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高野秀行『神に頼って走れ! 自転車爆走日本南下旅日記』

2008-08-21 16:01:58 | ノンジャンル
 今日発行のフリーペーパー「R25」に花火の打ち上げに関する記事が載っていました。最近は電気点火式が多いのですが、10分間約1000発のショーのプログラムをコンピュータに打ち込むのに何と40時間もかかるそうです。その労力にビックリしました。

 さて、高野秀行さんが今年の3月に出された「神に頼って走れ! 自転車爆走日本南下旅日記」を読みました。著者は怪魚ウモッカを探しにインドに行こうとしますが、以前にインドに不法入国していることがバレ、ビザが取れず、そこで思いついたのが、沖縄への自転車お遍路旅なのでした。「インドへ行かせてください」と道中で出会う、ありとあらゆる神様仏様に祈願しながら、インドに少しでも近く、楽土「ニライカナイ」の別称がある沖縄に向けて、1月15日から3月10日まで行く、その間の日記が本書です。
 著者は出発してからすぐ、日本には神社やお寺、道祖神にお地蔵様がやたらに多く、自転車で10分も行かないうちにそれらに出会い、すべてのものにお祈りしていては、やたら時間がかかることが分かり、それ以降、主だったものだけに願掛けすることにします。それでも、いろんな変わった神仏に出会います。列挙すると、饅頭の神、出版の神、甲子園の野球塚、神戸のインド系商人が中心となって設立した日本最古のモスク、ジャイナ教寺院、鯖大師、ごみ神社などなどです。
 他にも土佐名物のエチオピア饅頭のような訳の分からぬものも登場します。
 そして私にとって一番興味があったのは、作家・島尾敏雄の奥さん・島尾ミホさんの故郷・加計呂麻島に著者が行く場面です。島尾敏雄さんは私が愛する作家の一人です。その島尾さんが特攻隊の隊長として赴任したのが加計呂麻島で、そこでミホさんと出会い、恋に落ち、島尾さんが特攻隊として死ねば、ミホさんも自害する決意をします。結局、特攻隊に出撃の命令が下りる前に終戦を迎え、島尾さんとミホさんは結婚し東京に住むようになるのですが、島尾さんが浮気をすることによりミホさんは精神に変調をきたし、その辺の事情が小説「死の棘」に書かれています。
 ということで、読んでいて思わぬ名前が出てきたので、また高野さんに私は何かの縁を感じてしまうのでした。
 内容的に高く評価するべき本ではないのかもしれませんが、暇つぶしには楽しく読める本だと思います。(こんなことを書くと、苦労して東京から沖縄まで自転車で旅した高野さんに怒られてしまうかもしれませんが‥‥。)とりあえず、オススメです。

