入梅はまだだが、梅の実は太って大きくなった。梅酒を作るにも、この青い梅を利用する。梅干の梅は、半夏生のころの少し黄ばんだものを用いる。万葉集に、梅の実がなるころに、結婚したいと申しいれる歌がある。
妹が家に咲きたる花の梅の花 実にしなりなばかもかくもせむ 万葉集399
藤原前房の三番目の子、八束が少女の母に結婚を申し込む歌である。あなたの庭に咲いている梅の花、その花が実になったときは、どのようにも思うままにしたいと、思います。ややぶしつけの感じのする歌だが、宮中の高官の息子であれば、結婚の申し込みもこのようなものだったのかと、想像する。
もう梅の木の花は散り、実が大きくなった。この実を見て、八束はもはや少しの余裕も置かずに
待ちかねた結婚へとことを運んでいったのであろう。それにしても、花が散ってから、実がなるまでの時間は、長いようでもあるが、過ごしてみればあっという間である。