外需頼みのもろさがあらわれた――内需主導に軸足の転換を
奥原 もう一つ異常だと思われるのは、トヨタをはじめとした自動車、それから電機メーカーが直前まではものすごいもうけをしていたのが、どかんと落ちたでしょう。景気の落ち方もあまりに速い。いったいどうしてと思っている人も多いと思いますが。
志位 どうしてここまで急降下するかということを考えますと、日本経済が異常な外需頼みの経済になっている。新自由主義の経済路線が、一部の輸出大企業の「国際競争力」を高めるのだと、税金はまけてやるなど、あらゆる応援をやった。それで外需はものすごく伸びたけれども、そのもうけは勤労者にまわらなかった。逆に勤労者の所得は毎年減っていく。そこに社会保障の切り捨てと庶民増税が追い打ちをかける。内需を踏みつけにしながら外需で稼ぐという異常にいびつな経済を、新自由主義はつくってしまったのです。外需頼みの経済はたいへんにもろい。外国の経済がだめになったらいっぺんにだめになるわけです。
トヨタやホンダなど個々の企業体をみても、海外売上高比率が七割から九割という外国頼みの企業になってしまった。外国とくにアメリカ経済がだめになると、急激に収益が落ちるというもろい経営体質になってしまっている。
こういう道には未来がありません。この経済のゆがみやもろさを解決しようと思ったら外需頼みから内需主導に経済の軸足を切り替えなければならない。安定した雇用、安心できる社会保障、農業の再生という方向に、切り替えることがいよいよ大切になっています。
「世界同時不況」というが、日本と欧州では現れ方が違う
大内田 もう一つ、こういう経済危機のときに政治がどう対応するかはとても大事だと思うんです。最近フランスのサルコジさん(大統領)が大企業に乗り込んだりして、けっこう頼もしく見えます(笑い)。フランスだけでなく、スペインもドイツも労働者を守るシステムがわりあいによく出来ていると思うんです。
志位 サルコジ大統領は、昨年九月の国連総会で、投機への規制を訴えて、「ルールある資本主義をともに再構築しよう」といった。これは日本共産党と共通するスローガンですよね。(笑い)
ヨーロッパでも大企業は経済危機を口実にリストラ計画を進めています。しかし、かなり強力な解雇規制の法的枠組みがあります。そして、政治がどう対応するかでは日本とは雲泥の差があります。政府が直接乗り出していって、リストラをやめさせるわけです。フランスでルノーがリストラ計画を出したときに、ボキエ雇用相が「ルノーのような巨大企業グループは、資産を持っているのだし、こんなリストラやるのは論外だ」といってやめさせる。
大内田 志位さんが言ったセリフと同じですね。(笑い)
志位 ほんとうは政府がやるべき仕事なんですね(笑い)。スペインで日産バルセロナ工場がリストラ計画を進めようとしたときには、セバスチャン産業商務相が解雇計画の撤回を求め、撤回させている。どうしてそういうことができるのかと調べてみますと、ヨーロッパの場合は、労使の関係に、政治が必要に応じて介入できる仕掛けが制度としてあるわけです。だから、個々の紛争事項についても、必要に応じて政府が企業に直接モノを言えるわけです。日本にはそういうルールがない。政府にはやる気もない。
もう一つ社会全体が、こういう場合に雇用を守る仕組みを整えている。たとえば、ドイツの場合、ダイムラーなどの自動車会社が、生産調整をどういうやり方でやるかというと、操業短縮です。その場合、労働者は一年六カ月まで操業短縮手当が出ます。企業と連邦政府が出すわけです。
奥原 給料も九割ぐらい保障しますよね。
志位 そうですね。それから、テレビで特集していましたが、オランダの場合は、派遣労働者で解雇になったとしても失業保険が三年間ですよ(「ほーっ」)。だから、テレビのインタビューでも、労働者が「まったく不安ありません」と言っていました。「世界同時不況」とよくいわれるけれど、その現れ方は、日本みたいな「ルールなき資本主義」の国と、暮らしを守るルールがある国では、ぜんぜん違うのですね。日本ではものすごく残酷な形で現れる。