豊島ミホ『花が咲く頃いた君と』

2008-08-20 16:11:43 | ノンジャンル
 豊島ミホさんの最新刊「花が咲く頃いた君と」を読みました。主人公が中2の子から高校を卒業したばかりの子までの中編4つからなっている本です。
 「サマバケ96」は、真面目な主人公ユカと、複雑な家庭環境で遊び人のアンナの仲の良い二人組が中学生最後の夏休みを楽しく過ごすため、協力して7月中に宿題を終わらせ、8月1日に渋谷に遊びに行きますが、高1の二人組にナンパされ、アンナはそのうちの一人と付き合うことになり、ユカはアンナといろんなところに遊びに行けなくなります。そして夏休みの最後の日、男子と別れたアンナはユカと残り少ない時間を楽しく過ごしますが、ユカは楽しいはずだった夏がもう終わると思うと涙をこぼしてしまうという話。
 「コスモスと逃亡者」は、高校を卒業して以来、知恵遅れなので買い物以外は家を出ないように母に言われているかわいい娘と、借金取りから逃れるため、妻と子を置いて逃げてきた男の交流を描いた話。
 「椿の葉に雪の積もる音がする」は、中2の女の子が眠れない夜には、おじいちゃんの横に寝て、おじいちゃんが「耳を澄ませて。椿の葉に雪が積もる音がする」と言うと眠りにつけていたが、そのおじいちゃんを死によって失い、それを乗り越えようとするまでの話。
 「僕と桜と五つの春」は、落ちこぼれでいじめられっ子の中2の男の子が塾の帰りに塀に囲まれた若い桜の木を発見し、同級となった男まさりだが美しい女の子を桜と重ね合わせて恋しますが、同じ高校に進んだ女の子は正当派アイドルとしてデビューし、彼女から声をかけるなと言われ、次の春には自分をもう見るなとも言われますが、高校を卒業する春には、今までのことを謝られ、桜を近くで見たいので肩車してくれと頼まれる話です。
 「サマバケ96」では、宿題が終わった瞬間やいきたいところをいろいろ考えていると、盛り上がって二人してキャーと叫んでしまうなんてところが、箸が転んでも笑うこの年代の女の子を見事に捕えていて、「コスモスと逃亡者」では、「あたし、かわいそうじゃないよ、ばかだけど」と言う娘に、つい涙してしまうお母さんがせつなく、また借金取りの男が女子高生とやったことを夢の中で思い出して勃起しているのを見て、「おじさん、やろうよ」と言ってしまう娘の純真さもまたせつなく感じました。「椿の葉に雪の積もる音がする」は、私が大切な人を亡くした経験がないので、今一つ実感が湧かず、「僕と桜と五つの春」は、話が突飛であることと、取ってつけたようなラストが今一つ心の琴線に触れませんでした。
 ただ、今までの豊島さんの作品と同じく、様々な青春が描かれていて、そういった意味ではとても満足しましたし、せつない気持ちにもなりました。これからもいろんな青春を書き続けてほしいと思います。
 詳しいあらすじに関しては、「Favorite Novels」の「豊島ミホ」のコーナーにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

阪本順治監督『魂萌え!』

2008-08-19 18:53:01 | ノンジャンル
 WOWOWで阪本順治監督・脚本の'07年作品「魂萌え!」を見ました。
 夫(寺尾聡)と娘(常盤貴子)と三人暮しの妻・トシコ(風吹ジュン)。夫が急死しますが、葬式が終わると夫の携帯に伊藤(三田佳子)から電話が掛かります。しばらくして夫にそば打ちを教えていた男が現れますが、その話から夫がそば打ちの勉強に行くと言っていたことが嘘だと分かります。トシコは伊藤に電話をし、線香を上げに来てくれと言い、来た伊藤が自分と同じぐらいの年であることに驚き、10年来のつきあいだったと聞いてショックを受けます。アメリカで家庭を営んでいる息子が勝手に遺産相続の話を進めるのに怒ったトシコは、一人で考えるために家を出てカプセルホテルに泊まりますが、そこで自分の苦労話をしてお金を取る不思議な女性・宮里(加藤治子)に出会い、宮里がホテルで倒れた第一発見者として病院にまで付き添い、そこでホテルの支配人の野田(豊川悦司)が宮里の唯一の肉親である甥であることを知ります。家に戻ったトシコは息子に勝手なことを言わないように釘を刺し、娘にも恋人と同棲するために家を出たのだからけじめをつけるように言います。そして夫のそば打ち仲間が開いた夫を偲ぶ会に出ると、会場のそば屋は伊藤とその息子夫婦がやっている店であることを知り、伊藤の息子の嫁から、夫は伊藤の精神病のために生前500万出してくれたことを知らされます。そこで知り合った塚本(林隆三)に誘われホテルで体を許しますが、ニ度目のデートで愛想をつかします。娘からは、やっと自分の人生を歩き始めたねと言われたトシコは、高校時代の8ミリを写して見ているうちに映写技師になりたくなり、その勉強を始め、デ・シーカ監督の「ひまわり」を上映しているところで映画は終わります。
 上記の役者以外にも、トシコの高校時代の同級生として、今陽子、由紀さおり、藤田弓子が出ていたり、そば打ちの仲間でなぎら健壱が出ていたりと、これでもかこれでもかと芸達者な役者が出てきますが、物語は凡庸なもので、思わせぶりな風景のショットが多くでてきたり、豊川悦司の稚拙な泣く演技などもあって、最後に阪本順治監督の名前が出てくるまでは阪本監督の作品とは気がつきませんでした。ただ、最後の方になると風吹ジュンの、せっぱつまった演技に少し魅せられたりもしました。あまり期待しすぎると期待外れになるかもしれませんが、一見の価値はあるかもしれません。

