まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

あね、おとうと

2013-05-12 | フランス、ベルギー映画
 今年のフランス映画祭(こちら)で上映される作品のラインナップが発表されましたね♪
 ロマン・デュリス、メルヴィル・プポー、マリク・ジディなど大好きなボーギャルソン出演作や、フランソワ・オゾン監督の新作など、どれも観たい垂涎の作品ばかり。映画祭に行けない田舎暮らしが、つくづく恨めしいです…
 映画祭には行けないので、個人的に独りフランス映画祭を開催することにしました。フランスが誇る大物女優が名監督と組んだ8作品をピックアップ!

 フランスの名匠+大女優映画祭①
 「私の好きな季節」
 最近、アンドレ・テシネ監督の作品って日本で公開されなくなりましたよね。本国フランスでは、魅力的なキャストで面白そうな作品をコンスタントに発表してるみたいなのに。残念でなりません。私、テシネ監督の作品がすごく好きなんです。愛や人生の機微を繊細に深く、でも決して難解には描かない作風には、いつも魅了されていました。カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・アジャーニ、エマニュエル・ベアール、ジュリエット・ビノシュ、サンドリーヌ・ボネール、キャロル・ブーケなど、いつも大物女優をヒロインに迎えてるところも大きな魅力。数あるテシネ監督作の中でも特にマイフェイバリットなのが、このホロ苦くも優しい家族ドラマ「私の好きな季節」です。
 エミリーは、美貌、家庭、社会的ステイタスにも恵まれた中年女性。幸せな人生を送っているかのように見える彼女だが、離れて暮らす老母とは確執があり、夫と娘とはどこか距離のある関係となっていた。脳梗塞で倒れた母を引き取ることにしたエミリーは、疎遠になっていた弟のアントワーヌと再会する。優秀な医師だが、エミリー以外の女性に興味がなく独身のアントワーヌ。彼の屈折した愛は、姉の家庭や心に波風を立て始めて…
 生きるか死ぬかの恋、狂気の愛、破滅へまっしぐら、が専売特許みたいなフランス映画にしては珍しく、現実的な家族の物語です。老人問題、夫婦間の冷却、世代の断絶などに直面した家族の姿を、ヘンに生々しく深刻に描かず、終始優しく淡々とした展開で織り成しています。恋愛だけじゃないフランス映画は新鮮です。

 登場人物もみんな、普遍的かつ個性的。私たちの近くにもいそうだけど、ああやっぱフランス人だなと呆れたり感心したりする人々の、悲喜こもごもな群像劇。エミリーとアントワーヌ姉弟のママみたいな我が強くて依怙地な婆さんとか、エミリーの旦那みたいな優しさが表面的でメンドいことを上手に避ける男とか、いるいる~と苦笑いを誘われます。
 できれば見て見ぬふりをしたい、避けて通りたい現実に行く手を阻まれ、オロオロしてしまう姉。大人になりきれないシスコン弟。二人のやりとりは、時に滑稽で時にイタい。特にアントワーヌは、かなりエキセントリックでヤバいです。大嫌いな義兄に食ってかかって大げんかしたり、発作的に窓から飛び降りて大けがしたり、メンドくさすぎるトラブルメーカーぶり。あんな弟いたら困るよな~。エミリーの、感情や本音をほとんど表に出さない、どこか冷感症的な性格と言動は、確かに愛する人たちを苛立たせたり不安にさせたり、時には傷つけもするよな~とも思えた。オロオロしてるようで、実は彼女こそ周囲を狼狽させてる張本人に見えました。人を愛せず、人に愛されるだけの人の怖さ、孤独がエミリーには滲み出ているようでした。

 どこかフツーじゃないエミリーとアントワーヌの関係ですが、近親相姦を匂わせるようなものではありません。変わってるけど、すごく仲がいい姉弟、仲がよすぎてお互いが解かりすぎてイヤになったり面倒くさくなったり、みたいな関係。姉弟の関係も、母子も夫婦も、その間にある問題や葛藤は日本人にとっても共感を抱けるものなのですが、対応の仕方、考え方は異なるところが面白いです。フランス人ってホント、自分の意思や主張、価値観を大切にしてるんだなあ。舌鋒激しく鋭く、本音を容赦なくぶつけ合うフランス人って、一緒にいたら疲れる人種ですよねえ。日本人の慎ましさって、やっぱ美しいわ。
 エミリー役は、大女優カトリーヌ・ドヌーヴ。いつもの完全無欠な華麗なるヒロインではなく、現実問題に揺れるフツーの(つっても、やっぱ美しさとオーラは尋常じゃないが)中年女性役を、しみじみと演じていて好感。アントワーヌ役は、フランス屈指の演技派ダニエル・オートゥイユ。見た目だけでも強烈な個性派です。姉ちゃん命な子供っぽい変人を、ちょっと怪しく、でもトボけた感じにキモオモロく熱演してます。それにしても。ドヌーヴとオートゥイユが姉弟役だなんて、かなり無理があるぞ。ちなみにテシネ監督、ドヌーヴとオートゥイユの3人が再結集した「夜の子供たち」は、ブノワ・マジメルを初めて知った作品。ブレイク前のブノワが、めっちゃカッコいいの!ブノワのみならず、テシネ監督の作品には新人時代のギャスパー・ウリエル(「かげろう」)、アレクシス・ロレ(「溺れゆく女」)、マリク・ジディ(“Les Temps qui changent”)が。イケメン発掘の名手でもあるテシネ監督なのです。
 エミリーの内気な娘役は、ドヌーヴの実娘であるキアラ・マストロヤンニ。これがデビューだとか。パパの故マルチェロ・マストロヤンニとクリソツです。あと、チャップリンの孫娘とかも出てます。エミリー夫婦の養子役の男子がイケメンだった。
 家族の関係と心の変化を、春、夏、秋、冬それぞれの季節のうつろいに重ねた構成と、美しく撮られた四季の風景も素晴らしいです。特に、初夏の清涼感あふれる新緑と、クリスマスの雪景色が好き。静かで優しい余韻を残すラストシーンも印象的です。
 蛇足ですが。この映画、DVDの邦題が「背徳の囁き」…JAROに通報ものな酷いタイトルをつけらてちゃってます。エロい禁断ものを期待して観て、何じゃこりゃー!と激怒された被害者(?)、結構いそうですね
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする