世界金融危機、世界の動きをどうみるか
世界金融危機――「カジノ資本主義」の破たん
奥原 ここで世界に目を向けてみたいと思います。昨年は、世界でも大激動が起こりました。とくに、経済の面でも、軍事の面でも、アメリカの一極支配がいよいよ大破たんをきたしています。
まず経済の面では、「資本主義の総本山」のアメリカで、きわめて深刻な金融危機が起こり、世界を景気悪化に突き落としました。
志位 アメリカで何が起こったかを一言でいえば、「カジノ資本主義」の破たんです。アメリカでは、とくに一九八〇年代以降、ひたすら金融の自由化を続けてきました。一九二九年の大恐慌の教訓をふまえてつくられたグラス・スティーガル法――銀行業務と証券業務を分離し、商業銀行による株保有などを禁止した法律が、一九九九年に事実上撤廃されたのは、その象徴でした。銀行業と証券業の境目がなくなり、銀行・証券・保険が相互参入し、つまり金融機関のすべてが投機的な商売をやるようになったのです。
そういうなかでデリバティブとよばれるさまざまな投機的金融商品が、異常に膨らんでいく。サブプライムローンのような、所得の少ない方からお金を巻き上げる詐欺とペテンのいかさま商法が横行する。このローンを証券化し、さらに他の債権とまぜあわせて債務担保証券(CDO)といわれるものを売って、世界中にばらまく。そういう投機資本主義、「カジノ資本主義」が破たんして、世界中の経済に大打撃を与えているのです。
巨大な投機マネーの暴走が、庶民の暮らしを破壊する
奥原 昨年の党創立記念講演会で、世界的規模でみて、実物経済にくらべて金融経済が三倍以上にもなっているというお話が印象的でした。
志位 あの講演で紹介した数字は、三菱UFJ総研の経済アナリストの水野和夫さんの試算によるものです。水野さんが最近出した本で、新しい試算をされていますけれども、直近の二〇〇八年十月で、世界の実物経済を表すGDP(国内総生産)の総額が六十・一兆ドル、それに対して金融資産の総額――株式、債券、預金の総額が百六十六・八兆ドル。この間の金融危機で株式の資産価値が一定程度崩れましたが、それでもなお百兆ドル以上、金融経済が実物経済を圧倒する状態になっているということです。
この百兆ドルのなかの数十兆ドルは、投機マネーとして世界中を暴れまわり、繰り返しバブルをつくりだしてはそれを崩壊させる。バブルのさいにも、その崩壊のさいにも、実体経済、とくに諸国民の暮らしを破壊するという動きを繰り返す。昨年の前半の時期は、原油と穀物に流れ込み、価格高騰というたいへんな被害をもたらしました。九月十五日の「リーマン・ショック」をきっかけに世界的規模で信用収縮がおこり、世界の実体経済に甚大な被害を及ぼしています。
奥原 各国は、危機にさいして金融機関への公的資金の投入をおこなったり、金融緩和政策をとりました。
志位 これは金融危機にさいしての対症療法にすぎません。高熱が出たときに、熱さましが必要なときもあります。しかし、これをやるとお金がまた余ってくるわけですよ。そしてつぎのバブルを起こし、それがまた崩壊する。そのたびに被害にあうのは実体経済であり、諸国民の暮らしです。世界の資本主義がそうした悪循環のなかに落ち込んでいるように思われます。まさに、「カジノ資本主義」の破たんです。金融の自由化路線との根本的な決別、転換が求められていると思います。
アメリカ流「金融立国」の破たん――これへの追随に未来はない
奥原 金融危機の発祥の地のアメリカ経済はたいへんなことになっていますね。
志位 アメリカは「金融立国」路線をつき進んできたわけですが、アメリカ経済を調べてみてびっくりしたのは、企業のもうけの約50%が金融業のもうけになっていたのです。これは驚くべき比率です。