高野秀行『ミャンマーの柳生一族』

2008-08-18 16:12:21 | ノンジャンル
 北京オリンピックではなぜか場内放送がまずフランス語で、次に英語、そして中国語でなされています。なぜフランス語が最初なのか謎です。またフェンシングでの「始め」の合図がフランス語の「アレ(行け)」で、何故か偉そうに言うのも気になりました。

 さて、高野秀行さんが'06年に出した「ミャンマーの柳生一族」を読みました。
 ミャンマーの柳生一族とは何かと言うのは、著者の言葉を引用させてもらいたいと思います。
 「ミャンマーは軍事独裁政権である。閣僚は全員将軍級の軍人だ。なかには小学校しか出てない大臣も多数いるという。官僚も主要な役職は軍人が占めている。とんでもない話のようだが、徳川幕府はまさにそうだった。それで、ちゃんと機能していた。
 ミャンマーは武家社会なのだ。武士が立法・行政・司法の一切の権力を握っている。江戸中期以降はそんなこともなかったろうが、最初の三、四十年ほどは、学校など行ってない大名が多かったはずだ。彼らは戦場で武勲を立て、のし上がってきた。ミャンマーの小卒大臣も同じだ(ちなみに、彼らの息子たちはちゃんと高等教育を受けている。幕府の大名の子弟がそうであったように)。
 長らくミャンマ-の軍政は、「農民と工業労働者が国家の基本」と位置づけ、商業をいやしんできたが、それも士農工商の理念と同じだ。(中略)しかるに、現実には、有力な武家に取り入った商人が財をなし、商人全般が農民や労働者よりよほど経済的に潤っているという図式において、現代のミャンマーと日本の江戸時代は似通っている。(中略)
 その中にあって、軍情報部とは、徳川幕府であるならさしずめ目付けであろう。今でも監視役や保護者のことを「お目付け役」と呼ぶことからわかるように、目付けとは幕府内の犯罪に目を光らせる組織であり、またお上(幕府)にたてつく者は武家といわず、町人・農民といわず徹底的に取り締まるのが役割だ。
 この役目をいちばん忠実に果たしたのが、まだ戦国の荒々しい空気が残っていた江戸初期に活躍した柳生一族だと私は考えることにした。(中略)
 話をミャンマーに戻すが、軍情報部はミャンマー幕府において、まさに柳生一族である。」
 そして高野さんをミャンマーに誘った、早大探検部の先輩の作家・船戸与一さんが、ミャンマーに入国する際にミャンマーの軍情報部が経営する旅行代理店を使うことを条件として出され、軍情報部つまりミャンマーの柳生一族を連れてミャンマーの旅をすることになったのでした。
 そして旅する中で、隣の敷地に勝手に自分の土地を拡張したりするという横暴な軍人の話を聞く一方で、酔っ払ってアメリカの悪口を言い合うことによって著者たちは柳生一族と息投合し、それ以降柳生一族は著者たちを監視するどころか、一緒に観光を楽しみだします。著者たちの旅を快適にしてくれたミャンマー人の社交的な様子と親切さが、昔から多民族国家であることに由来するのでは、と著者は考えます。そしてミャンマーの民主化と民族の自主独立というのが必ずしも両立しないことなど、ミャンマーの政治状況が詳しく述べられます。
 今まで読んだ高野秀行さんの本と同じように、ミャンマーという国を詳しく知ることができ、また読み物としても極上のエンターテイメントでした。またあとがきを書かれている椎名誠氏が高野さんのファンだと知って、心強くもなりました。これからも高野さんの本をどんどん読んでいこうと思います。文句無しにオススメです!


