まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

12年奴隷

2014-03-26 | イギリス、アイルランド映画
 「それでも夜は明ける」
 奴隷制度が廃止される前のアメリカ。ニューヨークで妻子と幸せに暮らしていた自由黒人の音楽家ソロモンは、騙されて拉致され、奴隷としてニューオーリンズに売り飛ばされる。残虐な農場主エップスのもとで、地獄のような奴隷生活を強いられるソロモンだったが…
 今年のアカデミー賞で作品賞を受賞した話題作を、やっと観ることができました。「SHAME シェイム」のスティーヴ・マックイーン監督作品。
 覚悟はしてましたが…こ、これほどとはひ、ひどい、非道すぎる~!としか言えない内容に、観てる間も観終わってからも、鬱々しい気分が容赦なく私を飲み込んでました。とにかく、ほんま非道いんですよ~!こんなことが、本当にあっただなんて。アメリカ、怖い国!!奴隷制度の非情さ残酷さは、これまで様々な映画やドラマ、本などで見聞きしてきたけど、これほど悲痛悲憤なしで観られぬ映画はありません。アメリカ人にとって、決して拭えない忘れてはならない歴史の暗部、恥部…日本人もまた、日本が過去に犯した恐ろしい過ちについて、あらためて考えさせられる映画でもあります。
 ムチ打ちにリンチに首つり、性的虐待etc.奴隷たちが受けるあまりにも非道な仕打ちが、これでもかー!!と言わんばかりに残酷でリアルに描かれていて、もう耐えられない!カンベンしてくださいっ!と、目を覆い耳を塞ぎたくなりました。もう家畜以下な扱い。家畜のほうが、もっと大事にされてた。家畜には、精神的な虐待はないですし。肉体的な酷使や暴力同様、人間的な感情を無視され踏みにじられる屈辱も、おぞましくて戦慄。人間って、こんなことができちゃうんだ…と暗澹となります。今でこそ赦されざる過ちですが、当時の人々にとってはあれが当たり前だったんだよなあ。それが恐ろしい。あの時代に生まれなくてよかった、と心底思いました。私が奴隷だったら、2日ともたないだろうし。かといって、白人に生まれてたら確実に社会通念に従って、当り前のように奴隷を酷使し虐げてたでしょうし。それも本当に想像しただけでゾっとします。

 自由黒人として幸せに暮らしてたソロモンが、いきなり拉致られて奴隷として売り飛ばされるのですが…北朝鮮の拉致被害者を思い出してしまいました。突然自由を剥奪されて、わけのわからないまま知らない土地で強制労働、誰も助けてくれないなんて、気が遠くなるよな絶望。どんな目に遭っても生き抜こうとするソロモンの、気丈さと賢さに感嘆。家畜以下の扱いを受けながらも、人間としての誇りを失わないソロモン、カッコよすぎです。私なら、もう自分から人間放棄するでしょうし…ソロモンの賢さと誇りが、サバイバルするための両刃の剣になってたのが、スリリングで興味深かったです。あんまし頭がよくてプライドが高いと、無能で卑しい奴らに憎まれて目の敵にされるし。でもバカで卑屈すぎると、本当に犬死してしまう。ソロモンの聡明さとプライドが、吉と出たり凶と出たりな地獄の繰り返しでした。

 ソロモンにしても、奴隷に堕ちる前は、同じ黒人の地獄もよそ事のように生きてたんですよね?同じ地獄に堕ちて初めて、地獄の痛みや苦しみを知ることができるんだなあ。世界中で起きてる理不尽な悲劇に、声高に怒ったり悲しんだりしても、安穏で無傷な環境の中だとしょせん他人事。本当の苦痛や苦しみなど理解できるはずもないのでしょうか。ともあれ、今の自分たちの平和と幸福は、誰かの犠牲の上で成り立っている…ということは、常に自覚せねばなりません。
 お涙ちょうだい的な甘さなど皆無、心が病んでしまいそうなほどの苛烈なシーン、緊迫したムードで張りつめてる映画なので、温かい感動とかを期待してる人は、ぜったい観ないほうがいいです。でも、俳優たちの鬼気迫る熱演は見応え十分。シビアすぎる内容のわりには、なかなか男前度が高い作品でもあります。
 ソロモン役のキウェテル・イジョフォーは、まさに入魂の演技!全身全霊の演技もさることながら、男前ぶりも印象的。情味と知性があって魅力的です。この作品で大注目されましたが、以前から「ラブ・アクチュアリー」や「堕天使のパスポート」など、地味にいい仕事してますよね。
 奴隷を虐げるエップス役のマイケル・ファスベンダーが、こ、怖い~!非道い~!そして、カッコいい~

