銀行のロビーに、鬼の人形が展示されたいた。小物づくりの細かな芸である。この鬼にちなんで、山形に伝わる鬼が出てくる民話を紹介する。
爺に死なれた婆が団子をこしらえて供えようとするとネズミの穴に落ちこんだので、そのまま歩いていくと、地蔵さまがいて、うまそうだからといって団子を食ってしまった。地蔵さまに食べてもらってありがたいとおがんでいると、鬼がでてきて、決して粗末にしないかた島にきて飯炊きをしてくれ、といって鬼が島に連れていった。婆はそこで米がひとかき万倍に増えるヘラで飯をこしらえ、汁を煮た。
鬼たちは、うまい飯を炊いてくれるのでよろこび婆を大事に扱った。だが、なんぼ鬼どもから大事にされても、やっぱり人間が恋しくなるし、自分の住んでいた村がなつかしくなり、
『もう手伝いはよかんべ。村さかえしてくれ。』と、鬼どもに頼んだがなかなか帰してくれなかったど。婆の心には、望郷のおもいがふつふつとわき、ついにその島を逃げ出した。手には、万倍のヘラを持っていた。
追ってきた鬼どもにつかまりそうになったが、川があり小舟もあったので、それに乗り、ひとかき万倍のヘラで漕ぐと、川水が万倍にふくれあがり、水は逆流して鬼が島も水浸しになってしまい、鬼も追うのをあきらめた。婆は借りたヘラを地蔵の渡すが、地蔵はそのヘラをやるから、困った人を助けてやれ、言ってヘラを渡した。婆はそのヘラで食べものもない人たちに米を万倍にして食べさせたのでたいはんありがたがられた。
ロビーの鬼は、婆から逃げられて嘆いているような感じにできている。民話の世界では、鬼は人間世界のすぐ近くの隣人である。人間を困らせるようなことはしないのである。