高山では紅葉が始まった。ナナカマドの赤い実が秋を実感させる。シラビソの緑が混じり、全山の紅葉にはまだ間があるが、燃えるような錦繍の秋が待ち遠しい。種田山頭火の乞食行脚は、晩秋のなか、酒を飲み、紅葉を愛で、温泉で温まる日々であった。
「また造り酒屋で一杯ひつかけた、安くて多かったのはうれしかつた、そこからここまでの二里の山路はよかった、丘から丘へ、上るかと思へば下り、下るかと思へば上る、そして水の音、雑木紅葉ー私の最も好きな風景である、ずゐぶん急いだけれど、去年馴染みの此宿へ着いたのは、もう電灯がついてからだった、すぐ入浴、そして一杯、往生安楽国!
すこしさみしうしてこのはがきかく(元寛氏、時雨亭氏へ) 種田 山頭火」
こんな山頭火の日記を拾い読みしていると、自分の日々の過ごし方の好悪が、いかにも山頭火に似てきているような気がしてびっくりする。