この50%のうち三十数%は金融機関がもうけてきたわけですが、残りの十数%は巨大自動車企業のGM(ゼネラル・モーターズ)など多国籍企業が、金融業に乗り出して稼ぎ出したもうけでした。こうしてモノづくりができなくなり、金融業が経済の中心を占めるにいたった。中心を占めていた金融が破たんすると、後には何も残らなくなってきます。
GMがたいへんな経営危機です。一言でいって、モノづくりを忘れて金融に頼ったツケが回ってきた結果だと思います。GMは、レンタカー向けに車を販売することは採算がとれないといって大幅に削減した。ハイブリッドカーも採算にあわないといって、研究開発費を減らした。研究開発費まで削って、株主に配当した。そして、GMACという金融子会社をつくって金融業に乗り出した。製造部門での赤字を、金融部門での黒字で埋めて、何とかやり繰りする企業になっていきました。ところが頼みの金融部門がサブプライムローンなどで巨額の損を出した。そこからどうにもならない経営危機に陥っているのです。
こうしたアメリカ流「金融立国」を日本にも輸入しようとしたのが、橋本内閣以来の「金融ビッグバン」路線でした。それに未来がないことは、アメリカの現実が証明しました。ここでもアメリカ追随からの抜本的な転換が求められています。
金融規制への転換、ドル支配の終えんの始まり
大内田 そういう「カジノ資本主義」は、やっぱりなんらかの規制が必要ではないかという声が世界でも起こっていますね。
志位 資本主義の枠内でも、規制の方向に進まなくてはならないし、進まざるを得ないと思いますね。昨年の十一月十五日の世界二十カ国・地域(G20)首脳会議は、その方向性を打ち出したと思います。
一つは、金融の規制強化の方向がはっきり打ち出された。いま一つは、国際金融機関を、アメリカ中心の機関から途上国と新興国とがより大きな発言権と代表権を持つ機関へと改革するという方向が打ち出された。もちろん具体化はこれからですし、それは簡単ではないと思うけれど、一つの大きな転換が国際的に起こったことは間違いないと思います。
大内田 そうですね。
志位 アメリカは、IMF(国際通貨基金)や世界銀行を使って、新自由主義、金融自由化路線を世界中に押し付けてきました。ドルを世界基軸通貨としてその特権のうえにあぐらをかき、世界中の富を吸い上げてきました。しかし、そうした経済覇権主義が、本家のアメリカで大破たんをとげ、世界でいよいよ通用しなくなった。ドル支配体制の終えんが始まった。これがいまの世界だと思います。
平和でも経済でも、世界の力関係が大きく変わっている
奥原 アメリカの軍事的な覇権主義も破たんに直面していますね。
志位 そうです。イラク戦争の失敗が大きいですね。ああいう先制攻撃戦略、国連憲章を無視した無法な戦略が、アメリカ国民からもノーの審判を突きつけられて、破たんした。歴史の審判が下ったといえます。オバマ新政権がどういう政策をとるかは、いまいうことはできないけれども、「ブッシュ路線ノー」に示された民意に背いた行動をすることは、なかなかできないだろうと思います。
大内田 昨年暮れには、中南米・カリブ海三十三カ国の首脳会議が開かれました。
志位 これは画期的な動きだと思います。私は、昨年の「党旗びらき」で、東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心としてつくられた東南アジア友好協力条約(TAC)が大きく広がったという話をしました。この流れは二十五カ国、地球人口の57%を擁するまでに広がっています。
これはユーラシア大陸での動きですが、昨年十二月十六日と十七日にブラジルで開かれた中南米・カリブ海諸国首脳会議には、アメリカとカナダを除く、南北アメリカ大陸の全部の国が集まったんですね。そして、中南米・カリブ海諸国機構を二〇一〇年二月に立ち上げるということを決めた。この動きもまた、紛争の平和解決、主権尊重、国連憲章を土台とした平和で民主的な国際関係をめざしています。TACの広がりと共通するような流れが南北アメリカ大陸で起こっているわけです。
