ダリア
2015年09月10日 | 花
ダリアの花を見ると亡くなった長兄を思い出す。敗戦で軍役を終えてきた長兄は、農家の後継ぎとしてどんな考えを持っていたのか、今となっては知る由もない。ただひとつ言えることは、農家の仕事の合間に、花を愛していたことだ。特にダリアを愛していた。その球根をどこで手に入れたのか、誰にも告げず、庭の片隅に植えて花を待った。花にはいつ施肥すべきか、どんな手入れが必要か。そんな知識も持っていたように思う。
敗戦後、日本中が食糧難にあえいでいた。花に目を向けるのは、家事の傍ら花を育てる時間を持っていた主婦か、その家の老人であった。若い時期から花を愛していた農家の長男というのは珍しい存在だったような気がする。花が終わり秋がくると、ダリアは球根が大きくなる。長兄はその球根を掘り起こして乾燥させ、もみ殻の入った袋に入れ、畑に深い穴を掘って大切に埋めた。ダリアの球根が、冬の寒さで凍ってしまうのを避けたのだ。
ダリア剪る生涯の妻足太し 清水 基吉
病弱であった長兄は、農家を早々にやめて、淋しい老後を送った。働き者の妻がその生命を支えてくれた。庭の片隅で作る花が、長兄の唯一の心の拠りどころであったように思う。時おり近所に住んでいた姉が、長兄の花を貰いに立ち寄った。長兄はどこかシャイな笑顔で花を剪って、新聞紙に包んで手渡していた。
長兄にダリアの球根は、毒を含んでいると教えられた。だがネットを見ると、ダリアはキク科で、ヤーコンやキクイモと同じ仲間であり、毒は含まれていないようだ。近年、食用にするダリアの研究も行われているらしい。