gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

ジョナサン・キャロル『我らが影の声』その2

2011-07-27 05:34:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 そしてその3日後、ポールは急死します。一ヶ月後、ぼくとインディアは山荘に行き、二人でベッドに入りコトに及ぼうとしますが、生前ポールがマジックで使っていた金属の鳥がふいに現れ、ぼくたちを襲ってきます。危険を感じたぼくらは翌日ウィーンに向けて帰ろうとしますが、その帰途でも5人のポールが乗った車に追い抜かれます。インディアはぼくに、ポールが生前ぼくとインディアの関係を知っていたことを話し、ぼくとインディアが今本当に愛し合っていることをポールが知れば、もう嫌がらせは止めるだろうとも言います。ぼくらはそれをポールに知らせようと努力し、一旦はぼくらの思いがポールに届いたと思って安心しますが、ぼくが父からの便りでボビーが警官によって射殺されたことを知った後、ぼくとインディアが車に乗っていると、車は路地で子供をはねてしまい、ぼくらはその直後にそれが実は木彫りの人形であり、ポールの仕掛けたいたずらであると知って、ポールが少しもぼくらを許す気になっていないことが判るのでした。
 インディアの提案でぼくはしばらくウィーンを離れることにし、ニューヨークへ行きます。ぼくはそこでキャレンという女性と知り合い、恋に落ちますが、2ヶ月後、ポールの嫌がらせに悩まされて気が変になりそうなのですぐに帰ってきてほしいというインディアからの連絡を受け、ぼくはキャレンを残してウィーンを旅立ちます。
 ニューヨークに帰ったぼくは、夜の公園でインディアと時を過ごしていると、突然ポールの飼っていた犬に襲われ、かろうじて犬からインディアを守ったぼくは、そこに現れたポールから、インディアのことをぼくが心から愛していると判ったので、以後嫌がらせを止めると言われます。
 その数日後、インディアに呼ばれて、彼女の部屋を訪れたぼくは、そこに、ポールの皮を被っていたボビーと、インディアの皮を被っていたロスを発見し、恐怖に駆られて逃げ出します。キャレンの元に戻ることが唯一の希望となったぼくは、高架駅のホームに逃げ込み、ウィーンに向けて旅立とうとしますが、背後からふいに現れたキャノンは、ロスに姿を変えていくのでした。暗転。
 エピローグ。世捨て人となったぼくが、ギリシャの小島で余生を静かに過ごしている様子が語られて、小説は終わります。

 豊崎さんは本書を評して「見慣れた世界に生きている等身大の人物たちが、何らかの事件をきっかけにこことは違うルールで成立している別の世界を垣間見てしま」うと書いていますが、私は冒頭のロスと母の描写を読んだ段階で、既に彼らの住む世界というのが、ジャック・ケッチャムの『隣の家の少女』ばりに歪んだ世界であり、テート夫妻に関しても最初からある種の危うさを感じさせ、そういった点では、「見慣れた世界」ではなく最初から「異常」な世界を描いた小説であり、別の世界への跳躍を始めから予感させる一方、ヒリヒリとしたリアルな皮膚感覚をも感じさせる小説だったと思います。「30年代から40年代にかけてのアイダ・ルピノ」といったような描写もふんだんに見られ、読む側の映画的素養が試される面白い小説であったことも付け加えておきたいと思います。