新自由主義を推進してきた人からも「懺悔の書」が
奥原 日本でも吹き荒れた新自由主義路線では、二〇〇一年以降の小泉「構造改革」路線がとくにひどかったですね。日本共産党と「しんぶん赤旗」は、これが始まった当初から、こんな路線で突っ走ったら、どんなにひどい社会になっていくかを警告しつづけました。いま、それが無残な形で破たんしているもとで、それを推進した側の人たちからも、深刻な反省の弁がでています。
志位 最近読んだなかで面白かったのは、中谷巌さんという、小渕内閣の「経済戦略会議」の議長代理を務めた、「構造改革」の急先鋒(せんぽう)だった人が書いた『資本主義はなぜ自壊したのか』です。この本は「自戒の念を込めて書かれた『懺悔(ざんげ)の書』でもある」ということをいって、「グローバル資本主義は、世界経済活性化の切り札であると同時に、世界経済の不安定化、所得や富の格差拡大、地球環境破壊など、人間社会にさまざまな『負の効果』をもたらす主犯人でもある」「規律によって制御されない『自由』の拡大は、資本主義そのものを自壊させることになるだろう」といっています。新自由主義を進めた人々のなかからもそういう声が起こっていることは、この路線の破たんを象徴するものです。
奥原 「ルールある経済社会」という主張がピタッとくる新しい状況ですね。
志位 そうですね。私たちの綱領で「ルールなき資本主義」を正そう、「ルールある経済社会」をつくろうといってきたわけですが、ちょっと前まではマスメディアの方と話していても、「何を言っているのか」とピンとこないという感じがあったんです。ところが、去年はテレビなどに出ても、「ルールなき資本主義」とは何かということを司会者から聞いてくる。ある新聞では「『ルールある資本主義』訴え、働く貧困層が共感」という記事を載せました。
新自由主義は、内にあっては、貧困と格差、人間「使い捨て」という異常な非人間的社会をつくってしまった。外にあっては、新自由主義の総本山だったアメリカが無残な経済破たんを遂げた。この両方をみて、やっぱりこれは先がないということになってきた。
そういうなかで私たちの綱領の掲げている「ルールなき資本主義」を正せ、「ルールある経済社会」をつくれという主張が、社会のなかにすーっと入っていく状況、多くの国民のみなさんに共感をもって受け止められる状況が生まれているのだと思います。
「二大政党」の現状と日本共産党の立場
国民の生活苦のなかで、党略だけの政治は見放される
(写真)日本経団連の田中清専務理事に雇用問題で要求する志位和夫委員長(左から2人目)=昨年12月18日、東京都内のホテル |
奥原 ところで、麻生・自公政権ですが、どこから見ても、末期状態といいますか、どこに打開の道を求めていいかもわからない状態に陥っていますね。
志位 そうですね。私は、福田内閣が安倍内閣に続いて政権投げ出しをやったときに、「自公政治は政治的解体状況だ」といったんですけれども、いまや「漂流状態」という感じですね。内外の問題に何ひとつ対応ができなくなっている。
昨年の臨時国会では、まず正体を隠したまま冒頭解散をやろうとしたけれど、うまくいかなくなった。「政局より政策だ」といって出してきた「景気対策」の目玉にしようとした二兆円の「給付金」はごうごうたる非難で、「目玉」どころか致命傷になってしまった。そこに、首相自身の資質を疑わせるような「諸問題」が生まれて(笑い)、街ではもっぱらその言葉が使われています。
奥原 未曽有の事態が…。(爆笑)
志位 将棋でいえば、詰んでいるのがこの政権です。それでも延命したいという党略だけで動いている。
大内田 そのなかでも、いまの事態を少しでも打開するためにと、麻生首相とも直接、党首会談をされましたね。
