「彼らのカメラが恐怖」…日本の差別主義者に狙われるクルド人
「彼らに写真を撮られる時、まるで銃を向けられているように恐怖を感じます」
今月4日、日本の首都圏に位置する埼玉県の蕨のあるレストランでハンギョレの取材に応じたクルド人の市民はこう語った。会話中も周囲を見回して警戒が緩められない様子から、彼が感じている恐怖が伝わってきた。蕨は東京の中心部から直線距離で20キロほどの地域だ。この地では最近、ごく少数の日本人差別主義者がクルド人を集中的に狙って、深刻な「ヘイト行為」をおこなっている。
この地域で働いたり暮らしたりしているクルド人の様子を無断で動画や写真に撮り、「不法滞在者」、「犯罪者」というレッテルを貼ってインターネットにあげるのだ。「犯罪組織とかかわっている」とか「この地域では殺人事件が相次いでいる」という事実無根の主張だけでなく、「クルド人が日本を占領しようとしている」というとんでもないうわさまで広めている。生徒や子どもも彼らの「標的」だ。商店に買い物に行く子どもの写真を撮って、「店で物を盗んでいる」という「フェイクニュース」をSNSで拡散したりもする。地域の役所に無差別に電話をかけ、「クルド人を追い出せ」、「なぜクルド人に税金を使うのか」などと言って業務を困難にし、「これらはすべてクルド人のせい」だとの認識が抱かれるよう誘導したりもする。
この日訪ねた蕨は、平凡なクルド人と日本人が仲良く暮らす静かで平和な空間だった。しかし同地は、差別主義者が集会を行うたびに「ヘイトスピーチ」が飛び交う無法地帯となる。彼らは月に1、2回、日の丸と旭日旗を掲げて「自爆テロ団体を支援するクルド協会は日本から出て行け」、「日本人殺害を予告したクルド人を逮捕せよ」などと記された横断幕を手に騒動を繰り返している。抗議するクルド人たちと激しい言い争いが生じることもある。ヘイトデモを主導する人々は、かつて在日コリアンや中国人に対してヘイトスピーチをおこなっていた人々だという。刑事処罰されるような違法行為は表沙汰にならないため、警察はほぼ彼らを止めない。それでも有志の日本人が自発的に立ち上がり、外国人ヘイトデモを身をもって防ぐ「カウンター(対抗活動)」でクルド人を支援している。
ヘイト集会を主導しているのは10人前後に過ぎないが、彼らの主張はオンラインで再生産され、根拠のない外国人ヘイトを拡散させている。特にユーチューブとSNSは、差別主義者たちが在日クルド人に関するフェイクニュースを広める温床になっている。「自分の国に帰れ」といったヘイト表現だけでなく、「クルド人を狩ろう」のような残忍な発言もためらわない。悪質なユーチューバーがクルド人の経営する飲食店に押しかけ、無分別に動画を撮ったり、蕨の街中で根拠もなくクルド人を非難しながら「生中継」したりすることもある。
クルド人は「国を持たない最大の単一民族」として有名だ。現在はイラン、イラク、シリアなどの中東地域に3300万人あまりが互いに異なる国籍を持って散り散りに暮らしていると推定される。トルコには1700万人ほどが住んでおり、中東各国はクルド人の分離独立の動きを極度に警戒している。
クルド人が日本の埼玉県に本格的に移住しはじめたのは1990年代初めごろ。クルド人を異邦人扱いして差別が激しかったトルコからは、特に多くの人が渡ってきた。日本の短期滞在ビザ免除制度を利用して蕨に定着し、その後、「難民認定」を要求しながら暮らしてきた人が多い。言語が似ているイラン人がすでに定着している地域だったため、手助けを受けることができたことが、多くのクルド人が蕨に定着した要因のひとつだ。東京近郊であるため仕事があり、しかも物価が安いことが理由でもある。彼らの多くは、日本人が避けたがる建物の解体や廃棄物処理などの、きつい仕事に従事している。彼らは「東京近郊の建物解体の70%ほどは外国人労働者が担っていると思う」と語る。
