畑に虫の音が、と書いてから20日以上が経った。夜、テーブルで夕飯を食べていると、締め切ったベランダから、ギギッ、ギギッという音が聞こえてきた。戸をあけ放つと、コロコロと甲高い声で鳴くコウロギであった。7階のベランダに緑のカーテンとしゃれて、ゴーヤを植えたので、その茂みを慕ってコウロギがきたらしい。静かな夜に、あまりに高い音に聞こえるので、階下や階上の人が迷惑するのでないかと思われるほどの鳴き声であった。茂みを手で揺すると、鳴き声がぴたりと止んだ。
きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしき独りかも寝む 西京極摂政太政大臣
百人一首に採られている歌だが、当時キリギリスというのは、今のコウロギであったらしい。大きくコロコロと鳴くのは、一番大きいエンマコウロギであると、ものの本には書かれている。ベランダのコウロギは鳴き止んで3分もしないうちにまた甲高く鳴きだした。ベランダで虫の音を聞くのも風流だと思い、しばらく戸を開けたままにしておいた。
中秋の名月が近づいている。散歩して歩く家の庭に、もう咲き終わりそうなクレマチスの花がきれいに咲いていた。畑に五月菜の種を撒きおえる。来春、あのほろ苦い五月菜を食べるためだ。ニンニクの芽の球根も埋め込んだ。あとは、ニラの植え替えをすばかりである。