紅葉が始まる少し前、秋の花々にアゲハチョウが来て、一瞬ではあるが春にも増したはなやかないろ見せるときがある。そんな時が好きだ。長い秋雨が続くと、こんなはなやかさも失われていく。もうすぐ失われてしまういう宿命を負って、懸命に、無駄な努力と知りながら、一瞬の演出を試みるのは、命を持つ者のさがなのであろうか。
吾妹児に恋ひつつあらずは秋萩の咲きて散りぬる花にあらましを 万葉集巻2・120
弓削皇子が紀皇女を偲んで詠んだ歌である。弓削皇子と紀皇女は天武天皇の子で、異母弟妹である。しかも紀皇女はすでに人妻であった。こんな思ってはいけない、人の道にかなわない恋を弓削皇子がしてしまったらしい。
あの子に恋焦がれてなんかおらずに、いっそのこと、秋萩のように咲いてはすぐ散る花であったほうがましだ、という気持ちを歌にこめた。秋の花にはそんなはかなさがつきまとっている。実際にこの天武天皇6番目の皇子は、699年、27歳の若さでこの世を去っている。皇子の思いを知ってか知らずか、皇子の死後、ほどなくしてこの世を去った。