うさぎ うさぎ
なに見てはねる
十五夜お月さま
見てはねる
文部省唱歌に「うさぎ」というのがある。誰でも一度は歌ったことの童謡だ。ウサギと月にどんな関係があるのだろうか。月にはウサギがいて、餅つきをしているというのは、月のなかに見える影がウサギ餅つきをしているように見えるところからできた言い伝えである。
舒明天皇の時代、山伏の元祖、仙人ともいわれた役子角という人がいた。実在の人物なのだが、怨霊を鎮めたり、難病を治したりする特殊な能力を持っていたために、伝説的な言い伝えも多い人物である。例えば、生まれてすぐに字を書き、母に捨てられたが、乳も飲まずに育ち、犬や狼が馴れ従ったなどの話である。
役子角は仏道修行への思いが強く、修行時代には葛城山の頂上へ毎日のように登った。その先導をしたのが五色のウサギといわれている。ウサギには帝釈天も認めた聖性が備わっていた。伝説によると、あるところにウサギとキツネとサルが住んでいた。老人が病に罹り、死ぬばかりになって伏せていた。ウサギたちは相談して、山から木の実をとってきて老人に食べさせることにした。キツネとサルは色んな木の実を採ってきたが、ウサギは何も採れずに戻ってきた。
キツネとサルは約束を守らなかったウサギを責めた。ウサギは、もう一度山へ行って食べ物を採ってくるから火を焚いて待っていてくれ、と言って山へ入って行った。火を焚いてキツネとサルが待っていると、ウサギは戻ってきたが、食べ物は持っていない。どうしたか、と聞くと、うさぎは「私には、食べ物を採る力がありません。どうか私を食べてください」と言って、火の中に飛び込んで焼け死んだ。
老人は動物たちを試そうと思った帝釈天という神様であった。帝釈天はウサギの行いを憐み、月にその姿を残し、みんなの手本した。月にウサギ住むという伝説には、こんなウサギの美談がかくされている。私の撮った一五夜の月には、未熟でウサギの影は写せなかった。