常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

羅生門カズラ

2015年06月15日 | 


村山市の山の内の林道から入った沢筋に、羅生門カズラの花に出合った。淡い薄紫の花の色がユニークだ。もちろん、その花の名も珍しい。羅生門といえば、平安京の中央大通りである朱雀大路に南端にある門のことである。飢饉で荒廃した京の都で、羅生門は朽ちて顧みる人もなく、死体を捨てる気味の悪い場所としてのイメージが強い。

芥川龍之介の短編小説『羅生門』は、荒廃し死体を捨てる場所となった羅生門が、物語の舞台である。働いていた家から暇を出された下人が、折からの雨を避けて、羅生門の屋根の下で途方にくれていた。明日からの食うべき手段もなく、盗人にでもならねば餓死してしまうと、考えていた下人が見たものは、死人の頭の毛を抜いて集める老婆の姿であった。

謡曲にも『羅生門』という演題がある。こちらは、羅生門に住む鬼の腕を豪傑の渡辺綱が切り取る話である。鬼は手を返して欲しいので、変化となって報復する。そのとき切り取った鬼の腕が
羅生門カズラの名の由来であるらしい。芥川の小説では、鬼は死体から髪の毛を抜き取る老婆である。逃げようとする老婆が下人と揉み合う場面がある。老婆の腕の描写がある。

「二人は死骸の中で、しばらく、無言のままつかみ合った。しかし勝敗は、はじめからわかっている。下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへ扭じ倒した。丁度、鶏の脚のような骨と皮ばかりの腕である。」
物語の結末は、下人が死体の髪を抜いていた老婆の着ていた衣類をそっくり剥ぎ取り、冷たい雨のなかへ、裸になった老婆を置き去りにする。

なぜ、こんな澄み切った薄紫の花が、老婆の、いや鬼の手になぞらえられたのか、道考えてもその理由が分からない。確かに花は細長い形ではあるが、鶏の脚のような、骨と皮ばかりの代物とは似ても似つかない。

コメント (2)
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