蕎麦の花が咲き始めた。転作の田に植えられた蕎麦の花は、純白で美しい。たしか去年もこのブログで紹介したが、それを見た知人が花がきれいだと褒めてくれた。山里にしか見られなくなった蕎麦の花だが、減反ということで、近郊の農地で見かけられるようになった。
しなのぢやそばの白さもぞつとする 一茶
暖房が完備して冬を過ごすのも、それほど苦にしなくていい時代だが、一茶の冬は違った。この句は前書きに「老いの身は今から寒さも苦になりて」とある。信州、わけても一茶が生まれた柏原は雪深い。50歳を過ぎて一茶は、雪の降る生まれ故郷へ帰ってくるが、その印象を「是がまあつひの栖か雪五尺」と詠んでいる。この句の前書きには「柏原を死所と定めて」とある。一茶は蕎麦の花が一面に咲いている光景を雪景色に見立てているのだ。
ここへ帰るまで、一茶は自分の家というものを持たなかった。江戸にいるときは、長屋を借りたが、満足な暖房もない棲み処は、冬の寒さ身にしみた。江戸でさえ寒い冬が、信州の雪深い里ではさぞ厳しい寒さが待っているだろうと覚悟したのであろう。同じ光景を目にしても、人のおかれた条件によっては、まったく異なったものに見える。