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山田詠美『熱血ポンちゃん膝栗毛』

2009-07-26 15:05:00 | ノンジャンル
 山田詠美さんの'06年作品「熱血ポンちゃん膝栗毛」を読みました。新潮社の月刊誌に連載された24編のエッセイを集めたものです。
 書いている内容が愉快で何度も声を出して笑ってしまったのですが、文体もユニークでユーモラスなものでした。ポンちゃんシリーズは既に何冊か読んでいたのですが、こんなに面白かったかと再認識した次第です。山田さんの自分を飾らない何ともチャーミングな様子も魅力的なのですが、その家族や仲間の人たちの言動も愉快で、例えば風呂上がりの山田さんのお父さんが全裸で部屋を横切るのをつかまえて山田さんの姪が「干し柿ぶら下がってたよ」と言い山田さんたちが一斉に笑うと、山田さんが「昔は生牡蠣だったんだよ」、「生牡蠣はあたると恐いんでしょ?」、「フライにしてしまえ」といった家族内の会話、または、家族で正月百人一首がはやった時、頭のはげ具合が山田さんのお父さんにそっくりなので蝉丸の歌が一番人気になり、次第に上の句を読む代わりに「蝉丸! !」というだけになったり「パパリン!」というようになったりしたという挿話、または、自分たちが無抵抗になるのではなく、相手を無抵抗にさせることを標榜する「チーム ガンジー」というグループを結成するとかいった愉快な話が満載です。またこの本で、ヤクザ関係の記事満載の「実話時代」という雑誌があるということを初めて知りました。
 この本の魅力はいろんな物への誘惑に満ちているという点もあり、例えばここで挙げられている本で私も読んでみたいと思ったものは、早川いくを著「へんないきもの」、「家畜人ヤプー」、嵐山光三郎著「不良定年」、横山秀夫著「震度O(ゼロ)」、パール・バック著「大地」、挙げられている場所で行ってみたいと思ったのは、熱海にある戦争博物館「風雲文庫」でした。
 それ以外に山田さんとの縁を感じもしました。それは同じ1959年生まれであること、金井美恵子さん、ナンシー関さん、船戸与一さんという固有名詞、そして先日読んだ北尾トロさんと関わりのある中央線沿線に生活圏を持つということです。
 とにかく痛快で楽しく、また真っ当なエッセイです。文句無しにオススメです。

ウェズリー・ラグルズ監督『ボレロ』

2009-07-25 18:17:00 | ノンジャンル
 山田宏一さんが「恋の映画誌」の中で絶賛していた、ウェズリー・ラグルズ監督の'34年作品「ボレロ」をDVDで見ました。
 映画の合間の素人芸人大会で得意のダンスを披露したラオール(ジョージ・ラフト)は野次られますが、同じ炭鉱で働く兄に金を借り、女性と組んでレストランの舞台で踊り始めます。私生活でも付き合いたいと言うその女性から遠ざかるため、また兄から金を借りてパリへ。兄が訪ねていくと、レストランで中年女性の客相手にダンスをしていたラオールは兄の帰りの旅費を借りて若い客のレオナをダンスに誘い、コンビを組んでキャバレーに出るようになります。人気は沸騰しますが、また私生活に入り込もうとするレオナに愛想をつかし、たまたま売り込みに来たヘレン(キャロル・ロンバート)と組むことにし、ロンドンに行きます。一流クラブに出演している間にヘレンは貴族に見初められ、それに嫉妬したラオールはヘレンを連れてパリに戻り自分のクラブを持ちますが、貴族が追いかけてきたため、ラオールの故郷のベルギーに旅立ち、そこで二人は結ばれます。ラオールの店は開店しますが、客席は身近に迫った大戦の話題で持ち切りで、二人のボレロのダンスを見ようともしません。ラオールはダンスを中止し、愛国的な演説を行ってラ・マルセイエーズを合唱します。それに味をしめた彼は戦争に志願して人気を得ようとしますが、戦争に行っている間にヘレンは貴族と結婚してしまい、自分も踊れなくなるほどの負傷を負います。戦争が終わりパリに戻ったラオールは、場末のバーでかつての同僚を見つけパートナーにしますが、自分のクラブの開店の日、彼女は酔って現れ、その場でクビにされます。客として来ていたヘレンはそのことを聞き付け、ラオールに自分が代わりに踊ると言い、二人は見事なボレロを踊り喝采を浴びますが、アンコールの拍手の音を聞きながらラオールは死んでいくのでした。
 当時ラフトのボレロということで「ラフテロ」という言葉も誕生したという伝説的なラストのダンスですが、そのすごさが全く理解できませんでした。ただ歩いているだけの時間が長く、最後に女性の体を振り回すところが見せ場なのかとも思ったのですが‥‥。またキャロル・ロンバートは「スミス夫妻」の時の7年前でしかないにもかかわらず、同じ人とは思えないほど知性が感じられず、ジョージ・ラフトも「暗黒街の顔役」などの方がずっと迫力があり、この映画でとりわけ輝いているとは思えませんでした。演出も凡庸であったように思えます。私ならこの映画の良さが分かるという方にはオススメです。