志位 私たちは、この政権への対応では、二つが大事だと思っているのです。一つは、政権がだれであれ、国民は生活苦の真っただ中にいるわけですから、国民の暮らしを現実に守るための最大限の努力をするということです。いま一つは、国会論戦と国民のたたかいで解散・総選挙に追い詰めていくということです。国民の暮らしを守るための真剣な努力をやらないで、党略だけに走ったら、国民から政治は見放されます。この両面が大事だと思います。
大企業にモノが言える党か、モノを言われる党か
奥原 その点で、昨年の臨時国会での民主党の対応はひどかったですね。
志位 そうですね。最終盤に民主党は雇用対策法案を出してきました。あの法案には前向きの要素もあった。だったら、与野党がよく協議して、一致点で成立させたらいいじゃないですか。日本共産党は、自公と民主の両方にそうよびかけ、最後まで実らせるための努力をつづけたけれども、民主党は、参議院では強行採決、衆議院では自分の出した法案を否決させる。自公の「無策ぶり」をあぶりだすための道具に使った。雇用という人間の命と生活の土台にかかわる問題を党略でもてあそんだ。この態度には強い怒りを感じます。
一方、民主党は、麻生政権に対する対応についても、私たちのように、正々堂々と国会論戦と国民のたたかいで追い込むという立場はないわけです。臨時国会の前半は、早く解散をやってくれ、何でも協力しますといって、第一次補正予算に賛成したり、新テロ法延長案の衆議院通過に協力してしまう。その党略がうまくいかなくなると、「二次補正予算案を出せ、出したら新テロ法延長案の成立に事実上協力する」という道理のない取引を言い出す。そして最後が、雇用問題を利用した党略でしょう。国民の深刻な生活の苦しみに心を寄せて、打開しようという姿勢がない、やっているのは党略だけというのは、自公も民主も「どっちもどっち」ですね。
大内田 閉会のさいの議員団総会のあいさつで委員長が言われた「大企業にモノが言える政党か、モノを言われる政党か」(笑い)というフレーズがとても印象に残りました。
志位 あの議員団総会は、トヨタとの会談を終えた直後で、心底そう思って話しました(笑い)。考えてみると、大企業に堂々と何でも自由にモノが言える共産党と、大企業にいろいろと指図されて、通信簿をつけてもらって、献金をあっせんしてもらっている、自民、民主という「二大政党」の流れと、結局二つに分けられる。これはとても簡単な分類法です。(笑い)
「二大政党づくり」――批判とともに「共産党は何をする党か」を広く伝
えて
奥原 この数年、メディアの中でも「自民か民主か」、二者択一を迫るようなキャンペーンが吹き荒れました。それを見る世論の目にも変化が生まれているという気がするんですが…。
志位 「自民か、民主か」という二者択一を国民に強制し、共産党を選択肢の外に置くという、手ごわい反共シフトがこの数年やられています。しかし、それがなかなか思い通りに機能しない面もある。「麻生さんと小沢さんとどっちが首相にふさわしいか」と聞くと、「どっちもダメ」というのが多数になりますね。
ただやはり、選挙が近づくにつれて、「二大政党」に染め上げていく力もまた働くでしょうから、頑張りくらべです。「二大政党」というけれど、アメリカいいなりと財界中心という「二つの政治悪」という点では、自民党はその担い手だし、民主党にもそれを変える立場はない。
そこを批判すると同時に、「共産党は何をする党か」をうんと積極的に打ち出していくことが大切だと思っています。「『ルールなき資本主義』を正す」、「アメリカいいなりをやめる」という太い線とともに、それを具体化した政策、さらに行動が大切です。共産党はどういう日本をめざしているのか、そのためにどういう政策をだし、行動をしているのかというメッセージが広い国民に伝わってこそ、「二大政党づくり」という仕掛けを打ち破って、共産党が前進・躍進できる。
「二大政党づくり」とのたたかいは、何回かの国政選挙で取り組んできたけれど、知恵と力をつくして頑張り抜けば、これを打破して共産党が前進・躍進できる手ごたえのようなものを、昨年一年のたたかいでつくったように思います。