'09.03.09 「上村松園・松篁・淳之 三代展」@日本橋高島屋8階ホール
高島屋美術館創設100年記念の展覧会。美人画の巨匠、女性で初めて文化勲章を受賞した上村松園。その息子で花鳥画の大家、文化勲章受章者の上村松篁。そして孫の淳之。親子三代の作品展。上村松園の美人画は大好き。私が世界一好きな絵「娘 深雪」は上村松園の作品。彼女には去年、島根の足立美術館で再会してきた。浄瑠璃『朝顔日記』の主人公深雪を描いたこの絵の、上品で清らかななまめかしさがホントに好き。今回、残念ながらこの作品は来ないけれど、松園の展覧会なのであれば行かなくては! ということで行ってきた。
順番的には松園 ⇒ 松篁 ⇒ 淳之といういう展示。それぞれのコーナーに、モニターが設置してあり、祖母松園・父松篁・そして自らについて上村淳之画伯が語る映像が流されている。ずっと流れているけれど、静かな語り口で語られる映像は鑑賞の邪魔にはならない。今回はパネルのみの展示となった、源氏物語の六条御息所を描いた「焔」が描かれたのは、スランプに陥った松園がもがき苦しみながら描いたものだというエピソードなどは、身近に居た人ならでわで興味深い。少し残業したので高島屋に着いたのは18:15くらい。20:00まで開館。しかし、空いている。大好きな松園をこんなにゆったり見れるなんて幸せ過ぎる。
【上村松篁】順番的には松園からだけど、松園についてはじっくり語りたいので、先に松篁作品から。最初の展示「真鶴」がいい。2枚組みの大きな絵。左に右側を向く鶴と、右に左の鶴に首を向ける鶴を描く。これは美しい。鶴は後に「丹頂」も展示されていて、これも2枚組みのかなり大きな作品。右の丹頂は首をすくめ片足で立つ。左の丹頂はそちらを向いた後姿。右の丹頂もかわいらしく、両足でスックと立つ左の丹頂の姿が美しい。これはつがいを描いているのかもしれない。静かで美しい雪景色の中に佇む丹頂の頭頂部の赤が映えて素晴らしい。
「冬暖」ではめずらしく人物を描いた作品。まだ冬の寒さが残る頃、庭に出ようとする少女達を描いている。これは実の娘を描いたそうで、おかっぱ頭に着物姿、赤い足袋がかわいらしい。廊下でこちらに背を向ける少女の赤いしぼりの着物が美しく、縁側から外に出ようとしている少女の紺地に色鮮やかなグラデーションの羽模様の着物が対比となっている。少女達の赤いほっぺから寒さと子供らしさを感じる。かわいらしい作品で好きだった。「月夜」は月夜のとうもろこし畑に2羽の白兎を描いた幻想的でかわいらしい作品。全体的に、月夜に照らされ青白く描かれた中に、とうもろこしの黄色がボウッと浮かび上がる。兎の親子がかわいらしい。その毛並みのふわふわしたやわらかさが伝わってくる。
「葛」は素晴らしい! プラチナ箔の地に、墨で画面上下に描かれた葛の葉と蔓。3本だけ咲いた赤い花は、先の白が印象的。画面中央やや右寄りに描かれた、橙色の鳥がなんともかわいらしくアクセントとなっている。これはすごく好き。そして「関庭迎秋」の鶏がいい。細部まできちんと描写したこの鶏を描いた時、まだ19歳だったそうで、帝展初出品で初入選した作品だそう。白い羽根の先だけ黒い鶏で、その繊細な描写は美しい。鶏といえば大好きな伊藤若冲だけど、若冲のような迫力と派手さはない。だけど、この絵が静かで、穏やかで本当にいい。19歳でこの境地ってちょっと老成し過ぎじゃないかと思ったりする(笑) 鶏ってけっこう大きくて、顔怖いし、意外にうるさい。でもこの絵には静けさがある。この絵に限らずどの作品からも感じるのは、静かで穏やかであるということ。きっと松篁画伯はそういう人だったのだろう。本当のことは分からないけれど、全ての絵から穏やかな人柄が感じられる。とっても心が落ち着く絵。すごく心地いい時間。
