「ある画家の数奇な運命」
ナチス政権下のドイツ。少年クルトは美しい叔母の影響で芸術になじむが、精神を病んだ叔母はナチスの安楽死政策によってガス室送りとなる。戦後、クルトは美術学校で出会ったエリーと恋に落ちる。エリーの父は、クルトの叔母のガス室送りを決定した元ナチスの医師だった…
「善き人のためのソナタ」のフローリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督作。数年前のアカデミー賞で、外国語映画賞と撮影賞にノミネートされたドイツ映画。ずっと気になって観たいと思ってたのですが、上映時間が3時間以上あると知り、ちょっと引いてしまいました。長い映画が苦手なんです私。迷った末に観に行ったのですが、観に行ってよかったです!3時間が全然苦痛じゃなかったです。それは、2時間でもキツい映画が多い中、この作品が稀有な佳作である証です。
主人公が愛と芸術に生きるのが、ナチスと冷戦というドイツの暗黒時代。本当に起きたこと、同じ人間同士がやったこととは信じられない、信じたくない悲劇の数々に暗澹となってしまいましたが、この映画は不思議と暗くも重苦しくもなく、とにかく物語を進める演出と映像がめくるめく流麗さ。オスカー候補も納得の撮影の素晴らしさに感嘆。ヨーロッパの風景って本当にフォトジェニック。暗い時代を感じさせない美しさ、輝きに魅せられました。建物も趣深くて、病院とか大学も由緒と歴史を感じさせます。美しい演出も少なくなく、夜空から銀の神が降ってくる爆撃シーンが特に好き。死と恐怖が、あんなにも幻想的で神秘的に。青年クルトが初登場する草原を走るシーンも印象的でした。
激動の時代を生き抜く人物たちも、それぞれ個性的で魅力的でした。主人公のクルトは、芸術家にありがちなエキセントリックすぎ、破滅的なキャラではなく、ほどよく情熱的でかなり常識的、現実的な若者だったのがよかったです。壮絶な時代で少年、青年期を送ったクルトですが、クルト自身にはそんなに不幸も悲劇も起こらず、愛にも芸術にもわりと順風満帆。大した辛酸もなめず、苦労といえば病院で掃除のアルバイトするぐらい。彼の代わりに周囲の人々が残酷な時代の生贄になってた、そのコントラストが悲しかったです。特にクルトの若く美しい叔母の末路ときたら、あまりにも無残でトラウマ級です。断種とか淘汰とか、おぞましすぎる狂気の沙汰。今の時代に生まれて本当によかった、と痛感しました。
ナチス時代ほどの残虐さはないけど、冷戦時代もかなり非道。とにかく窮屈で不自由。西ドイツに亡命するシーンが、なかなかスリリングでした。意外とあっけなく成功したけど、あれはベルリンの壁ができて厳しくなる前のことだったからですね。その点でもクルトは幸運でした。クルトが学ぶ美術大学で行われてるアート活動や作品が、凡人には理解不可能だけど珍奇で面白かったです。
クルトが光の主人公なら、ゼーバント教授は影の主役でしょうか。二人の因縁こそ数奇。とにかくゼーバントの生きざまと所業が罪深く忌まわしかった。本当に恐ろしい男。悪いと思ってないところが怖い。暗黒時代における彼なりのサバイバルでもあったんだろうけど、本性は真性ナチス。あんな人が戦後も社会的に高い地位を保ち権力を振るい、安らかに天寿をまっとうするなんて、ほんと不公平で理不尽。そんな自分たちの暗部を映画やドラマのネタにし続けるドイツ人、そのたくましいメンタルに畏怖。
クルト役のトム・シリング、初めて知りましたがいい役者ですね!はじめは地味だな~ヤニス・ニーヴナーだったらよかったのに、なんて不満だったけど、見慣れてくるとすごくカッコカワいい♡たま~に、若い頃のブノワ・マジメル、ゴツくなった山崎賢人に見えたり。山崎賢人ほどイケメンではないけど、山崎賢人には絶対にできない役と演技でした。とにかく脱ぎっぷりがよかった。ラブシーンでのすっぽんぽんっぷりは、お見事の一言。恋人の部屋の窓から外の木に飛び移って逃げるシーンの、全裸猿っぷりが可愛かった。画家にしてはマッチョすぎ、でも私好みのガチムチ裸体は眼福。
恋人役のパウラ・ベーアは、オゾン監督の「婚約者の友人」でヒロインを演じた女優ですね。すごい美女ではないけど、媚び媚なブリっこ女優にはない人間味と怜悧さ、そして大胆さに好感驚嘆。トム・シリングに勝るとも劣らない脱ぎっぷりで、ラブシーンだけでなく大学の階段で全裸モデルになるシーンには圧倒されました。何度かある全裸ラブシーンは、大胆だけどイヤらしさは全然なく、愛し合ってる感が温かく優しく伝わる素敵なメイクラブでした。ゼーバント役は「善き人のためのソナタ」にも出ていたセバスチャン・コッホ。鬼畜なのに立派な人物然としている複雑な演技もインパクトあり。ちょっとアントニオ・バンデラス似?クルトの子ども時代を演じてた子役が、か、可愛い!あと、クルトのアート仲間たちがみんなイケメン!その中で非イケメンな、芸術家には見えないゴツい野郎系男がいて、どっかで見たことあるな~と思ったら、「Freier Fall」で同性愛に溺れる刑事役を演じたハンノ・ホフラーでした。すごくイイ奴な役でした。
↑ トム・シリング、1982年生まれの現在38歳。嵐とかと同世代ですね。松じゅんとか二宮とか、今後役者を自称するならトム・シリングぐらいの役者魂見せてほしいものです
