回、レイチェルはブルースとハービー・デントの間でゆれる。『スパイダーマン』のMJよりも大人で自己確立できている彼女の選択は納得できる。嫌な女になっていないのはマギー・ギレンホールのおかげ。前作ではケイティー・ホームズが演じていた。変更になった理由は不明だけど正解だと思う。このキャスト達の中でケイティー・ホームズでは役不足だったと思う。

ベテラン俳優達が素晴らしい。前作に引き続きルーシャス・フォックスを演じるモーガン・フリーマンはさすがの存在感。前作ラスト副社長になったので、今回はその立場を利用していろいろ活躍するけれど、役の感じとしては前作のスゴイ人なだけに閑職みたいな方がおもしろかったかも。でも彼がゆすり男リースに言う一言はカッコイイ。ゴードン警部役のゲイリー・オールドマンもいい。この役、意外に難しいと思う。フォックス、ゴードンと執事のアルフレッドはバットマンの協力者であり、心の支えとなる人物達。でも、ゴードンは利害関係がある。その辺、バットマンを利用するようにも描けるし、逆に崇拝してしまうようにも描ける。後者の要素が強いけれど、そうなり過ぎていないのはゲイリー・オールドマンの演技によるもの。バットマンを理解したうえで尊重している。そして、彼のことを気遣ってもいる。だからラストのセリフが生きる。

そして、アルフレッド役のマイケル・ケインが素晴らしい。いかにも英国の執事という佇まい。主人を守るということに徹底する。でも職務に忠実な機械のような人物ではない。そこには主人に対する愛がある。いつも執事服に身を包み姿勢正しく威厳に満ちているけれど、その表情や身のこなし、そして態度は品が良く柔らか。いろいろ、ホントにいろいろ多忙な主人ブルース・ウェインを優しく包み込む。この人はホントにアルフレッドなんじゃないかと思わせてしまう。とにかく素晴らしい。彼が「見捨てないのか?」と聞くブルースに「NEVER!」と答えるシーンがいい。この言い方が絶妙。気負いもないし、過剰すぎもせず、少しおどけた感じですらある「NEVER!」は主人公を救い、そしてプレッシャーにならない。それがスゴイ。多分、アルフレッドはこの状況を楽しんでると思う(笑) そういう雰囲気すら感じさせる。マイケル・ケインのアルフレッドに救われているのはバットマンだけではなく、この映画自体も大いに助けられていると思う。

そして主役2人。まずはバットマン=ブルース・ウェインを演じたクリスチャン・ベイル。神経質そうな感じがちょっと苦手。出演作は『ベルベット・ゴールド・マイン』『マシニスト』『プレステージ』しか見ていないと思っていたけど、『コレリ大尉のマンドリン』と『ある貴婦人の肖像』も見ていたようだ。でも、出演シーンを覚えていないので、あくまで3作品に限るけれど、どれもクセのある役ばかり。私生活でも暴力問題を起こしたりと、どうもあまり良いイメージがない。でも、いつもわりと無表情で淡々と演じている気がするのに、どの役もリアリティーがあるのは彼の演技が上手いからだと思う。バットマンがここまでリアルに感じられるのは彼のおかげ。実は大富豪ブルース・ウェインという人物も、そして彼が作り上げたバットマンも現実離れしたキャラ。でも、リアル。大袈裟に感情表現することはないのにブルースの苦しみが伝わる。それはスゴイ。彼が本当に存在しているかのような気になってくる。多分、前作の時点ではバットマンをずっと続けるつもりはなかった。でも、今作で彼は続けるために自分を犠牲にすることを決心する。それがタイトルである『ダークナイト』に繋がるのだけど、その辺りが多弁でないのにきちんと伝わってくる。プレーボーイを装う時ちとキモイのもいいと思う(笑) バットマンの時の声をすごく作ってるのが妙にリアルで笑える。もちろん褒めている。このシリーズのダークで大人な感じって、主人公が明るい人物ではないことと、苦悩しつつもかなり自分をコントロールできているということが大きいと思うけど、それはクリスチャン・ベイルの個性によるところが大きいと思う。この配役は素晴らしい。

そしてジョーカー役のヒース・レジャーがスゴイ! 狂気というけれどジョーカーは狂っているわけではない。イヤもちろん狂っているんだけど、絶対に彼の頭の中は冷静なんだと思う。そしてきちんと自分のしていることと、するべきことが見えているんだと思う。でも、その全部が狂っている。だから罪悪感はない。でも「神の声が聞こえた」とか言う狂気とは違う。彼は彼なりの信念に従って行動していて完全に正気。でも狂っている。だから怖い。理解できないものは怖い。でも、得体が知れないから逆に魅力的。圧倒的な悪って実は魅力的だったりする。ジョーカーはその1歩手前みたいな感じ。その感じも絶妙。魅力的であってもいいのだけれど、皆が魅了されてしまうほど魅力的じゃいけない。見る側に気になるけどやっぱり狂ってるという視点を持たせないといけない。見ている側は何とか理解しようとするから、何が彼をこうしてしまったのか原因を知りたいと思う。口から頬にかけての傷は父親の虐待によるものだと聞けば、やっぱりそうかと思う。でもその後、彼はいとも簡単にこれを覆す。その演技がスゴイ。父親の話を真実のように語った後、レイチェルに別の理由を語るけれど、その言い方には何の思い入れもないし、悪びれた様子もない。彼が語ることのいくつかは真実かもしれないし、どれも嘘かもしれない。理解できずに不安な気持ちがずっと続く。そして明確な答えは得られない。sex pistolsのジョニー・ロットンをイメージしたという衣装と、シロウトがしたとしか思えないメイク、そしていつもウェットなウェーブ・ヘア。喋る時にベチャベチャ舌を鳴らす感じが全て悪趣味で印象的。だけど大味じゃないのがスゴイ。メイクが時々はげたりしてリアル。彼が人間なのだと実感させられる。ジョーカーの狙いは結局よく分からないけれど、無理やり理由をつけるとすれば自己証明とかいう事になるのかな。間違った自己実現とか・・・。とにかくジョーカーを理解不能な人物として描きながら、理解したいと思わせる。適度に魅力的だけど共感は全くできない。正気でありながら狂気という感じが素晴らしい。このダーク感はいい。ヒース・レジャーは前から演技が上手いと思っていたけれど、これはスゴイ! 本当に惜しい才能(涙) ご冥福をお祈りします。

バットマンはマスクで、ジョーカーはメイクで素顔を隠しているけれど、多分2人にとって本当の自分はマスクもしくはメイクをしている時なんだと思う。少なくともバットマンではないブルース・ウェインの公の顔は本当の彼ではない。でも、多かれ少なかれ人は自分を守るため仮面を被っているところはある。主題はそこにあるのかなと思う。2人の真実の顔が正反対で、実は表裏一体なのもいい。どちらも異端であり孤独。だからこそ『ダークナイト』なんだと思う。そしてこの映画が最も言いたかったことは人間の本質は"善"であるということ。これは様々な人物達が見せる自己犠牲に象徴されている。それをこんなダークな感じで見せるのがいい。

戦闘シーンなどいくつかのシーンはIMAXで撮影されたとのことで、その映像はスゴイ迫力。そしてスピード感がスゴイ。これIMAXシアターで見たらすごいと思う。とにかく、独特のダークな世界観が好き。おもしろかった!


『ダークナイト』Official site

コメント (15)
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