【上村淳之】孫の淳之画伯は現在も活躍されている。お父様の松篁画伯と同じ花鳥画家。「晨」は3羽の黄色い水鳥がかわいい。画面中央に左を向いて水の中の虫をついばむような姿勢の2羽と、顔を上げて鳴いたかのような左の1羽。どこまでが水で、どこからが空なのかその余白がいい。
「雁金」は月をバックに上下に並んで飛ぶ雁。月は満月だけどほぼ霞んでいる。月夜だけど暗くは描いていない。この墨色がいい。一見単一に見えるけれど、良く見るとぼかしで濃淡がつけて雲を表現している。並んで飛ぶ雁はつがいかもしれない。とってもかわいらしい。「水辺Ⅰ・Ⅱ」2枚組みの作品。左右どちらがⅠで、どちらがⅡなのか不明だけど、左が3羽の茶色い鳥が並んで左に向かって飛んでいる。静けさ中に彼らの羽音が聞こえるよう。でも、けっして騒々しいものではない。それは右の画面で2羽の羽根が黒い白の水鳥が、3羽が飛び立つのを眺めているかのように静かに佇んでいる姿からも感じられる。静かな命の営み。これは好き。
「蓮池」緑青色の水面に大きな蓮の葉、画面中央にスクッと立つ白鷺。鋭い目つきだけれど、何かが起こりそうな緊迫感などはない。静かで気高い瞬間。「秋映」蓮の葉が浮かぶ水面は夕日が映っているのか赤く染まっている。画面上から下まで斜め半分に赤や黄色に染まった蓮や水草を配し、右中央からやや上に2羽の水鳥を配した構図がいい。この色合いやグラデーションは西洋画を思わせたりする。全体的に淳之氏の作品からはやはり現代的な、少しくだけた印象を受ける。もちろんいい意味で。
【上村松園】「人生の花」母に添う花嫁。袖から覗く重ねの模様が愛らしい。黒の花嫁衣裳に散らした花が品がいい。髪を結う紐まで細かく描写。しっかりと描き出す筆致が素晴らしい。それに対する表情の上品で儚げな印象がいい。よく分からないけれど前に帯を締める黒留袖の母親がきりりとしていいていい。娘を送り出す母の気丈さが感じられる。
「花がたみ」これは何度か見ている作品。平安時代を思わせる衣装と髪型。十二単ではないけれど、小豆色の長袴をはいている。少し乱れた胸元や、だらしなく重ねた着物、その無表情な顔からは狂女を連想させる。これは恋に狂った照日前が花籠を持って狂人の舞を舞う姿を描いたものだそう。薄い緑の地に白い花模様の着物。白一色と思って良く見ると、花には薄いピンクが塗られている。遠目ではほとんど分からない、そういう細工が絵全体を浮き立たせている。
「楊貴妃」これは大作。そして妖艶。日本の女性達の奥ゆかしい中にあるなまめかしい色香とは違う。ドーンとした大胆な色っぽさ。まさに妖艶。オパーイもドーンと出てるし(笑) スランプに悩んでいた松園が息子松篁の帝展入選に刺激を受けて描いた作品だそう。ドーンと打ち出したのかもしれない。
「娘」これはすごく好き! 少し濃さの違う藤色っぽい着物を着た若い娘2人を、屏風に描く。右の女性は立ち姿で恥ずかしそうに首をかしげている。左に描かれた片膝を立てて座る娘の表情が美しい。2人の左右を大きく膨らませた髪型、嫁入り前の娘がするのだそうで、その清らかな美しさがいい。着物の細かな柄、帯の柄、髪か飾り、全てが美しい。右の女性の帯が赤、左の女性は緑と対比になっているのもいい。どういう情景なのかは分からないけれど、上品で穏やかな時間を感じる。