しかし差別主義者たちは、クルド人の運転する廃棄物を積んだトラックを「クルド自動車」、「違法車両」などと蔑視するという。韓国人、中国人に対しておこなっていた露骨な差別をクルド人に対して繰り返しているのだ。蕨市の総人口は7万5千人ほどで、うちクルド人は2千人あまりと推定される。極右差別主義者は力なき少数民族を攻撃している。
クルド人がこの地域に集団居住しだしてから30年以上がたっているが、差別主義者の「標的」にされはじめてからはまだ2年もたっていない。匿名の別のクルド人市民は「突然差別が起きたことに、特別な理由はない」と言って、もどかしい胸の内を打ち明けた。
推定される契機は2023年6月の、連立与党を組む自民党と公明党が主導して可決させた「改正出入国管理法」だ。改正法は、難民認定審査中の外国人に対しても3回目の申請からは強制送還を可能にするという内容が骨子となっている。野党第一党の立憲民主党が「法案が可決されれば(難民申請者が)本国で投獄、拷問、虐殺される」、「命を奪う法案に反対する」として国会でもみ合いにまでなったが、可決され、同法は昨年6月に施行された。
改正法は内容そのものが問題だっただけでなく、別の深刻な問題を生んだ。日本社会で特に注目されることなく暮らしていたクルド人が改正出入国管理法の処理過程でマスコミに取り上げられたことで、差別主義者たちの「餌食」となってしまったのだ。2023年7月に起きた蕨でのクルド人同士のけんかが、火に油を注いだ。産経新聞がこの事案を扱った際に「トルコ国籍のクルド人の多くは祖国での差別や迫害などを理由に日本で難民申請しているが、認定された人はほとんどおらず、不法滞在の状態が続いている人も少なくない」と大々的に報道したのだ。
クルド人を支援する日本人の団体も攻撃の対象となっている。市民団体「在日クルド人と共に」には、電子メールで毎日のように「クルド人のせいで治安が悪化している」などとしてクルド人排斥を意味する脅迫や暴言が送られてくる。警察への通報もあまり役立っていない。ほとんどのメールは発信地が分からないようにしてあり、郵便で届いた手紙も偽の住所と名前が記されているのだ。出所が一部確認されたとしても、「特定の人物」ではなくクルド人という「民族」を丸ごと非難するものであるため、刑事処罰までには至っていない。
ごく少数の人種差別主義者が繰り広げる差別行為は、クルド人の日常へと広がっている。匿名のあるクルド人は「甥が学校で同じクラスの子たちに『クルド人は帰れ』と言われた。多くのクルド人が『今日はインターネットに自分の写真が載せられるのではないか』と心配している」と吐露した。
さいたま地裁は昨年11月、在日クルド人団体が申し立てていた「事務所近隣でのヘイトデモ禁止」の仮処分を認容したが、状況はあまり変わっていない。在日クルド人からなる「日本クルド文化協会」は、協会事務所そばで行われた人種差別主義者のデモに関連して、ヘイトスピーチに当たる行為をおこなった男性に対し、活動の禁止と550万円の損害賠償を求める訴訟をさいたま地裁に起こしたことを今月12日に明らかにした。同協会のチカン・ワッカス代表は「日本国内の少数民族と外国人が安心して暮らせる社会を目指したい」と語った。
日本政府に対し差別禁止法の制定を求める声や、地方自治体に対し条例の制定を求める声もあがっている。東京都はヘイトスピーチを禁止する条例を2019年に施行している。ただし処罰条項がないため、実効性に乏しいという批判を浴びている。在日同胞に対するヘイトスピーチが深刻だった川崎市は、2020年にヘイトスピーチに対して最高50万円の罰金を科せる条例を施行し、一定の効果をあげている。
日本国内のヘイト・差別問題を追跡してきたジャーナリストの安田浩一さんはハンギョレに、「日本の差別主義者の第一の標的は、かつては在日韓国人だったが、中国人、クルド人へと移ってきている」と指摘した。安田さんは「被害をこうむる民族は変わりうるが、フェイクニュースで結局は誰かがヘイトの被害をこうむるという構造そのものは変わらない。ヘイト行為を根本的に防ぐ制度的装置が早急に求められている」と語った。