梅雨の季節であるのに少雨である。6月に入って、畑に雨が降ったのは2回のみ。ふと散歩道にあるサクランボの木に実がピンク色になっていた。季節は確実に進んでいる。
6月10日は時の記念日である。この日が近づくと、桜桃のが熟れはじめ、ピンクや赤の美しく色づきはじめる。時の記念日といっても、一般にはあまり関係もないようだ。なぜこの記念日を知っているかといえば、広告会社に勤めたばかりのころ、「6月10日は時の記念日」というタイトルをつけて、時計屋さんにセールスに行ったからだ。
20歳そこそこの新入社員には、大きい老舗の時計店は相手にしてくれない。新規で店を始めたばかりの若い時計屋さんが、「うちがこの企画に乗ってやる」と心よく賛同してくれた。山形市内の時計屋さんを4軒集める予定であったが、どしても2軒しか集まらない。そこで若いご主人に訳を話すと、「よろしい、うちが3枠とろう」ということで、はじめての企画ができあがり、6月10日の新聞紙面に掲載された。職人気質の気風のいい若主人は、初対面の若者に肩入れをしてくれた。そんな雰囲気が昭和30年代の山形の街角にはあった。
ところで時計といえば、スイスのジュネーブということになるが、なぜここが伝統の時計の町になったのか。記録によると、1449年にはジュネーブには時計職人はたった一人しかいなかった。ところが、宗教改革の嵐のなかで、プロテスタントの移住が起こった。ジュネーブでは、プロテスタントに寛容で門戸を開いていたため、プロテスタントの時計職人が次々と移住してきた。1680年には時計職人の親方が100人になり、従事する職人は300人を超えた。
当時の時計生産は年間5000個であったが、100年後の18世紀末には8万個となり、時計生産の国としてその地位を確立したのである。時の記念日は大正9年に制定されたが、これはスイスとは関係なく、天智天皇が671年の6月10日に始めて水時計を使ったという記録による。