金城一紀『SP 警視庁警備部警護課第四係』

2009-07-24 18:20:00 | ノンジャンル
 金城一紀さん原案・脚本の'08年作品「SP 警視庁警護課第四係」を読みました。視覚の中の情報を瞬時に分析できる特殊能力を持つ警視庁警護課の井上を主人公にしたテレビ番組用台本5つからなる本です。
 エピソード1「警護対象者『東京都知事・大川優子』」は、知事に馬鹿にされたことを根に持つ記者が会見場で知事を射殺しようとするのを井上が身を持って防ぐ話。
 エピソード2「警護対象者『元総理大臣・加藤純三』」は、元総理が手術している病院ごと占拠した6人の元軍人たちが株の価格操作で3億円を手に入れようとするが、入院患者に紛れていた井上が一人ずつ倒していく話。
 エピソード3「警護対象者『シルバー証券・大橋正一』」は、粉飾決済の証人をホテルで非公式に警護した井上たちが、既に一人証人を殺している4人組からの2度にわたる攻撃を防ぎますが、結局政治的判断で警護の任を解かれてしまう話。
 エピソードZEROは、井上が警護課に配備されるまでの話。
 エピソード4「警護対象者『内閣総理大臣・麻田雄三』」は、警視庁の上層部が黒幕となって、井上の両親を殺し最近出所した山西を使って首相を暗殺しようとするのを井上が防ぐ話です。

 金城さんでもフジテレビのドラマの脚本を書くとこれほど凡庸になるのか、といった感じで、設定も登場人物のキャラクターも全くリアルさに欠けているように思いました。金城さん自身は作品の出来に満足されているようですが、ご本人が書いている注釈を読んでいると、主演の岡田准一くんを始めとする充実したキャストと撮影現場の熱気に当てられた感じです。フジテレビのドラマが好きな方にはオススメかも。