昨年一年間を振り返ってみると、平和でも、経済でも、進歩の方向に世界の力関係が大きく変わっている。世界金融危機のもとでの深刻な困難という問題がありますが、危機のもとでも進歩への歩みを進めている。世界もまた大きな転換点にありますね。
奥原 そういうなかで日本外交のあり方が問われますね。
志位 それだけ世界が変わっているときに、まったく世界がみえないで、軍事でも、経済でも、いまだにアメリカに言われるままにやっていればいいという政治は、もう先はありませんね。ここでも政治の中身の大きな転換が必要だと思います。
「資本主義の限界」と未来社会への展望
(写真)村ではじめて行われた共産党演説会=昨年10月6日、岐阜県白川村 |
奥原 昨年は、世界でも、日本でも、「資本主義の限界を問う」という問題意識が急速に広がってきた一年でした。委員長ご自身、去年一年間、テレビ、雑誌をはじめいろんなメディアで、このテーマに答える機会が多かったですね。
志位 そうでしたね。十八年前に旧ソ連が崩壊したときは、「資本主義万歳」論が横行したものでした。テレビに出ても苦労が多かったですね(笑い)。「小泉改革」が「全盛期」のときにも、こんなテーマはあまり考えられませんでした。ずいぶんな様変わりですね。(笑い)
奥原 大きく時代が動いてきたなと思います。しかもその動き方が、ずいぶんと速いような感じがします。
投機マネーの問題から「資本主義の限界」を考える
志位 自民党政治が行き詰まっているという話をしましたが、資本主義体制そのものが、二十一世紀という歴史的視野でみると深刻な行き詰まりにつきあたり、それを乗り越える新しい社会への発展が求められる時代に入ったということを痛感する一年でした。
私は、五月に、テレビ朝日の番組に出演したさい、貧困、投機、環境破壊という三つの大問題で、「資本主義の限界」が問われていると話しました。もちろん、それぞれの問題について、まず資本主義の枠内で解決のための緊急の努力が求められることは論をまちません。同時に、その根本的解決は、資本主義の枠内ではなかなか難しいのではないかということも、多くの方が感じはじめていることではないでしょうか。
私は、昨年はずいぶんと経済界の方々とも話す機会がありましたが、わけても怪物のように膨れ上がった投機マネーの問題は、「資本主義の限界」を多くの人々に真剣に考えさせる一番の問題となっているように思います。
さきほどものべたように、過度な投機の規制は、まず資本主義の枠内でも緊急に必要ですし、ヘッジファンドの規制や、投機マネーへの課税など、一定の規制は可能でしょう。同時に、その努力をつくしたとしても、世界で百兆ドルものお金が余っている問題が解決できるでしょうか。私は、根本的解決は難しいと思います。
大内田 お金が余っているなら、世界の貧しい人々のために使えばよいと思うのですけれども。(笑い)
志位 そのとおりなのですが、それがなかなかできない。その根本的理由は、余っているお金が、たんなるお金ではなく、貨幣資本だからです。貨幣資本というのは、つねにどこかに投資して、利子を生みつづけなければなりません。ところが、百兆ドルもの貨幣資本を、安定的に、また健全な形で投資でき、利子を生みつづけるような投資先は、世界のどこにもみあたりません。そこから過度の投機――バブルが繰り返され、バブルは必ず破たんします。私は、そこにまさに「資本主義の限界」が存在するし、この問題の解決のためには経済システムの根本的な変革が必要だと考えています。
貧困、投機、環境破壊など、二十一世紀に、人類社会に提起されているさまざまな問題を、まずは資本主義の枠内でもギリギリのところまで解決をする努力をするなかで、その次の社会への展望が見えてくる。私たちの綱領がさし示す未来社会――社会主義・共産主義の社会への条件が熟してくるというのが二十一世紀ではないかと考えています。