「虫の音」と「簾のかげ」はどちらも向こうから少し簾を開けて、こちらを覗く女性を描いたもの。どちらも大きさ、構図に大きな違いはないけれど、2人の個性は全く違う。「虫の音」の女性は明るく屈託の無い人柄を思わせるし、「簾のかげ」の女性は奥ゆかしくありながらも、実は大胆そうな印象。まぁ、勝手な印象だけど、そういうのも面白い。そして、どちらも品が良く、なまめかしい。
「京美人図」これも好き。松園の若い娘は品があって、なまめかしいけれど、どこかキリリとした印象があるけれど、これはホントにはんなり。団扇を手に欄干にもたれかかる。帯に押された胸元が色っぽいけれどいやらしくはない。これはなまめかしい。襟元の赤が藤色の着物に映えるし、女性の肌の白さを引き立たせる。ホントになまめかしくて素敵。
「春苑」飛鳥時代の女性のような衣装と髪形。これはまるで観音様のようなお顔。これは中国の梅の精にまつわる故事によるものだそう。なで肩が艶やかでなまめかしい。
「鼓の音」これもいい! 左手で鼓を持ち右肩の上に乗せ、右手はまさに鼓を打とうとしている。ピンと張り詰めた空気。美しくもキリリとした女性の表情。この後のポンっという音まで聞こえてくるかのよう。朱の着物がいい。口紅も同じ色。かんざしの装飾もかわいい。
「春」黒の花嫁衣裳に赤地に金色で大輪の花模様の帯。襟元と袖から覗く藤色と、薄い朱のグラデーションの重ね。白い襟の内から覗く赤と、桃色の揚帽子が女性の肌の白さを際立たせている。わずか3枚の桜の花びら、娘の花嫁姿の美しさで、春を表現しているのはさすが。
「待月」本日の1枚。かなり大きい。髷を結ったうなじが色っぽい。着物はあえて地味。黒の薄衣は裾に僅かな柄があるのみ、でも下の赤い格子模様の重ねがうっすら透けている。こういう心遣いは女性ならでは。少し曲げた腰と覗くように傾げた首のラインが細くなよやか。うぐいす色の地に金糸で兎を織り込んだ帯が素敵。今にもこちらを振り向きそうな迫力。でも、なまめかしく品がある。決してガサッと振り向いたりしないんだろう。そして、きっと「月が出ましたよ」と品良く、優しく思う人に言うのだろう。きっと相手はグッとくるんだろうな(笑) これはホントに素晴らしい。顔や表情が見えないのに、彼女はきっと少し眩しげに、美しい顔で月を待っている感じが分かる。素晴らしい。
とにかく女性が美しく品があってなまめかしい。この"なまめかしい"という表現って日本女性特有のものだと思う。大好きなミュシャの女性も美しく品があって色っぽいけれど、やっぱり"なまめかしい"のとは違う気がする。本人が隠しているのに匂い立つ色香は、日本画に描かれる美人特有のものだと思う。松園の美人画こそまさにそんな感じ。そしてキリリとしていて、でも、どこか儚げ。着物の柄や色、重ねなどが美しい。簪や櫛など装飾品の美しさや、趣味の良さは言うまでも無いけれど、少しだけ見せる髪を結った紐などの、ちょっとした色が何とも品が良く、女性の黒髪や肌の白さを引き立たせるだけでなく、絵全体のアクセントとなり、さらに品良くしている効果がある。ホントに趣味の良い人なのだろう。そして細部まで手を抜いていない。それが張り詰めた空気を生むけれど、圧迫感はない。心地よい緊張。はんなり、そしてふわりとした雰囲気もある。とにかく素晴らしい。本当に松園は大好き。
母、息子、孫と親子三代よくもまぁこれだけの才能に恵まれたものだと感動する。それぞれ日本画を描く。松園のみ美人画で松篁、淳之のお2人は花鳥画だけれど、それぞれ個性が違うのは見ていて面白い。それぞれに素晴らしいけれど、やっぱり松園の美人画が好き!
