冬に登った山を季節を変えて登るのはまた興味深い。一面の雪景色であった山形神室が、目に鮮やかな緑におおわれている景色に変化しているのを見ながら、涙が出るような感動に心を揺さぶられる。何回も目にしている光景なのだが、見るたびに新鮮である。考えてみれば年1、2回では季節も違えば気候も違う。同じ光景であるはづがないのだ。
この日、好天と週末がかさなって、多くの人がこの山に足を運んだ。向かいの雁戸に登った人もいるだろうが、二つの駐車場に車があふれ、道路に縦列の駐車が並んだ。これだけ多くの人と山道で交差するのは、ちょっと珍しいことだ。山ガールのカップル、愛犬を連れた家族、小学生を連れた家族連れ、津波のあった宮城の亘理町から来たご夫婦など多彩な顔ぶれである。
登った道を振り返ると蔵王の山頂に残雪が見える。亘理からきたご夫婦は家を流され、仮設住宅に住んでいるという。「毎日歩くのが一番ですよ」といいながら、背負ってきたテント地のリュックサックを見せてくれた。ここは寝袋、この脇のビール、ここに食料と説明してくれる。背にはパイプが施されていて加重を分散させている。
山道で高山の花に会う。アヅマギクの小群落の次は、チゴユリ、シラネアオイとその植物の好む環境で咲いている。花畑の大群落というわけにはいかないが、その花を探したり、物知りの人に花の名を教えて貰うのも興味深い。この時期にここに来るのは、タケノコ狩りがもうひとつの目的である。班を二つに分け、タケノコ班と登山班に分かれる。山形工業高校の山小屋を借りて、タケノコ汁を作る。初夏の初物を満喫する。
チゴユリの可憐な花が好きだ。その次に現われるのがキジムシロ。初夏の山形神室は小さな花が散りばめられた尾根道が懐かしい。この3月に来たときは、切り落ちる尾根道に巨大な雪庇が風の吹く方向へ伸びていた。踏み外さないないように内側にステップを切りながら登ったことを考える。雪のない道では、地形がはっきりと分る。ここから滑落すればやはり大事故になる。