山仲間のTさんの飼い猫である。玄関のまえで首に紐をつけられておとなしくしている。カメラを向けると「ニャー」と声を出し、カメラ目線になった。Tさんの猫は虎ではないが、お寺の年寄り和尚に飼われていた虎猫の話がある。飼い主の和尚に恩返しをする話だ。寺はもう訪れる人もなく、世間からも忘れられた存在だった。
ある日、猫が急に人間の言葉で、和尚に言った。
「ながい事お世話になったので、なにかお礼をしたい。庄屋の娘が死にそうだ。葬式のときオレがお棺を宙に引き上げるから、和尚さまが、虎ヤー虎ヤーとお経をあげてケロ・・」
まもなく庄屋の娘が死に、庄屋は村中の和尚と法印を集めて葬式を出した。
野辺送りの途中、村はずれの大木の下まで来ると、棺がスルスルと宙に引き上げられて、どうしてもおりてこなくなった。和尚や法印がさかんに読経を続けたが、棺はおりてこなかった。困りきった庄屋は、山の和尚にだけ案内を出さなかった事を思い出した。早速、使いを出して和尚に出向いてもらうことにした。
山の和尚はそこへ来て、もったいぶって
「なむからたんの虎ヤーヤー」
「なむからたんの虎ヤーヤー」とお経をよんだ。すると、棺はスルスルとおりてきて行列を続けることができた。ほかの大勢の和尚や法印は、まがわるそうに一人逃げ二人逃げして、いなくなってしまった。
庄屋は和尚をありがたがり、うやまい尊ぶことかぎりがなかった。山の和尚は、以後、庄屋の仏供で大きな寺を建て、安泰にくらした。