ナチス政権下のドイツ。少年クルトは美しい叔母の影響で芸術になじむが、精神を病んだ叔母はナチスの安楽死政策によってガス室送りとなる。戦後、クルトは美術学校で出会ったエリーと恋に落ちる。エリーの父は、クルトの叔母のガス室送りを決定した元ナチスの医師だった…
「善き人のためのソナタ」のフローリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督作。数年前のアカデミー賞で、外国語映画賞と撮影賞にノミネートされたドイツ映画。ずっと気になって観たいと思ってたのですが、上映時間が3時間以上あると知り、ちょっと引いてしまいました。長い映画が苦手なんです私。迷った末に観に行ったのですが、観に行ってよかったです!3時間が全然苦痛じゃなかったです。それは、2時間でもキツい映画が多い中、この作品が稀有な佳作である証です。
主人公が愛と芸術に生きるのが、ナチスと冷戦というドイツの暗黒時代。本当に起きたこと、同じ人間同士がやったこととは信じられない、信じたくない悲劇の数々に暗澹となってしまいましたが、この映画は不思議と暗くも重苦しくもなく、とにかく物語を進める演出と映像がめくるめく流麗さ。オスカー候補も納得の撮影の素晴らしさに感嘆。ヨーロッパの風景って本当にフォトジェニック。暗い時代を感じさせない美しさ、輝きに魅せられました。建物も趣深くて、病院とか大学も由緒と歴史を感じさせます。美しい演出も少なくなく、夜空から銀の神が降ってくる爆撃シーンが特に好き。死と恐怖が、あんなにも幻想的で神秘的に。青年クルトが初登場する草原を走るシーンも印象的でした。
激動の時代を生き抜く人物たちも、それぞれ個性的で魅力的でした。主人公のクルトは、芸術家にありがちなエキセントリックすぎ、破滅的なキャラではなく、ほどよく情熱的でかなり常識的、現実的な若者だったのがよかったです。壮絶な時代で少年、青年期を送ったクルトですが、クルト自身にはそんなに不幸も悲劇も起こらず、愛にも芸術にもわりと順風満帆。大した辛酸もなめず、苦労といえば病院で掃除のアルバイトするぐらい。彼の代わりに周囲の人々が残酷な時代の生贄になってた、そのコントラストが悲しかったです。特にクルトの若く美しい叔母の末路ときたら、あまりにも無残でトラウマ級です。断種とか淘汰とか、おぞましすぎる狂気の沙汰。今の時代に生まれて本当によかった、と痛感しました。
ナチス時代ほどの残虐さはないけど、冷戦時代もかなり非道。とにかく窮屈で不自由。西ドイツに亡命するシーンが、なかなかスリリングでした。意外とあっけなく成功したけど、あれはベルリンの壁ができて厳しくなる前のことだったからですね。その点でもクルトは幸運でした。クルトが学ぶ美術大学で行われてるアート活動や作品が、凡人には理解不可能だけど珍奇で面白かったです。
クルトが光の主人公なら、ゼーバント教授は影の主役でしょうか。二人の因縁こそ数奇。とにかくゼーバントの生きざまと所業が罪深く忌まわしかった。本当に恐ろしい男。悪いと思ってないところが怖い。暗黒時代における彼なりのサバイバルでもあったんだろうけど、本性は真性ナチス。あんな人が戦後も社会的に高い地位を保ち権力を振るい、安らかに天寿をまっとうするなんて、ほんと不公平で理不尽。そんな自分たちの暗部を映画やドラマのネタにし続けるドイツ人、そのたくましいメンタルに畏怖。
クルト役のトム・シリング、初めて知りましたがいい役者ですね!はじめは地味だな~ヤニス・ニーヴナーだったらよかったのに、なんて不満だったけど、見慣れてくるとすごくカッコカワいい♡たま~に、若い頃のブノワ・マジメル、ゴツくなった山崎賢人に見えたり。山崎賢人ほどイケメンではないけど、山崎賢人には絶対にできない役と演技でした。とにかく脱ぎっぷりがよかった。ラブシーンでのすっぽんぽんっぷりは、お見事の一言。恋人の部屋の窓から外の木に飛び移って逃げるシーンの、全裸猿っぷりが可愛かった。画家にしてはマッチョすぎ、でも私好みのガチムチ裸体は眼福。
恋人役のパウラ・ベーアは、オゾン監督の「婚約者の友人」でヒロインを演じた女優ですね。すごい美女ではないけど、媚び媚なブリっこ女優にはない人間味と怜悧さ、そして大胆さに好感驚嘆。トム・シリングに勝るとも劣らない脱ぎっぷりで、ラブシーンだけでなく大学の階段で全裸モデルになるシーンには圧倒されました。何度かある全裸ラブシーンは、大胆だけどイヤらしさは全然なく、愛し合ってる感が温かく優しく伝わる素敵なメイクラブでした。ゼーバント役は「善き人のためのソナタ」にも出ていたセバスチャン・コッホ。鬼畜なのに立派な人物然としている複雑な演技もインパクトあり。ちょっとアントニオ・バンデラス似?クルトの子ども時代を演じてた子役が、か、可愛い!あと、クルトのアート仲間たちがみんなイケメン!その中で非イケメンな、芸術家には見えないゴツい野郎系男がいて、どっかで見たことあるな~と思ったら、「Freier Fall」で同性愛に溺れる刑事役を演じたハンノ・ホフラーでした。すごくイイ奴な役でした。
↑ トム・シリング、1982年生まれの現在38歳。嵐とかと同世代ですね。松じゅんとか二宮とか、今後役者を自称するならトム・シリングぐらいの役者魂見せてほしいものです