アルフレッド・ヒッチコック監督『スミス夫妻』

2009-07-23 13:26:00 | ノンジャンル
 スカパーの260チャンネル「洋画★シネフィル・イマジカ」で、アルフレッド・ヒッチコック監督の'41年作品「スミス夫妻」を見ました。
 髭も剃らずトランプをして妻(キャロル・ロンバート)が起きるのを待つ夫(ロバート・モンゴメリー)。結婚3年目にもなるのに何日も寝室から出ないことがままある二人に召使いたちもあきれ顔です。久しぶりに出社した夫は役人の訪問を受け、結婚した土地と法律が一致していないので、結婚届を再提出するように言われると、すぐ妻に電話し思い出の店で今晩食べようと言います。役人は幼馴染みの妻の家も訪問し、その事情を伝えますが、妻は今晩またプロポーズされるのだと確信します。しかし店は店主が替わり落ちぶれていて、夫は愛人との逢い引きというシチュエーションを楽しむのに夢中でプロポーズしません。帰宅して寝室に入ったところで妻の怒りは爆発し、夫を部屋から追い出します。翌日家に戻った夫は表札が妻の旧姓に戻っているのを発見し、召使いも中に入れてくれません。翌朝妻の乗る車に無理矢理乗り込みますが、ケンカになり、妻はデパートの通用口に消えます。妻を売り場で見つけた夫は騒ぎを起こし、支配人を変態ジジイ呼ばわりしたことで二人ともたたき出され、路上でも口論を続けて人だかりができ、警官に追い払われます。夫の同僚が見かねて偶然に二人が会う機会をもうけますが、夫が行ってみると同僚は妻の弁護士になってしまっていました。夫の同宿の男が馴染みの女をレストランで紹介してくれますが、そこには同僚と妻も来ていて、下品な女と一緒にいられるのを見られたくない夫は隣の見知らぬ美人に話しかけるふりをします。やがていたたまれなくなってわざと鼻血を出しますが、逆に大騒動になって恥じ入ります。そんな夫の様子を見た妻は気分直しに夫の同僚と夜の遊園地に行きますが、機械の故障で高所に椅子で吊り下げられたままになり、降ってきた雨でずぶ濡れになります。着替えるために同僚の家に行きますが、終始紳士的な態度を崩さない同僚に好感を持ちます。翌日夫がタクシーで妻を尾行していると、自分の会社のビルに入って行き、そこには同僚とその両親も来ていて二人の新婚旅行の話が進んでいました。夫は必死に話を妨害し、妻と3年間同棲していたことをばらしますが、同僚は両親に訳を説明します。同僚と妻が雪山に旅行に出かけると、夫が先回りしていて、二人の目の前で意識を失うふりをします。夫はうわ言で一週間ここに一人でいて、妻を愛していると言い続けますが、妻は窓から夫が元気に食事をしているのを見つけると烈火のごとく怒り、夫はそれなら同僚と結婚してしまえと言って小屋を出ます。妻は元気を失くし夫のことを心配し始め、自分のことを夫にあきらめさせるために、夫の隣の部屋で同僚との濡れ場を一人で演じますが、駆けつけた夫に見破られ、ヘッドロックをかまされます。助けを求めた妻の声で同僚が急行しますが、夫を殴らないので妻は激昂して出て行き、そこへやってきた同僚の両親はあっけに取られます。スキーもできないのに一人でスキーを滑って帰るという妻のスキー板を床に夫に突き刺されて身動きの取れなくなった妻は、ネクタイを外す夫の体に手を回して「愛してる」と言うのでした。
 ギャグ満載のロマンティック・コメディですが、ヒッチコックらしさは遊園地の場面ぐらいで物足りなさが残りました。特に同僚と妻の話になる後半は冗長で、ロバート・モンゴメリーが登場する場面が生き生きしていたのとは対照的でした。しかし鉄火肌にもかかわらずソフィスティケートされた美人であるキャロル・ロンバートの魅力が味わえたりもするので、見て損はない映画だと思います。ロマンティック・コメディが好きな方にはオススメです。

斎藤貴男『強いられる死 自殺者三万人超の実相』

2009-07-22 16:08:00 | ノンジャンル
 今日、神奈川県厚木市での部分日食は雲がいいフィルターの役目をしてくれて肉眼で見ることができました。メガネだと太陽が欠けていることしか見えないので、周囲の風景とともに日食を見れたことは良かったと思います。トカラまで高い金出してわざわざ行かれた方々は荒天に会ったとのこと、お気の毒でした。

 さて、朝日新聞で紹介されていた、斎藤貴男さんの'09年作品「強いられる死 自殺者三万人超の実相」を読みました。
 先ず、年間自殺者10年連続三万人超の実態について述べられ、次いでパワハラと過重労働の果ての自殺、郵政民営化による職場でのいじめによる自殺、多重債務者の自殺、中小企業経営者の自殺、学校の生徒と先生そして自衛隊での自殺、障害者自立支援法によって追い込まれた自殺、新銀行東京でのモビング(企業ぐるみの虐め)による自殺、過労死、そして今後への希望が順次述べられます。この中で知ったことは、東尋坊に自殺防止のための柵が設けられていないのは自殺の名所としての観光資源を守るためであること、郵政民営化による自殺は通算2千人にも及ぶこと、青木ヶ原樹海は6キロ四方しかないこと、消費者金融のアイフルでは利用者が自殺しても貸し金を回収できるように勝手に利用者に生命保険をかけていたこと、日本の官庁の中で最も自殺率の高いのは自衛隊だと言われていることでした。著者はここで取り上げた以外にも、高齢者の孤独に耐えかねての自殺や、就職あるいは結婚で差別された人々の自殺、外国労働者の自殺なども取り上げなければならなかったと述べていますが、遺族や自殺未遂を起こした方々への取材には疲れ切ってしまったとも書いていました。実際、書かれている内容は壮絶なもので、どんなに意思の強い人でもこれだけの虐待を受けたり、ひどい環境に置かれたら自殺するのではと思われるものでした。私も2度ほど自殺未遂を起こしているので、10年前には自分が自殺しようとするなどとは何にも思わなかったという自殺未遂の人の話は他人事とは思えませんでした。
 毎日全国で90人の人が自殺しているというのは、どう考えても異常です。自殺するのは意思の弱い人だと考えている方、この数字はそうした考えでは説明がつかないのだということを改めて考えてほしいと思いました。自殺をする人を非難する方には特にオススメです。