熊野本宮大社の参詣を終えて、国道168号線を北上する。県境を越え、十津川村から五條市を経由するルートである。この国道168号線は新宮から続いていて、奈良県に入った後も他の国道と重複しながら大阪府に入り、終点は枚方の天の川交差点だという。枚方が終点とは知らなかった。
以前にも国道168号線で十津川を経由して熊野に行ったこともあるし、大和八木から新宮まで結ぶ「日本一長い路線バス」に延々揺られたこともある。そもそもが「酷道」の部類に入るのだが、それでも新しいトンネルや橋梁の工事が進められていて、谷間に建設中の橋脚を見ることもあった。そして通るたびに少しずつ新しいルートができつつあるのを見る。この辺りは自然災害で何度も道路が寸断される被害に遭っており、そのたびに沿道の人たちの生活に大きな影響が出ている。また、紀伊半島の沿岸部・内陸部の交流の促進や、奈良県南部の活性化もあり、道路を整備しているところだ。
ただ、それもまだまだ工事は道半ばである。十津川村内では昔からのカーブが連続する区間が続き、スピードが出ないため移動するクルマが列をなす。そして新しいトンネルや橋になると、こらえきれなくなった飛ばし屋が一気に車線をはみ出して追い越しをかける・・ということもしばしばある。中にはトンネルの中で追い越しをかけ、対向車が不意に現れて慌てて元の車線に戻るという輩もいて、見ていてヒヤッとする(奈良ナンバーではなかったので、よそから来たのだろう)。こんなところで無茶して事故が起きても、救急車はなかなか来ないぞ。
一般のクルマはこうした広い道も通れるが、路線バスはやはり停留所のある旧道を忠実に走っているのだろう。集落と集落を結ぶ役割もあるし、それだと現行の八木~新宮6時間半というのは変わらないのだろうな・・(ちなみにこの道中で新宮行き2本とすれ違った)。
さて、この日は昼食が欠食になるが、せめて温泉に浸かることにしよう。十津川温泉は通り過ぎてしまったので、村役場に近い温泉地(とうせんじ)温泉に立ち寄ることにする。この読みは、かつて薬師如来を祀る「東泉寺」という名前の寺があったことに由来するという。
立ち寄り湯の「泉湯」に入る。小ぢんまりとした湯だが、川を見下ろす露天風呂もあり、ちょうど家族連れが出た後だったので浴場を独占する。30分ほど、気持ちよい時間を送る。
先頭の横によろずやがあり、目の前には缶ビールも並んでいる。湯上りに・・・とはいかず、大阪まで我慢だ。
この後、巨大なダム湖を持つ風屋ダムの横を過ぎる。クルマを停めてダム湖をのぞくが、結構横の地肌も見えていて、貯水率という点から見ると「大丈夫かな?」と思った。ただこの辺りのダムとなると、下流の水がめというよりは発電に使われているし、また今後の大雨をにらんでわざと水位を低くしているのかもしれない。
この先には有名な谷瀬の吊橋がある。高いところが苦手で吊橋を渡るのは無理にしても、せめてその姿を見よう。ただ、国道からの標識を見落としてそのままトンネルに入ってしまう。まあ、わざわざ引き返すのも面倒だからそのまま進む。
大規模工事、離合がやっとの道、十津川もさまざまな動きがある。次に来る時にはどのような新しい表情を見せるだろうか。
十津川村を後にして五條市に入る。まだまだ山間の区間で厳しいカーブも連続する。
そんな中、前方に高架橋が見えてきた。幻の五新線の跡である。かつて、紀伊半島を縦断する形で五條から新宮を鉄道で結ぶ構想があり、その前段で五條から阪本まで先行開通させるとして工事が進められた。しかし、時代の移り変わりの中で国道168号線の整備も進み、工事は凍結、鉄道が走ることはなかった。その後、建設された区間はバス専用道としても活用されたが、その運行も取りやめとなった。
さらに時代は進み、現在は国道168号線も新たな道に生まれ変わりつつある。さすがに高速道路とまではいかないが、全通すれば十分なインフラになる・・ということか。
少しずつ周りが開けてきて、五條市の中心部に入る。その後は京奈和道から南阪和道に入り、順調に大阪府に戻る。レンタカーは18時までの契約だが、30分以上余裕を残して返却することができた。1泊2日、三重県の西国四十九薬師の札所、熊野灘の眺め、そして熊野三山とさまざまな歴史文化や景色を堪能することができた。
さて、予定より余裕を持ってレンタカーを返却できたので、新幹線の時間も変更する。帰りは「こだま」限定の「新幹線直前割」ではなく普通に指定席を買っていたが、18時06分発の「みずほ613号」に変更する。少しでも早く帰宅しようということで、新幹線の中でようやく缶ビールにありつく。
・・・さて、西国四十九薬師プラス熊野三山という大回りをした後の8月6日(広島原爆の日)。夕方にふとメールをチェックすると、このような文言のメールが入っていた。
「WEST EXPRESS銀河の旅 繰り上げ当選について」
この夏以降、京都から紀勢線に向けて運行される「WEST EXPRESS銀河」。5月だったか、その新宮行きの8月27日夜~28日朝運行分の申し込みをしていたのだが、相変わらずの高倍率で当たるわけもなく、いつの間にか当選者への通知日も過ぎていた。まあ、それも見越して8月29日に京セラドームでの野球観戦を予定し、その前日には西国四十九薬師めぐりのサイコロで大津を訪ねることにしていた。
それが、ここに来ての「繰り上げ当選」である。キャンセルが出たためと思うが、私にとっては昨年9月運行の出雲市行きに続いての「繰り上げ当選」。そんなことが2回もあるとは恐れ多い。一番シンプルなリクライニングシートで、宿泊先は新宮のビジネスホテル。それでもすごい倍率である。
・・・これ、熊野三山のご利益といってもいいだろう。ちょうど行き先が紀勢線の新宮である。そこから帰ってきてしばらくしてこうした通知だから、何かあるといってもいいのではないかな(前回の出雲市行きが中国観音霊場のお導きだったことも踏まえて・・)。
野球観戦のことも頭には浮かんだが、即決して旅行代金を決済した。いやこれは、行くべきでしょう・・・。