山で秋を感じるものは、全山を彩る紅葉だが、その前にあちこちでつける赤い実もまた秋を実感させてくれる。見分けられるのは、ナナカマド、ガマズミ、ヤブコウジぐらいだが、まだまだたくさんの種類がある。図鑑を見れば、ウメモドキ、アキグミ、クコ、サンザシなどなど枚挙にいとまがない。
紅き実の一葉とどめずななかまど 水原秋桜子
山道で赤い実を見つけたあと、目を藪の下へむけると栗のイガが口を開けていた。実はすでにやぶのなかに落ちてしまったのか残っていないが、栗のイガににもいかにも秋の風情がある。台風が猛暑の夏を一気に秋の転じてしまったが、植物たちはそんな季節の巡りを先回りして、自分たちの子孫を残す営みに余念がない。
月読みの光を待ちてかへりませ山路は栗のいがの多きに 良寛
良寛は酒好きな人であった。五合庵に棲んだとき、造り酒屋の亭主、阿部定珍と親交を結んだ。良寛を尊敬した定珍は、庵を訪れては、酒やつまみを持参した。庵で酒を飲み、歌を作り、さまざまな話をして時を忘れることもあった。そんなおり、良寛が定珍に贈った歌である。山路の栗のいがでけがをしないようにと、夜道を慮った歌である。