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菊池寛『真珠夫人』その4

2014-05-17 00:16:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
 美奈子は自分に対して、母のような慈愛と姉のような親しさを持って接してくれている瑠璃子を慕っていた。ある日、両親の墓参りをしていた時、妹を連れて墓参りをしている青年に美奈子は一目惚れをする。やがて美奈子はその青年が瑠璃子の取り巻きの1人である青木だと知る。瑠璃子は夏を箱根で過ごそうと美奈子に言い、青木を連れていくと言った。
 箱根に出発する日、東京駅には瑠璃子を送りに多くの男性が集まった。青木は品川から電車に乗ってきた。箱根に着いた3人は夕食後に散歩に出かけるのが日課となった。ある日、フランス大使の令嬢と会った瑠璃子は、夕食後2人を残して去った。2人は散歩に出かけると、青木は美奈子に結婚する気はないかと問い、その後、瑠璃子が結婚しないのは美奈子が未婚であるからだという噂があると言い、美奈子を憤慨させた。翌日美奈子は手紙を書くと言って散歩を辞退し、中庭の暗いベンチに座った。そこへ彼女に気づかない瑠璃子と青木がやって来て、青木は自分と結婚する気があるのか瑠璃子に迫り、瑠璃子は明後日の晩にはっきりと答えると言った。それを聞いた美奈子は居ても立ってもいられず、葉山に幽閉されている兄に急に会いたくなり、服を着替え、箱根を去ろうとしたが、出口で瑠璃子にばったりと会い、その場で泣き崩れてしまった。そして明後日の晩、母は図書館に行くと言う美奈子を強引に散歩に誘った。青木の顔は烈しい怒りのため、黒くなっていた。強引に2人を散歩に誘った瑠璃子は、ホテルに帰るとレストランで夕食を終え、公園で美奈子を真ん中にしてベンチに座り、一昨日の青木の申し出に否と答えた。青木は瑠璃子を妖婦呼ばわりしたが、瑠璃子はあなたに対する愛は夫に対するものではなく、弟に対するものだと言った。美奈子はそれが自分に対する心づくしと感じ、瑠璃子に感謝した。青木は去っていった。瑠璃子は美奈子に、ある人から青木を遠ざけるように言われたので、それに対する意地で青木を連れてきたと言い、美奈子の初恋の相手を自分が蹂躙してしまったことを詫びた。美奈子は本当に悪いのは自分の父で、瑠璃子の初恋を蹂躙した父の報いが子に及んだのだと言った。
 ホテルで青木はばったりと信一郎に出会った。信一郎は青木の兄の話をし、ノートも見せ、瑠璃子に近づかないように助言したが、それは遅きに失し、青木の憎悪の炎に油を注ぐ結果となった。その夜、美奈子は瑠璃子の隣で眠りにつこうとしたが、なかなか眠りは訪れなかった。深夜になり、やっとうとうととした時、美奈子は瑠璃子の苦悶の声に目を覚ました。瑠璃子は何者かに腹を刺され、相当の出血をしていた。助けを求めに部屋を出た美奈子は、青木の部屋がもぬけの空になっているのを発見した。瑠璃子は意識不明になったが、一旦持ち直し、神戸の杉野直也を呼んでほしいと言った。やがて芦ノ湖で23、4の学生風の水死体が見つかり、遺書には青木と書いてあったとの知らせが入った。衰えゆく瑠璃子は「まだ? まだ?」と叫んだ。瑠璃子の容態は険悪になり、医者が今夜中が危険だと宣言すると、直也がやっとやって来た。瑠璃子は大粒の涙を流し、直也も涙を滂沱として流した。瑠璃子は直也に美奈子を託し、息絶えた。瑠璃子の亡骸を棺に収めた後、瑠璃子の肌襦袢を手に取った美奈子は、その内側に直也の写真が縫いつけられているのを見つけた。瑠璃子は、黄金の力のために偽りの結婚をしたときも、美しき妖婦として、群がる男性を翻弄していたときにも、彼女の心の底深く、初恋の男性に対する美しき操は、汚れなき真珠の如く燦然として輝いていたのであった。
 瑠璃子について世間は妖婦扱いをして騒ぎ、本当の姿を知っているものは美奈子と直也だけだった。そして瑠璃子の兄が描いた『真珠夫人』と題する絵は、去年の二科会で絶賛され、近代的な女性に特有な、理知的な、精神的な、表情の輝きがあると評されたのだった。

 大正時代(今から100年近く前)に書かれたとは思えないほど、読みやすい文体で、575ページという大作ながら、最後まで読み終えることができました。“通俗小説”という扱いをずっと受けてきた小説らしいのですが、人がきちんと描かれていれば、後世にも生き残れるという1つの例だと思います。

 →「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/