残念ながらこの展覧会は16日で終了。素晴らしい企画なのでもう少し長くやってほしかった。一般800円でこれらの素晴らしい絵を見る事が出来るなんてお得! でも、空いてたからなぁ・・・ 松園の素晴らしさもっと知って欲しい気がするけれど・・・ まぁ、仕方なし。
★上村松園・松篁・淳之 三代展:2009年3月4~16日 日本橋高島屋8階ホール
高島屋美術館創設100年記念の展覧会。美人画の巨匠、女性で初めて文化勲章を受賞した上村松園。その息子で花鳥画の大家、文化勲章受章者の上村松篁。そして孫の淳之。親子三代の作品展。上村松園の美人画は大好き。私が世界一好きな絵「娘 深雪」は上村松園の作品。彼女には去年、島根の足立美術館で再会してきた。浄瑠璃『朝顔日記』の主人公深雪を描いたこの絵の、上品で清らかななまめかしさがホントに好き。今回、残念ながらこの作品は来ないけれど、松園の展覧会なのであれば行かなくては! ということで行ってきた。
順番的には松園 ⇒ 松篁 ⇒ 淳之といういう展示。それぞれのコーナーに、モニターが設置してあり、祖母松園・父松篁・そして自らについて上村淳之画伯が語る映像が流されている。ずっと流れているけれど、静かな語り口で語られる映像は鑑賞の邪魔にはならない。今回はパネルのみの展示となった、源氏物語の六条御息所を描いた「焔」が描かれたのは、スランプに陥った松園がもがき苦しみながら描いたものだというエピソードなどは、身近に居た人ならでわで興味深い。少し残業したので高島屋に着いたのは18:15くらい。20:00まで開館。しかし、空いている。大好きな松園をこんなにゆったり見れるなんて幸せ過ぎる。
【上村松篁】順番的には松園からだけど、松園についてはじっくり語りたいので、先に松篁作品から。最初の展示「真鶴」がいい。2枚組みの大きな絵。左に右側を向く鶴と、右に左の鶴に首を向ける鶴を描く。これは美しい。鶴は後に「丹頂」も展示されていて、これも2枚組みのかなり大きな作品。右の丹頂は首をすくめ片足で立つ。左の丹頂はそちらを向いた後姿。右の丹頂もかわいらしく、両足でスックと立つ左の丹頂の姿が美しい。これはつがいを描いているのかもしれない。静かで美しい雪景色の中に佇む丹頂の頭頂部の赤が映えて素晴らしい。
「冬暖」ではめずらしく人物を描いた作品。まだ冬の寒さが残る頃、庭に出ようとする少女達を描いている。これは実の娘を描いたそうで、おかっぱ頭に着物姿、赤い足袋がかわいらしい。廊下でこちらに背を向ける少女の赤いしぼりの着物が美しく、縁側から外に出ようとしている少女の紺地に色鮮やかなグラデーションの羽模様の着物が対比となっている。少女達の赤いほっぺから寒さと子供らしさを感じる。かわいらしい作品で好きだった。「月夜」は月夜のとうもろこし畑に2羽の白兎を描いた幻想的でかわいらしい作品。全体的に、月夜に照らされ青白く描かれた中に、とうもろこしの黄色がボウッと浮かび上がる。兎の親子がかわいらしい。その毛並みのふわふわしたやわらかさが伝わってくる。
「葛」は素晴らしい! プラチナ箔の地に、墨で画面上下に描かれた葛の葉と蔓。3本だけ咲いた赤い花は、先の白が印象的。画面中央やや右寄りに描かれた、橙色の鳥がなんともかわいらしくアクセントとなっている。これはすごく好き。そして「関庭迎秋」の鶏がいい。細部まできちんと描写したこの鶏を描いた時、まだ19歳だったそうで、帝展初出品で初入選した作品だそう。白い羽根の先だけ黒い鶏で、その繊細な描写は美しい。鶏といえば大好きな伊藤若冲だけど、若冲のような迫力と派手さはない。だけど、この絵が静かで、穏やかで本当にいい。19歳でこの境地ってちょっと老成し過ぎじゃないかと思ったりする(笑) 鶏ってけっこう大きくて、顔怖いし、意外にうるさい。でもこの絵には静けさがある。この絵に限らずどの作品からも感じるのは、静かで穏やかであるということ。きっと松篁画伯はそういう人だったのだろう。本当のことは分からないけれど、全ての絵から穏やかな人柄が感じられる。とっても心が落ち着く絵。すごく心地いい時間。