三羽省吾『タチコギ』

2008-08-17 15:23:54 | ノンジャンル
 オリンピックで日本選手が出る試合しか見ない国粋主義者の自分に笑ったりしていますが、よく考えてみると、日本選手については予備知識があるのに対して外国選手に関してはほとんど予備知識がないからかなあと思いました。表彰式で掲揚される日の丸や流される君が代には何の感傷も感じなかったりします。

 さて、三羽省吾さんの最新刊「タチコギ」を読みました。原稿用紙774枚という大作です。
 祖母の葬式のために久しぶりに故郷に帰る柿崎信郎は小4の息子の智郎がネットの掲示板でイジメに会い、掲示板に書いた子たちを名指しで「ハラ サイテ ナイゾウ ヒキダシテヤル」と書き込んで以来、学校を休んでいることで悩んでいます。そして自分自身の小4の時を思い出します。故郷は鉱山の町で、運営サイドの従業員の住む山の手と、現場の鉱夫たちが住む山向こうがはっきり分かれていました。そして会社がアメリカ人に吸収合併され、信郎、通称ノブのクラスに社長の息子で日本語がしゃべれないが生意気なケビンが入ってきます。社長は息子が孤立するのを心配しユニフォームや道具を無料で提供して野球チームを作り、それが面白くない鉱夫の息子ノブとその仲間は、ガキ大将のウネリンを中心にして、山の手の代表格ダゼ夫に試合を申し込みますが、ダゼ夫はユニフォームやヘルメットを買えだの、入会金や手数料、保険料、親のサインが必要な野球連盟に加盟しろだの言って、試合をしようとしません。そして結局広場にある球形の回転する遊具の回しっこで勝負し、ケビンを失禁させ、ケガをさせてしまいます。そんな中、男の独身寮に、寮母の母と住んでいるガボちゃんは、ガボちゃんに暴力を振るう独身寮の若い男たちと母が寝ていることを恨み、母と男たちもろとも殺すため、独身寮に放火し、補導されてしまいます。そしてノブも、会社が従業員の削減をしないことと引き替えに退職した父と家族とともに、故郷を離れることになります。葬式の後、そうした話を息子にした信郎は、妻が息子に薦めている転校について自分で決めるべきだと言いますが、息子は当時の父親の写真を見て、当時信郎が好きだった女の子と母親が全然違うタイプだと言い、お父さんが話をしている間にそんなことを考えていたのかと信郎が言うと、久しぶりに息子に表情が現われ微笑みます。そして信郎は、自分が考えていたほどあの頃は暗いものではなかったと思い返すのでした。
 最初は重い立ち上がりでどうなることかと思いましたが、試合を申し込むあたりから段々明るい少年小説になってきて、昭和の暗い小説と明るい少年小説がせめぎあい、最後には明るい少年小説に軍配が上がるといった感じです。ガボちゃんは、母親と独身寮の男たちのことを恨み、その腹いせに残虐な動物殺しをしたり、ユニフォームの金ができない時は橋の下に住む浮浪者を殺して所持金を奪おうとしたりして、ノブをハラハラさせますが、久しぶりに帰った故郷で、当時の先生から、その後国立大学を卒業し、一流の商社に就職して、世界各地からハガキを寄越していることを知ります。このようにして、最後には全てがメデタシメデタシで終わるので、途中の暗いエピソードなどは忘れて、読後感は最高に素晴らしいものでした。
 他の三羽さんの小説とともに、オススメです!
 なお、詳しいあらすじは、「Favorite Novels」の「三羽省吾」のコーナーにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。