 悪人、というより、もはや狂人なエップスを激演してるファスベン。異常人格っぷりが炸裂すればするほど、壮絶な美男に見えてしまうなんて。まさに悪魔的な魅力!パッツィーへの執着ぶり、奴隷への狂気的な虐待は、ほとんど異常者。凶暴で病的なドSっぷりにドン引きしつつ、あんな男前なら夜だけの奴隷になりたい…なんて、不埒なことを思ってしまったり邪悪も狂気も、ファスベンのような美男だと魅力となります。パッツイを追っかけ回したり、ソロモンにネチネチと絡んだりする姿は滑稽なほど子どもっぽく、むしろ可愛く見えてしまった。あんな役でも、男の魅力と悲哀を漂わせたファスベンは、やはり稀有な役者です。パジャマの上だけ?着てる姿とか、頭に巻いてるターバンとか、何かキュートでした。
 白人どもは、どいつもこいつも憎々しい連中ばかりでしたが、中でも卑劣で最悪~と不快になったのは、ソロモンをイヂメ抜く若い大工(「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の怪演も忘れがたいポール・ダノ)と、パッツィーをイビリ抜くエップスの鬼妻ですよ。劣等感と嫉妬って、ここまで人間を醜くするのか~とオゾケをふるいました。
 その他、日本でも人気のベネディクト・カンバーバッチが、心優しい農場主役で前半チョコッと出てます。バッチさん、個性的な顔だとは思いますが、わしのタイプじゃないんだよなあ。彼が演じた、優しいけど生きるためには長いものに巻かれるキャラは、現代にも通じる小さくて悲しい人間像です。

 ラスト近く、カナダ人の流れ者役で登場するブラッド・ピットは、この映画のプロデューサーでもあります。ソロモンにとってまさに救世主的な役なのですが、彼のおかげであっさり地獄から抜け出せる展開に、何か肩すかし。もっと早く出会えたらよかったのにね…ファスベンVSブラピの男前対決、できればファイトクラブっぽい肉弾戦にしてほしかった(笑)。ブラピ、今でも男前ですが、何だかもうおじいさんっぽくなてる?!一世代下のファスベン、さすがにブラピと並ぶと若い!そーいやこの二人、「イングロリアス・バスターズ」「悪の法則」に続いての共演ですね。
 この映画で最も悲痛かつ強烈な演技を披露しているのは、パッツィー役のルピタ・ニョンゴです。ソロモンより悲惨無残。黒人としてだけでなく、女としても痛みや悲しみ、怒りを背負ったパッツィーを見てると、こっちまで苦しくなって疲れ果ててしまう。近年他に例を見ぬほどヘヴィな役でした。アカデミー助演女優賞受賞も納得のインパクトです。
 気分が落ち込んでいたり、心が疲れてる時には観ないほうがいい映画です。精神的ムチ打ちが好きなドMな方には、超オススメです…

 ↑12年奴隷チーム、オスカーおめでと~ブラピは今後、俳優業からプロデューサー業にシフトしそうですね。賢い道だと思う。ニョンゴさんもオスカーおめでと~授賞式のドレス、素敵でした!

 ↑ファスベン、男前~!盟友であるマックイーン監督と初めてタッグを組んだ「HUNGER/ハンガー」も、すごい衝撃作だとか。監督さんよお、ハンストとかセックス中毒とか虐待とか、なんでそんなエグい役ばかりファスベンにやらせるの?!まさにドSな監督とドMな役者の愛のコラボですね♪


 
コメント (4)
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