【上村淳之】孫の淳之画伯は現在も活躍されている。お父様の松篁画伯と同じ花鳥画家。「晨」は3羽の黄色い水鳥がかわいい。画面中央に左を向いて水の中の虫をついばむような姿勢の2羽と、顔を上げて鳴いたかのような左の1羽。どこまでが水で、どこからが空なのかその余白がいい。
「雁金」は月をバックに上下に並んで飛ぶ雁。月は満月だけどほぼ霞んでいる。月夜だけど暗くは描いていない。この墨色がいい。一見単一に見えるけれど、良く見るとぼかしで濃淡がつけて雲を表現している。並んで飛ぶ雁はつがいかもしれない。とってもかわいらしい。「水辺Ⅰ・Ⅱ」2枚組みの作品。左右どちらがⅠで、どちらがⅡなのか不明だけど、左が3羽の茶色い鳥が並んで左に向かって飛んでいる。静けさ中に彼らの羽音が聞こえるよう。でも、けっして騒々しいものではない。それは右の画面で2羽の羽根が黒い白の水鳥が、3羽が飛び立つのを眺めているかのように静かに佇んでいる姿からも感じられる。静かな命の営み。これは好き。
「蓮池」緑青色の水面に大きな蓮の葉、画面中央にスクッと立つ白鷺。鋭い目つきだけれど、何かが起こりそうな緊迫感などはない。静かで気高い瞬間。「秋映」蓮の葉が浮かぶ水面は夕日が映っているのか赤く染まっている。画面上から下まで斜め半分に赤や黄色に染まった蓮や水草を配し、右中央からやや上に2羽の水鳥を配した構図がいい。この色合いやグラデーションは西洋画を思わせたりする。全体的に淳之氏の作品からはやはり現代的な、少しくだけた印象を受ける。もちろんいい意味で。
【上村松園】「人生の花」母に添う花嫁。袖から覗く重ねの模様が愛らしい。黒の花嫁衣裳に散らした花が品がいい。髪を結う紐まで細かく描写。しっかりと描き出す筆致が素晴らしい。それに対する表情の上品で儚げな印象がいい。よく分からないけれど前に帯を締める黒留袖の母親がきりりとしていいていい。娘を送り出す母の気丈さが感じられる。
「花がたみ」これは何度か見ている作品。平安時代を思わせる衣装と髪型。十二単ではないけれど、小豆色の長袴をはいている。少し乱れた胸元や、だらしなく重ねた着物、その無表情な顔からは狂女を連想させる。これは恋に狂った照日前が花籠を持って狂人の舞を舞う姿を描いたものだそう。薄い緑の地に白い花模様の着物。白一色と思って良く見ると、花には薄いピンクが塗られている。遠目ではほとんど分からない、そういう細工が絵全体を浮き立たせている。
「楊貴妃」これは大作。そして妖艶。日本の女性達の奥ゆかしい中にあるなまめかしい色香とは違う。ドーンとした大胆な色っぽさ。まさに妖艶。オパーイもドーンと出てるし(笑) スランプに悩んでいた松園が息子松篁の帝展入選に刺激を受けて描いた作品だそう。ドーンと打ち出したのかもしれない。
「娘」これはすごく好き! 少し濃さの違う藤色っぽい着物を着た若い娘2人を、屏風に描く。右の女性は立ち姿で恥ずかしそうに首をかしげている。左に描かれた片膝を立てて座る娘の表情が美しい。2人の左右を大きく膨らませた髪型、嫁入り前の娘がするのだそうで、その清らかな美しさがいい。着物の細かな柄、帯の柄、髪か飾り、全てが美しい。右の女性の帯が赤、左の女性は緑と対比になっているのもいい。どういう情景なのかは分からないけれど、上品で穏やかな時間を感じる。
「虫の音」と「簾のかげ」はどちらも向こうから少し簾を開けて、こちらを覗く女性を描いたもの。どちらも大きさ、構図に大きな違いはないけれど、2人の個性は全く違う。「虫の音」の女性は明るく屈託の無い人柄を思わせるし、「簾のかげ」の女性は奥ゆかしくありながらも、実は大胆そうな印象。まぁ、勝手な印象だけど、そういうのも面白い。そして、どちらも品が良く、なまめかしい。
「京美人図」これも好き。松園の若い娘は品があって、なまめかしいけれど、どこかキリリとした印象があるけれど、これはホントにはんなり。団扇を手に欄干にもたれかかる。帯に押された胸元が色っぽいけれどいやらしくはない。これはなまめかしい。襟元の赤が藤色の着物に映えるし、女性の肌の白さを引き立たせる。ホントになまめかしくて素敵。
「春苑」飛鳥時代の女性のような衣装と髪形。これはまるで観音様のようなお顔。これは中国の梅の精にまつわる故事によるものだそう。なで肩が艶やかでなまめかしい。
「鼓の音」これもいい! 左手で鼓を持ち右肩の上に乗せ、右手はまさに鼓を打とうとしている。ピンと張り詰めた空気。美しくもキリリとした女性の表情。この後のポンっという音まで聞こえてくるかのよう。朱の着物がいい。口紅も同じ色。かんざしの装飾もかわいい。
「春」黒の花嫁衣裳に赤地に金色で大輪の花模様の帯。襟元と袖から覗く藤色と、薄い朱のグラデーションの重ね。白い襟の内から覗く赤と、桃色の揚帽子が女性の肌の白さを際立たせている。わずか3枚の桜の花びら、娘の花嫁姿の美しさで、春を表現しているのはさすが。
「待月」本日の1枚。かなり大きい。髷を結ったうなじが色っぽい。着物はあえて地味。黒の薄衣は裾に僅かな柄があるのみ、でも下の赤い格子模様の重ねがうっすら透けている。こういう心遣いは女性ならでは。少し曲げた腰と覗くように傾げた首のラインが細くなよやか。うぐいす色の地に金糸で兎を織り込んだ帯が素敵。今にもこちらを振り向きそうな迫力。でも、なまめかしく品がある。決してガサッと振り向いたりしないんだろう。そして、きっと「月が出ましたよ」と品良く、優しく思う人に言うのだろう。きっと相手はグッとくるんだろうな(笑) これはホントに素晴らしい。顔や表情が見えないのに、彼女はきっと少し眩しげに、美しい顔で月を待っている感じが分かる。素晴らしい。
とにかく女性が美しく品があってなまめかしい。この"なまめかしい"という表現って日本女性特有のものだと思う。大好きなミュシャの女性も美しく品があって色っぽいけれど、やっぱり"なまめかしい"のとは違う気がする。本人が隠しているのに匂い立つ色香は、日本画に描かれる美人特有のものだと思う。松園の美人画こそまさにそんな感じ。そしてキリリとしていて、でも、どこか儚げ。着物の柄や色、重ねなどが美しい。簪や櫛など装飾品の美しさや、趣味の良さは言うまでも無いけれど、少しだけ見せる髪を結った紐などの、ちょっとした色が何とも品が良く、女性の黒髪や肌の白さを引き立たせるだけでなく、絵全体のアクセントとなり、さらに品良くしている効果がある。ホントに趣味の良い人なのだろう。そして細部まで手を抜いていない。それが張り詰めた空気を生むけれど、圧迫感はない。心地よい緊張。はんなり、そしてふわりとした雰囲気もある。とにかく素晴らしい。本当に松園は大好き。
母、息子、孫と親子三代よくもまぁこれだけの才能に恵まれたものだと感動する。それぞれ日本画を描く。松園のみ美人画で松篁、淳之のお2人は花鳥画だけれど、それぞれ個性が違うのは見ていて面白い。それぞれに素晴らしいけれど、やっぱり松園の美人画が好き!
残念ながらこの展覧会は16日で終了。素晴らしい企画なのでもう少し長くやってほしかった。一般800円でこれらの素晴らしい絵を見る事が出来るなんてお得! でも、空いてたからなぁ・・・ 松園の素晴らしさもっと知って欲しい気がするけれど・・・ まぁ、仕方なし。
★上村松園・松篁・淳之 三代展:2009年3月4~16日 日本橋高島屋8階ホール