品川正治さんとの「響き合い対談」を振り返って
奥原 ちょうど一年前の、委員長と品川(正治)さん(経済同友会終身幹事)の「響き合い対談」で、品川さんが最後に「私なんかも日常使わない言葉ですが、『新しい社会主義』ということを考えざるをえなくなるんですね」という発言をされて、大きな反響を呼びました。
志位 品川さんのご発言は、非常な卓見を示したと思いますね。この一年、世界金融危機という問題が起こって、それを通して「ルールなき資本主義」の残酷さが浮き彫りになりました。同時に、それにとどまらないで、資本主義というシステムの限界も、よりよく見通せるようになった。多くの方々から「資本主義でやっていけるのか」という問いかけが聞こえてくるようになりました。
大内田 綱領の未来社会論を大いに語っていける時代ですね。
志位 そうですね。綱領で掲げている未来社会、自由で平等な人間関係からなる共同社会をつくるという展望を、胸を張って語っていきたい。日本共産党という党名を高く掲げて頑張りたいと思います。
国民の期待にこたえ、総選挙で必ず前進・躍進を
奥原 党活動でも、去年一年は画期的な一年になったと思います。共産党の党勢拡大が相次いでメディアのニュースになりました。こんなことは前例のないことですね。(笑い)
志位 全党のみなさんの奮闘によってつくった前向きの流れは画期的といっていいと思います。
何といっても冒頭お話ししたように、国民のたたかいがあらゆる分野で豊かに広がった。どこでも日本共産党が草の根でたたかいを支え、連帯しているということは素晴らしい変化です。
綱領を語り、日本の前途を語り合うという「大運動」が、大きな規模で広がって、党支部などが開いた「集い」の参加者が五十七万人にもなった。屋内の演説会を含めますと百万人を超えました。これも、画期的なことです。
党勢拡大でも、いろいろなことを多面的・総合的にやりながら、ずいぶんと苦労もしながら、前進の流れをつくってきた。今年は、もっと飛躍させたいと思います。そういう活動を支えてくれた同志のみなさんや、支持者のみなさんに、心からの感謝を申し上げたいと思います。
奥原 今年は麻生さんや自民党がどれだけ逃げたくても、総選挙がやってきます。ここで前進することが国民のみなさんに対する責任だと思います。
大内田 本部にこんなメールも届きました。「経団連会長に対する志位委員長の要求書」を「しんぶん赤旗」で何度も繰り返し読んだという方です。
「私は党外の人間ですが、この党をもっともっと大きくしなければなりません。生きるために大きくしなければなりません。大多数の国民にとっても、それしか生きる方法はありません。どのような政治的立場も関係がありません。この党は政治的立場で動いているのではないのだ。あらゆる国民の苦しみに寄り添って、その苦しみを一歩でも二歩でも取り除くために決して口にすることもなく、同じ苦しみのなかで奮闘している」
ほんとうにこういう気持ちに応えたいですね。
志位 胸が熱くなる期待の声です。総選挙で前進・躍進することは、国民にたいする責任だということを強く感じます。私自身、去年一年間、いろいろなたたかいを全党のみなさんといっしょにやってくるなかで、「何としても勝ってくれ」という激励の声をたくさんいただきました。こういう方々の期待を考えても、いまの国民の苦難を考えても、日本の針路を考えても、さらに世界のなかでの日本の果たすべき役割を考えても、日本共産党が前進・躍進することは国民にたいする責任だと心得て頑張り抜きたいと決意しています。どうか「しんぶん赤旗」読者のみなさんのご支持・ご支援をよろしくお願いいたします。
奥原 歴史の新しいとびらを、国民のみなさんといっしょに開く年にしたいと思います。
志位 そういうつもりで頑張ります。
奥原、大内田 ありがとうございました。